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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、狩猟する。
28/110

3-10

息吹に合わせて3姉妹は意を決した様に手を前に出す。


「「「表裏一体‼︎『五行生剋ゴギョウセイコク暴虐無人ボウギャクムジン』‼︎」」」


3姉妹の掌を伝う形で巨大な八卦陣が現れる。そのまま八卦陣は回転し始め、向かいくる息吹とは逆方向かつ木火土金水全ての属性の風が吹き始める。


二つの風が拮抗し、中心部では双方に粉々にされた壁や道路が巻き上がり、軋んでは破壊されている。


「くっ…ぅ…っ‼︎」


暫く拮抗が続きやがて息吹が止まったのか手応えが消え始める。3姉妹は息を切らし肩で呼吸している。対してナツメは汗一つかかないまま右手を振り上げる。


「さて、そろそろ発動するぞ。この魔法は準備時点でもかなり威力があるから困るんだよな。」


「…えっ。」


ナツメの言葉に血の気が引いた顔で見つめる生徒達。しかし、ナツメの言葉の通り彼の右手が振り下ろされた瞬間先程までとは比べ物にならない暴風が吹き始める。その勢いに耐える事すらできない生徒達は、風に煽られて吹き飛び全身切り傷だらけになる。


「殺さない程度にするのって大変なんだよ…な‼︎」


更に力を加え自身の周囲から完全に吹き飛ばす。結果、遠くで飛ばされている生徒の悲鳴が小さく聞こえてきた。それを聞いて生徒が生きているのを確認しつつ背伸びをした。


「やり過ぎた気がするけどまぁいっか。全員生きてるだろ。」


1人ポツンと呟いた後、ナツメは藤堂の魔力を探し彼の元へと飛んでいく。

やがて、藤堂の近くに到着すると彼と生徒は未だ戦闘中だった。その様子を見る限り、未だ魔力が切れていないのは心菜とハルトのみで、残りは全員大の字に倒れて荒い息をしていた。


「おや、坊ちゃん。そちらは終わったのですね。」


「ええ。明日1日動けるかわからない程度には留めておきましたが。」


心菜とハルトの猛攻を微風が吹いているかの如く涼しい顔で避けつつ、藤堂はナツメと会話をし始める。その様子に魔力すら使わせれない2人は苛立っており、どんどん隙だらけな魔法を飛ばし始める。すると、藤堂はその隙をついて雷魔法を放ち2人を感電させる。どうやらこちらも勝負がついたらしい。


「さて、今日まではこれで見逃してあげましょう。明日以降でもう少し段階上げてついて来れなければ残りの2日は病室で過ごして貰います。」


にっこりと笑いながら藤堂は背中を向ける。ギアを上げると宣言した藤堂の言葉を汲み、ナツメもそのつもりで行くと宣言。その場にいる生徒と先程飛ばされた6人はその宣言に対し戦慄するのであった。


「さて、残りの3日間。何人が最後まで我々としのぎを削りあえるか楽しみです。それではまた明日。」


「再開はまた知らせる。それまで体を休めておけ。」


それだけ言い残し、2人はその場からテレポートした。

2人は職員室に到着するや否や疲れ切った表情で近くの椅子に腰掛ける。先程、あれだけ啖呵を切ったものの正直な所彼らの相手をするのにも相当な体力を持って行かれる。それだけ窮地に立った時に分かる彼らのポテンシャルの高さが異常であった。


「かなりやり辛いですね。正直、既に脱退者が出てもおかしくない位には魔力を使ってます。」


ナツメの喜びとも取れる溜め息に藤堂は同意する。彼らの耐久力は想像していたものを優に超えていた。そしてそれは勇者として見ても既に他の生徒とは一線を超えた強さとなっており、再三ではあるが選抜の正しさが伺えた。


「ええ、坊ちゃんの言う通りです。こんな早くに切り上げさせられるのは予定外ですからね。…おや?」


と、ここで藤堂がある違和感に気付く。職員室の時計はまだ18時を過ぎた位を指しているのにも関わらず、職員室はおろか、学校内にすら人気が感じられなかった。不思議に感じた2人は、職員室を出て周囲を見渡す。やはり、学内に人気は無くそれどころか所々電球が切れかかっていた。


「…おかしい。この時間なら確実に誰か居るはずなのに。」


「御園君とかは確実に居るはずなのですがね。探してみましょう。」


あまりにも不自然な状態に2人は自然と駆け足になる。そのまま2人は一度散開し、各クラスや教室を一つ一つ見て回る。しかし、生徒はおろか人っ子一人見当たらない。いよいよ事情が変わってきたと感じた2人はそれぞれ体育館とグラウンドへ向かった。するとナツメの向かったグラウンドに居たのは


「あら、ナツメ先生。ここ暫く一切会えなくて寂しかったですよ。お久しぶりですね。」


体が黒く豹変したレイナが巨大な魔法陣の中に居る生徒を檻で閉じ込めていた。


「レイナ先生…一体何を?」


「見ての通り、人柱にする為の転送魔法ですよ。勇者の弟子達が力をつける前にね。」


『坊ちゃん‼︎やられました‼︎この学校の教員…我々と宗方先生を除いて全員『元魔王軍の血族』ですっ‼︎』


「…っな⁈しかし教員は普通経歴詐称とかできないんじゃ…‼︎」


『それが、御園君がそれを可能にしていたんだ‼︎兎に角、ここはーぐふぅっ‼︎』


「藤堂先生‼︎藤堂先生っ‼︎おい、お前らは一体何をするつもりだ‼︎」


テレパシーの途絶えた藤堂を心配しつつ、目の前に居るレイナに荒々しく言葉をぶつける。


「んー、『私は』単純にナツメ先生の血筋を奪いたいだけかな?他の奴らは知らないわ。けどね、これだけは教えて上げる。『魔法大戦はまだ終わってないわ。』」


普段のレイナとは思えない程邪悪な笑みを浮かべつつ、こちらを挑発するかの如くあっかんべーとしている。しかし、そんな安い挑発にのるナツメでは無く


「『悪魔人形』‼︎」


自身を象った『悪魔人形』をレイナに向かい走らせる。すると、魔法陣に触れた瞬間『悪魔人形』は檻の中に飛ばされ、魔力を維持できなくなったのか小さく萎んで消えていった。


「強制転移の魔法陣と魔力抽出の檻…‼︎その魔法は…っ‼︎」


「ええ。お母様はさぞ無念のうちに沈んだでしょう。『吸魔女帝サキュバス』と呼ばれていた魔王軍幹部・カミラ・T・アイリスは私の母よ‼︎」


今までに見せた事のない位の鬼気迫る表情でレイナは叫ぶ。今にもナツメを食い殺しかねない表情で睨む彼女に、ナツメは思わずたじろいでしまう。


「お母様の名前すら変えて‼︎アイリス家を隠してまで‼︎‼︎貴方を殺したくて仕方がなかった‼︎こんな生易しい魔法なんかで殺してあげないわ…死よりも思い絶望を与えるわ‼︎」


調子の狂った玩具の様にケタケタと笑うレイナ。そのおぞましさが彼女を本物の元魔王軍の血族という事実に結び付けていた。あまりの衝撃でナツメは声を出せず、藤堂を助けなければならない事すら頭から消えていた。


「どうしたの?そんな顔をして。でもね、安心して。今日は貴方には何もしないから。この子達だけ居れば良いもの。」


ちらりと自分の作りだした檻の中に居る生徒を見る。視線の先にいる生徒は怯え、助けを求める様にナツメを見つめていた。

しかし、ナツメは動けないでいた。と言うのも、レイナの足元にある魔法陣は一つでは無く二重になっている為、恐らく転移魔法以外に何かを張っている。その為、もし仮にこれが生徒達に対して被害が出るものだった場合彼らは無事では無くなってしまうからである。すると、その様子に気づいたレイナは鼻で笑いながら詠唱を始め


「さてと、肝心の勇者様は何もしないみたいだし。彼らを人柱の為に動かしー『させないわ‼︎』⁈」


レイナが転移魔法を発動しようとした瞬間、レイナの肩を一筋の光が貫く。その光の出処を見れば、いつの間にかナツメに肩車されていたルナが姿を現していた。


「ルナ⁈いつの間に‼︎」


「先生がバカみたいに強い風を巻き起こした辺りからずっとよ。ここに居れば安全なの分かっていたし、体を量子化すれば重さなんて感じれないもの。」


ルナは昼の仕返しとばかりにドヤ顔で地面におりる。そしてレイナの方を向き


「レイナ女史。貴女の事は我が社で調べたわ。『魔王復興軍』の7神柱・色欲に使える幹部の1人にして元魔王軍幹部・カミラ・T・アイリスの娘。レイナ・小鳥遊・アイリーンもとい本名、レイナ・T・アイリス。貴女をここで討ちとるわ。」


「っ…流石オークス社の次期社長は早いわね…っ‼︎だけど私にこれ以上近づけばこの子達は助からないわ‼︎」


撃ち抜かれた肩から煙を上げつつ、レイナは生徒達を睨みつける。それを聞いてルナは呆れた顔で肩を落とし


「貴女程度で私の最速は見切れないわよ。消えなさい。『聖嵐快刃ホーリーブレード』‼︎」


一瞬のうちにレイナの首を刎ね、それを見る事も無く髪を掻き上げながら


「だいたい私が近づくのはナツメ先生位よ。」


と、小さく呟くのであった。

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