勇者、修業する。
日本に到着してから2週間が経過した頃、ナツメの元に1通の手紙が届く。差出人は宗方だった。中身を確認すると達筆で書かれており
『暫くぶりでございます。宗方です。
此度の件の力添えとなれるかは約束出来ませぬが、老兵ながら皆様の為ご助力したく筆をとりました。もし必要であれば、武道館裏の山の頂にて待つ故、何卒お考えくだされ。』
宗方らしい誘いにナツメは感謝し、連日の訓練で疲れ果て死んだ様に眠っていた生徒達を起こし、一同は武道館裏へと向かった。
「…山ってこれだよな。」
ナツメ達が山に着くと、一同はまず体に感じる違和感に対し嫌な顔をする。
その違和感の正体は、この山を構成する『魔狩草』と『封魔の神木』によるものであった。この二つは魔力を吸収する触媒として扱われており、周囲の魔力を吸い取って成長する為魔法使い殺しとしても有名だった。
「こ、これは予想以上にきつい道になりそうだ。」
苦笑いをしつつナツメは歩き出す。すると生徒達は明らかに嫌そうな表情を見せつつもナツメに続いた。
山の標高自体はそこまで高くはなく、困難な道のりではないのだが道が獣道である事と陽の光を遮る木の為、足元がぬかるんだままであるのが唯一の課題だった。
「あぁ、燃やしたい。」
「凛音、なんか危ないぞその発言。」
周りの草に対し苛立つ凛音の頭を軽く叩き、落ち着かせる。それに対し子供扱いされたと思った凛音は
「がるるっ‼︎」
「何で吠える‼︎」
2人は少しじゃれ合いながら前へと進む。その様子を見て生徒達は溜め息をつきつつ
「親子にしか見えないわね。」
「というかこの道で走り回れるスタミナ何処からくるの…?」
「み、水…っ」
自分たちのペースを崩さず歩いていた。
その後も楽しそうに走り回る2人を遠目で見つつ全員が進むと、ある事に気づく。
「…先生、おかしいです。ここ先程から同じ道を通ってます。」
鈴蘭がナツメに言うと、ナツメ達は足を止め辺りを見渡す。
「確かに。ちょっと待ってろ。」
生徒達を止め、ナツメは走り出す。すると暫くした後生徒達の後ろに唐突に飛ばされ
「きゃぅっ⁈」
「す、すまん大丈夫か?」
「ふぁ、ふぁい…っ。」
最後尾にいた心菜とぶつかり、こけそうになった彼女を抱きしめてしまう。
「とりあえず、一度経路を調べるべきだ。多分迷路結界のようなもののはずだ。」
「せ、先生…っも、もう大丈夫ですから…っ離して貰わないと恥ずかしさで魔法が暴発しそうです…っ‼︎」
「お、おうすまない。」
このクラスでまともな心菜が危険分子になりかける前に彼女を離し、辺りに探知魔法を使う。同様に探知魔法を使える他の生徒達も辺りを探し始めた。
だが、数十分経っても経路は見えてこないままで、一度探知を止めて考え始める。
「こうなると厄介だ。迷宮結界の可能性がでてきた。」
「迷宮結界…?迷路と何が違うのですか?」
時丸の問いにナツメは説明を始める。
「迷路結界は正しい経路を進めば結界を突破せずとも進める。だが、迷宮結界の場合経路がない為結界の破壊を必要とするんだ。」
それを証明する為にナツメは足元の小石を上空に投げる。すると石はある程度の高さに到達した瞬間ナツメの足元に現れた。
「こうなるからな。そして迷路結界は正しい箇所を破壊しないと魔法も戻ってくる。そうなれば危険だ。だから探知ではなくこういう魔法を使うんだ。」
ナツメはまず周囲に複数の魔力源を配備しその内側に結界を張る。そして魔力源を結界と結界の間で爆発させる。すると、逃げ場のない魔力の奔流が内部で暴れ迷宮結界を破壊した。
「こんな感じだ。」
「絶対それ力技ですよね⁈」
ミリアムのツッコミを聞かないフリしてナツメは結界を解き前へ進む。すると、先程とは違い目の前に綺麗な景色が広がり始める。
「成功しちゃってるし…。けどそのやり方外からじゃ無理ですよね…。」
「外かどうか判断する為に上に小石を投げるんだ。普通に飛べば外。異変があれば中だ。」
「やっぱ力技じゃないですか…。」
呆れたように楓が聞くと更に力技の解答が来たので諦め、先に進んだ。
綺麗な景色が広がる所を進むと、広場がありその奥には更に坂道があった。すると、ナツメ達の元へ何かが飛来する。
「じじ様のお使いだ。この先の坂道にて待つ。この宗方刀奈を護衛し無事到達して見せよ。との事だ。」
それだけ言いナツメの肩に乗った少女ー刀奈は、はよ行けとばかりにナツメの頭をペシペシ叩く。それを見た桜は殺意を露わにしながら
「う、ウチでも肩車されたこと無いのに‼︎羨ましい‼︎死ね‼︎」
「護衛せよと言われた手前で殺そうとするなっ‼︎」
「お、お主の仲間ヤバいのぅ。」
ナツメの肩上でキュッと身を縮める刀奈。それに同意しつつナツメが歩き出すと、ぷーっと膨れながら桜が真後ろに続いた。その後他の生徒が続き、一同は坂道を登り始めた。