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その後、パシフィスタは職務と資料を纏めるとの事で自身の家へと帰り、ナツメ達も一度部屋へと行く事にした。
使用人達に連れて行かれる形で一同は部屋を案内される。どこから仕入れた情報なのか、孫兄妹はしっかりと2人一部屋なっていた。
生徒達全員を部屋へと送った後、ナツメは自身の部屋へと案内される。今までみたいな硬い扉はありませんがとクリミナは謝りつつ、ナツメ用の部屋を作っていたらしい。
厳重な結界が張り巡らせられた入り口を見た途端呆れと安堵が同時に襲いかかってきた。
「こうでもしないと奥様が壊してしまうので…。」
「いえ、むしろ助かりました。」
ナツメと使用人しか扉を開けれない結界らしく、その他の者が触れると強悪な魔法が襲うとか。これならば安全だろうと確信したナツメは中に入りとりあえずここ数日の疲れを癒す為にベッドに転がり、仮眠を取る事にした。
ーナツメ。お主にこの先全てを任せる。ー
ー貴方様が世界を救うのです…‼︎ー
「この声は…。」
ー君が全てを担うんだ。私ごと殺しなさい。ー
ー我が死に追悼は要らぬ…行け…‼︎ー
「皆さん…‼︎」
突然の声に目が覚め、体を起こす。どうやら死んでいったかつての仲間が残した最後の言葉を夢で見たらしい。その懐かしさに懐かしさを覚えつつ、時刻を見ようと体を動かす。
ームニュッ
「はい?」
なんとも言えない柔らかさがナツメの掌に伝わる。その柔らかさは微かに上下し、その上部では寝息が聞こえる。
いや待て、何故自分と使用人しか入れない部屋に寝息がきこえるんだ。ナツメは急いで電気を付け、布団をめくる。すると
「何故桜がここに入っているんだよ‼︎つかどんな格好してんだお前は‼︎」
下着姿で寝ている桜がいた。それを無理矢理叩き起こし、寝ぼけている彼女に問いただすと
「昨晩はお楽しみでしたね。」
「何もしてないからな⁈つかまだ一晩も経ってないわ‼︎」
訳のわからない事を良い頬を染める桜を叩き、どこから入ってきたのかと聞く。
「んー、対策されるからあんまり言いたくないんだけど…先生の部屋とウチの部屋ベランダくっついてるんよ。」
「へ?いや、ベランダも何も外装は日本の城だから無いはず…。」
と、確認の為に窓の外を見るとあった。と言うか、入る時には気付かなかったが外装が日本の城な訳ではなく、敷地外から見たレイニーデイ家と同様で西洋式の城の外見を魔法で日本の城にしているだけであった。道理で面積の違いが出るわけだった。
相変わらず無茶苦茶な両親に呆れつつ、桜を帰らせようとベランダに連れ出す。すると運の悪い事にたまたまルナが桜の部屋から見て反対隣だったらしく、景観を見に来た彼女に見つかり
「…⁈何やってるんですか⁈まさか…え…えっ…破廉恥です‼︎」
「ちょ、ごか…ちょ⁈死ぬからそれ⁈」
「破廉恥先生なんて死んでください‼︎『聖戦光破』‼︎」
「桜‼︎なんとか…何お前満更でも無い顔してんの⁈くそっ‼︎『鏡花水月』‼︎」
ルナがありったけの魔力を込めて放った幾千もの光の帯を以前桜が使った魔法を使い上空へと反射させて逃す。結果、被害こそは出なかったものの、上空に溜まっていた雲が一部だけぽっかりと穴が開き、そのまま光の帯は遥か彼方へと消えていった。
「ぜぇ…ぜぇ…っま、まぁ…誰が悪いのかは分かってます…どうせ桜さんがまた痴女を拗らせたのでしょう…っ。」
「やっぱこれ病気の類だよね。うん。」
「酷い‼︎」
肩で息をしているルナに同調しつつ、桜を彼女の部屋に放り投げクリミナを呼ぶ。
「坊ちゃま。何か入り様ですか?」
「ああ。隣の生徒を変えてくれ。今すぐにだ。ルナ、お前が隣に来い。一番まともだ。」
他の生徒に説明するのも面倒なので、事情を理解しているルナと桜を交換する事に。部屋の中で桜は横暴などと叫んでいるが、この際性犯罪者には同情の余地はない。
すぐ様ルナと桜の部屋は交換され、再びベランダで景観を楽しむルナに一応謝っておく。
「いえ、私としても何か分かれば直ぐにお伝え出来るのでこちらの方がありがたいです。」
特に気にもしていなかったルナに救われたナツメはありがとうと感謝しつつ、同じ様に外を見つめる。
「しかしとても立派なお家ですね。流石最高峰の魔法使い一族の家です。」
「そうでもない。母上に聞く所によると、こんな家に住めたのは父上と結婚する事が決まってかららしい。」
実際、ジェシカも太志も名家の出ではなく、一般的な家庭で育ち互いに自身の可能性を追求し続けた結果、当時最強の魔法使いになっていたらしい。それを偶然の産物だと両親は言っている。しかし
「幾ら俺が魔王を倒したと言ってもあの2人には追いつけない。両親が生み出した『独自魔法』があったからこそ勝てた様な物だ。俺も俺のオリジナルを作らなければ、並ぶ事すら出来ない…。」
両親に負い目を感じている反面、尊敬の気持ちを絶えず持ち続けている。だからこそ俺は日々強くなる為に頑張れる。と、付け足してルナに向かって微笑んだ。すると、それを見たルナは目を逸らし
「たまに先生は眩し過ぎて直視できません。私のオリジナルですら燻って見える時があります。」
と、少し頬を染めながら言った。そんな事は無いと否定しつつ、2人で互いを褒め合っていると
「イチャイチャ中お母様が失礼しまーす。」
「は、母上⁈何処から出てきてるんですか⁈」
ナツメの陰からジェシカが現れ、拗ねた表情をしながら2人の間に入る。
「そんなもの私位の愛があれば息子の影から出てくる位余裕よ。」
「何さらっとそんな如何わしい理由で闇魔法開発してるんですか⁈」
「いや、聞いて?闇魔法は元々使えたのよ?だって響きがかっこいいもの。けど魔王軍の人に魔王よりも魔王らしいって言われて仕方なく我慢してたのよ?」
理由が残念過ぎた。と言うか敵に魔王より魔王らしいと言われるのはよっぽど酷い事をしていたのだろう。そんな残念系厨二病母親のせいでいよいよプライベートがなくなったナツメは
「部屋の電気一切つけなければこれませんね。カーテンも閉めて閉じこもります。」
「酷い‼︎どうしよう、ナツメちゃんが引きこもりになった‼︎しかも母の事さっきまであんなに褒めていたのに‼︎私嫌われたの⁈」
「ちょ‼︎どっから聞いてたのですか‼︎」
「そうね、仮眠し始めたあたりから見てたわ。桜ちゃんが入って来た時はうらやまけしからんって叫びかけたわ。」
この母親いよいよダメである。と言うかその時に起こしてくれというと
「だってナツメちゃんの寝顔見てたら涎が止まんなくて…。」
「父上ー‼︎‼︎この子離れ出来ない馬鹿母を何とかして下さいー‼︎‼︎」