4-10
最初の会談から2週間が過ぎ、各国からの返事が届き始めた。なので、一同は一度会議室に集まる。
「では各国からの返答を聴こう。」
勿論、パシフィスタも参加し騒然たる面子になった。
「まずは日本政府だが…無論ナツメに協力だ。」
凛音が言うと、少しホッとした様な表情でパシフィスタが頷く。当事者である日本が断ると元も子もない形だからである。
次にルナが立ち上がり
「アメリカ政府からです。『勇者の逝く道を遮る理由などない。』との事です。」
それを聞きありがたいとパシフィスタは喜び、次にフランスからの返事をミリアムが行おうとした矢先
「フランスは勇者と共にあります。お久しぶりですね、ナツメ。」
「あ、あなたは…‼︎」
フランス国王にして風魔法の現最高権威、そして元魔王討伐精鋭部隊所属シルフィの母にしてミリアムの祖母にあたるセルベリア・L・オリンピア女王が直接現れた。
予想外の人物の登場にパシフィスタも驚きつつ
「これはフランス女帝。ご無沙汰しております。」
「これはこれは、イギリスの若き賢王。こちらこそ。」
二人は笑顔で握手を交わした。そしてナツメは驚きと再会の感動のあまり肩を震わせ
「セルベリア様…ッ‼︎ご健在で何よりです…‼︎シルフィ姉様の事は本当に…本当に己の力不足のせいで…ッ‼︎」
セルベリアの前で跪き、頭を垂らしたまま嗚咽交じりに謝る。するとセルベリアはナツメの肩に手を乗せ
「貴方はよく頑張りました。我が娘の無念を晴らし、世界に名を刻みました。シルフィも貴方の勇姿に天から喝采を与えているでしょう。」
優しく微笑みながら語りかける。
するとナツメはその言葉があまりにも嬉しかったのか、人目もはばからず涙を流す。その姿に全員が心を打たれ、改めて彼が勇み足で歩んだ茨の道の厳しさを感じ取った。
やがて、ナツメが落ち着いた頃にジェシカが話を切り出す。
「それでは最後に中国の方を聞きましょう。」
「理解。我父亲的观点是,保持的。」
春詠の言葉に一同は沈黙する。だが、これには理由があった。
「因为,如果在这里透露的合作,因为我们的国家,如果俄罗斯反对第一次攻击。」
続けて言った妃の言葉で納得する。ロシアの魔法軍隊は一国を亡き者にする迄殲滅すると聞く。となると、ロシアが敵になる事を想定した場合中国は少しでも時間を稼ぐ必要がある為、彼らが賛成しない限りは保留するしかないらしい。
「成る程。多分その意見はドイツなども同じであろう。そうなると少し面倒な事になる。先進国内で争いが起きなければ良いが…。」
パシフィスタの言葉に一同は沈黙する。しかしセルベリアが威厳ある声で一喝する。
「たかが国同士の諍いで魔王を復活させてしまえば元も子もなありません。何の為の先進国ですか。恐れるべきは最悪の事態であって、国同士の戦争如き話になりません。」
「…そうだな。たかが数国反対しようと魔王が復活すれば全ておしまいだ。だがもし戦争になれば勇者よ。罪も無き人を殺せるか?」
パシフィスタの問いにナツメは考える。だが、自身が龍膳に似た様な事を問うた時彼は拳を血が滲むほど握りしめながら修羅になると言ったではないか。その教え子の手前自分が引くことなど考えず
「その時は鬼となり彼らが頷くまで追い詰めましょう。」
ナツメの意思に生徒達は息を飲む。
だが、それを聞いた龍膳は思わず立ち上がり
「某は普段殺生を好まぬ故いつもならば否と言いたい。だが、先生殿が鬼となるならば話は別。某も修羅…否、羅刹となりて破戒僧ともなる覚悟ですぞっ‼︎」
普段温厚な龍膳が鬼気迫る表情でナツメ達の前に立つ。それを聞いて今度は御堂3姉妹が立ち上がり
「御堂家次期頭首として命じます。楓、桜。ナツメ先生の矢となり刃となり盾になりなさい。事においては禁呪の使用も許可します。」
「「はっ。」」
普段とは別人の、凛とした表情で3人は龍膳の隣に立つ。
「オークスの娘が人殺しなんて普通はしませんわ。けれど、大義の為なら父上も許しましょう。」
「炎堂家がこんな所でビビると思うか、貴様。爺様に笑われるわ。」
「お祖母様の手前、私が臆すなどあり得ません。」
続けてルナ、凛音、ミリアムが立ち上がる。
「妃、来。」
「理解。」
「まぁ、僕も先生にはまだ学ぶ事が多いし。行きます‼︎」
「なんか思いっきり魔法使って良さそうなので私も。」
続けて孫兄妹、時丸、心菜が並んだ。
だが、ハルトだけが暗い顔で悩んでいた。
それを見た太志がハルトに向け声をかける。
「魔法使いたる者、時には人を斬らねばならぬ時がある。時には人を守らねばならぬ時がある。だが、その道を行く為に必ずやらねばならぬ事がある。迷いを捨て、折れぬ心を持つことだ。少年、もし迷いがあるならここに残れ。儂が晴れるまで相手をしよう。」
「太志さん…。」
太志の言葉にハルトは考え、そしてナツメに伝える。
「僕は…まだ、貴方の背中を守れません。守れる程心も魔法も強くないです。なので、時間を下さい。先生のお父様との修行を行い、成長させて下さい…‼︎」
その言葉を聞いてナツメは柔らかな笑顔を見せ頷く。そして太志に対しアイコンタクトで任せましたと伝えると、ナツメにだけ見える様にサムズアップで返事をした。
その後、ハルトを除く12人はパシフィスタやセルベリア、ジェシカが言うタイミングで首脳会議に立ち会う形となった。それまで期間が少し開く為、一同は一度ナツメの家に戻り彼の指導の元修行を行う事にした。
「先生、僕の我が儘を聞き入れて頂いて有難うございます。」
「気にするな。そもそも、ハルトが流れで申し出てきた場合断るつもりだったしな。」
ハルト以外の一同が帰国を行う直前、ハルトはナツメに再度感謝の言葉を投げかけた。
「先日の訓練でハルトが受けた心の傷はすぐには治らない。それでも剣を振るい、味方を守る盾となるならば父上の全てを学ぶつもりで修行するんだ。…期待しているぞ。」
「…はいっ‼︎」
2人は握手を交わし、笑顔で背を向け合う。別れ際にこれ以上の言葉など要らなかった。
「おし、では帰って特別授業の開始だ。」