3-11
翌日。
レイナに捕まっていた生徒は全員無事帰還し、何事も無く日常生活に戻れたものの藤堂は負傷したまま御園に連れ去られた為、ナツメと宗方以外教員が居なくなった。なので、学園は急遽長期休暇の形を取り、藤堂含め教員不在の状況を打破する為に人員を確保する事になった。
そして、特別クラスの方も教師がナツメのみになった為プログラムを変更する事になる。と言っても、すぐに組めるわけでも無い為とりあえず一同はナツメの家に集合し、状況を整理し始めた。
「教頭先生達が元魔王軍の血族だったなんて…。」
ルナとナツメにより昨日の事を知った一同は俯き、落ち込んでいた。無理も無い。特別クラスに入るまで自分達に色々教えてくれていた先生が全員憎むべき魔王軍の関係者となれば、その様な反応になるだろう。しかし、その中でDクラスの面子のみ余り気に留めていなかった。それに気付いたルナが質問すると
「まぁ貴様らはどうか知らないが私達は元々あいつらを好きではなかったからな。」
凛音が言った言葉に珍しく残りの2人も頷いた。どうやら、彼女達は入学した時点から自分達とは違う何か嫌な違和感を感じていたらしい。
「特にレイナね。ナツメ先生にくっついていた時あの人一度も笑ってないのよ。」
ミリアムが今でもぞっとすると言いながら、レイナについて言う。しかしナツメからは見えていなかったらしく、もしあのまま命を狙われていたらと考えると寒気がした。と、ここでルナが口を開く。
「レイナで思い出したけど…私が倒した彼女について言わなければならない事があるの。」
ルナの言葉に一同は振り向き、レイナが鞄から取り出した死体鑑定書を一斉に覗き込む。するとそこには驚きの結果が書いてあり
「血肉が無い人間…だと⁈」
「ええ、これは紛れも無く人を使った『人形使い』…いえ、むしろこういった方が正しいわね。『死人使い』による転生魔法よ。しかも遥か昔禁忌指定されて以来どの国でも魔法自体の存在を秘匿され続けた禁忌魔法『輪廻転生』によるものね…。」
『輪廻転生』は人を触媒に自身の思うがままに動き、容姿や魔法ですらも好きに変えれる最悪の魔法として恐れられていた。その効力は今尚どの転生魔法よりも優れており、それを扱えるのは魔王と呼ばれた男のみであった。
しかし、それが彼亡き今復活している。つまり、魔王は自身が破れる事を懸念して別の人間にその魔法を受け継がせていたらしい。
「これはますます最悪な事態だ…。例えば彼の復活に必要なだけの魔力を持った人間を集め、その人間達を触媒に魔王を復活されたりでもしてみろ…。世界は再び戦禍に巻き込まれるぞ‼︎」
ナツメの言葉に息を飲む一同。しかし、ルナは取り乱すこと無くナツメを見る。
「大丈夫。その前に彼らを倒せる可能性の方が高いわ。世界を滅ぼしても余るくらいの魔力を集めるには最低でも国一つ乗っ取らないといけない。それ程までに魔王の魔力は大きかったのよ。」
まだ猶予はある。しかし悠長にはしていられないとルナは続けた。それを聞き少し安堵したナツメは、今後について考え始める。このまま彼らを育成すべきか、各国に要請し再度討伐軍を結成すべきか…。
頭を抱えながら悩んでいると、桜が近づいてきてナツメの頭を枕で叩く。
「っ⁈桜、今大事な…」
「どうせウチらを巻き込んで良いのかとか考えとるだけやろ。んなもん特別クラス結成時に言ってたやん。もし大戦が起きたら討伐軍に任命するって。」
言い方や言葉は違うものの、確かにその通りだった。彼女らは特別クラスに入った時点で既に腹は決まっていた。どうやら決めてなかったのはナツメだけらしい。それを恥じたナツメは小さく謝り、再度彼女らに問う。
「お前ら。俺と共に討伐軍になる気はあるか?」
「勿論‼︎」
間髪入れずに返事した一同に感謝しつつナツメはある所に連絡を取る。と言うのも、生徒達の気持ちや自分の気持ちだけでは動けないのはわかっていた。
『ご無沙汰しております母上。実は…。』
『御機嫌ようナツメ。言いたい事は分かっているわ。一度こちらへ来なさい。』
『助かります。では後ほど。』
自身の母親とテレパシーを繋ぐと、すべて見てきたかの様に何も言わずとも理解してくれていた。流石は母親とだけある。これによりナツメ達が行うべき行動の第一歩が踏み出せる事になった。そして、それを生徒達に伝える為にナツメは全員の顔を見渡し
「おし、ではこれから俺の実家に行くぞ。まずはそれからだ。」
『はい?!?!?!』
こうして、特別クラスの面々はナツメの両親が住む『新イギリス空都』へ向かう事になった。