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しばらくしてクリミナと共に現れた太志によりジェシカが連行され、疲れたとばかりに項垂れていると
「本当先生のお母様って変わってますよね。」
クスクスと笑いながらルナが隣にやって来た。
「いやいや、変わってるの一言であの人の魔法開発力をまとめちゃいけない気がするんだが。」
「確かに、基本属性外の魔法を開発するには全てを捨てる覚悟で行いますからね…実際私も4大元素魔法はほぼ使えなくなりましたし。」
それをかっこいいという理由で作り上げ、何のロスも無しに成功させている辺りジェシカは天才だと続けた。
確かにジェシカが魔法を開発する際失ったものなど今までに聞いた事が無い。だが、そもそも独自魔法である規格外属性に対する適正などは存在せず、開発した後にその属性しかほぼ使えない形となって適正として現れるのが一般的である。ルナが良い例だった。
「それだけ、特異体質なのでしょう。むしろ突然変異のレベルですが…。」
「確かに。両親揃ってそれだから困る。」
「…えっ、お父様もですか?」
ナツメの一言に驚くルナ。と言うのも無理は無く、2人が活躍していた頃太志は常にジェシカの懐刀として名前すら世に出していなかった。その結果どの様な魔法を使いどの様な系統に適正があるのかなんて誰も知らなかった。
「父上も独自魔法をノンリスクで作り上げる人だ。むしろ、その精度は母上を遥かに超えている。」
「…ちなみにどんな魔法を?」
「わかりやすく言えば、ハルトの『武具精製』を上位互換した形だ。」
太志の独自魔法は『剣聖憑依』だけでは無く、味方全てに身体強化と物理・魔法に対し抵抗する結界を張る魔法『闘神咆哮』や、自身を分身させ敵を包囲し対象が息絶えるまで切り裂き続ける『幻影布陣』など、広範囲かつ規格外な魔法を作り上げている。
「ちなみにそれを父上に聞いたら、寝起きでやり方思いつく。と答えられたよ。」
「お、恐るべしレイニーデイ一族…。」
両親からして規格外の一家に軽く引きつつも、ルナはナツメにどの様な魔法を使いたいのか問う。すると、ナツメは迷い無く
「完全な形で蘇生出来る魔法だな。欠陥や魔力以外の代償なく行える蘇生魔法。それがあれば救えた命などたくさんあったからな。」
普段は見せない寂しげな表情をしながらナツメは言う。それを聞いて彼の旅先での出来事や、仲間の事をすぐ様考えてしまったルナは
「…軽率な質問でしたね。申し訳ございません。」
頭を下げ、そのまま無言になった。
その後どちらも話始める事なく沈黙していると互いの部屋の扉からノック音が聞こえ、夕食の支度が終わったからと使用人が来たので、2人はベランダから戻り食堂へ向かった。
食堂に着くと、他の生徒や両親(未だ拗ねたままのジェシカに睨まれる)が居た。ナツメはクリミナの引いた椅子に座り、待たせた事を謝る。
「そうね、だったら今晩私の部屋で…「ジェシカ。」しゅん…。」
何かを口走ろうとしたジェシカを太志が止め、一同が呆れながら苦笑した辺りで食事が運ばれてくる。
和気藹々と話しながら食事を楽しんでいると、珍しくハルトが話しかけてくる。
「あの、食後で良いのでお願いがあるのですが…。」
「ん、どうしたのかはわからないが何でも聞こう。」
「ありがとうございます。では後ほど…。」
顔つきが優しい彼が何かを決心したかの表情を見せていた為、ナツメも断る理由が無く聞く前に了承する。だがハルトの事だ。大方自分よりも適任がいる。その予測でいくとなると…
『父上、手を借りても?』
『構わん。どうせいつかそうするつもりだったのであろう。』
テレパシーすら使わずアイコンタクトのみで互いの意思を疎通する。それをみたジェシカがナツメを見つめ
『ナツメら大事な話があるから今晩…「ジェシカ。」「待って、何でわかったの⁈」
太志の完璧な見切りにより失敗した。
と言うかこの母親よく今までまともに生きてきたな。いよいよダメすぎる。と、思ったが前回帰省した際何処から入手したのかわからない数のナツメの戦闘シーンを録画したディスクが出てきたので、それで毎日我慢していたのだろう。そう考えると寒気がした。
その後、食事は恙無く進み各々談笑を始める。その中でハルトがナツメの元に近づいて来たので
「クリミナ、彼らの事頼みました。俺はあの部屋へ行きます。」
「かしこまりました。ではハルト様、坊ちゃまに着いて行ってください。後ほど太志様も来られます故。」
深々とお辞儀をするクリミナに対し軽く礼を言い渡し、ナツメとハルトは敷地内にあるナツメ専用の訓練所へと向かう。
「それで、何をしたい。」
「…わかった上で問うのですね。僕に稽古をつけて欲しいんです…‼︎」
訓練所に着くや否や、ナツメに対し頭をさげるハルト。それを見てナツメはにっこり笑いつつ
「姿勢は正しいが一つ間違いがある。いくら稽古とはいえ相手から目を離すな。出なければ死ぬぞ。」
「ーっ⁈」
一瞬、ナツメが放った殺意によって、ハルトは首と胴が離された感覚に落ち入る。その瞬間汗が噴き出し、呼吸が荒くなるもその場から数歩距離を取りナツメを見つめる。それを見たナツメは
「まずは7割。魔力切れるまで耐え切ってみろ。」
殺意を吐き出したままナツメは天に手を掲げ
「『剣聖憑依』‼︎」
いきなり放たれた禁忌魔法の衝撃により、ハルトは遥か後方まで吹き飛ばされた。