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ルナの一撃を受けたナツメは、大きく仰け反りながら空中で一度回転しつつ距離を取る。当たりどころが良かったのか、ルナの一撃は体を貫通した訳ではなく背中の皮膚を焦がして逸れていた。しかし、思いがけない一撃を受けた事には変わらず、ナツメは素直に賞賛した。
「再起不能にするつもりだったのですが…余程ガードが固いのですね。」
「いきなり背後から魔力を感じたら防御を回すさ。」
腰に手を当て傷を回復しつつ、ナツメはルナの方へと歩き出す。しかし、その後ろには桜がすでに待機しており、ナツメは2人に挟まれる形となった。
「味方諸共撃ち抜く算段か。」
「さぁ。味方を殺してでも相手を殺せと教えられましたから。」
昨日ナツメが放った一言を返され、ナツメは苦笑いする。昨日の教訓をすぐさま活かす辺りルナの優等生ぶりが伺えた。
「(さて、これはどうしようか…。狙うなら…桜か。)」
「どうやら腹積りは決まった様ですね。」
「ああ。いつでも来い。」
「ではお言葉に甘えて…『聖浄雷光』‼︎」
「『幻影霧散』‼︎」
ナツメ目掛け一筋の光が彼を貫かんとする。それを、ナツメは『自分の体を気化』させる事によって回避し、後方の桜へと光を抜けさせる。これにより後ろの桜が撃ち抜かれる筈…が、桜はニヤリと口元を上げ
「甘いよ‼︎『鏡花水月』‼︎」
桜に当たる筈の光が反射され、再びナツメに向かい始める。堪らずナツメは上空に退避し、やり過ごそうとするも
「それも予想済みです‼︎『屈折』‼︎」
「おいおいそんなのもありかよっ‼︎」
上空に飛び上がったナツメを追いかける様に光が屈折し、ナツメを撃ち抜かんとする。仕方なくナツメは自身の足の裏の空気を真空化し、水分を無くす事で光の道筋を遮断した。
「空気中の水分がなくなれば光は推進力を失う。ちょっとした化学の勉強だ。」
「っ…そんな事をこの一瞬でやる人間なんてナツメ先生位ですよ…‼︎」
ルナの悪態にピースで返し、何事も無かったかのように着地する。それを見てルナと桜は悔しそうに地団駄を踏む。しかし、そんな愉快な状態も長くは続かずすぐさま戦闘が再開される。
ナツメの左からはルナの光魔法が。右からは桜の4大元素全ての魔法が。それを中央でナツメは縦横無尽に回避し、互いの魔法を上手くぶつけて相殺させる。
「ちょっと、素早いにも限度がありますよ‼︎」
「いや、簡単な原理なんだけどな。」
2人は直情的になり過ぎているせいなのか、ナツメのいる地点しか狙ってない。つまり、魔法の発生を確認した時点でその場から動けばいくら早くても関係なく到着地点をずらす事が出来る。
しかし、それを話すと今度はばらまきに力を入れてしまうだろう。そうなれば、力の差がある相手には魔力切れになるまでかわし続けられる。すると、完全に隙だらけになってしまう為容易に反撃を許す形となる。
「なんで当たらんの‼︎ウチの事嫌いなん⁈」
「いや、好き嫌い関係ないだろこれ‼︎」
とはいえ、ナツメも余裕を持って避けれる訳ではなく、2人の魔法の速さの違いが絶妙的過ぎて逆に逃げ場を失い始めている。
このままでは埒があかないと悟ったナツメは一旦大きく下がりクロスレンジから離れる。そのままビル壁に向かい走り、今度は垂直に壁を登り始める。それを追うように2人の魔法は背後で何度も爆発し、ナツメの道を辿るように破壊し始める。それを見たナツメは、あえて横に走り始めると、ビル壁の中腹辺りに横一閃で爆発させたが如くの破壊痕が残る。
思い通りに事が進んだのを確認したナツメは、窓ガラスを割ってビル内に入り込み中から破壊痕のある方向の壁へ向けて思い切り魔法を放つ。すると、衝撃によりビルの外壁は崩れ始め、ルナと桜がいる道に向かい雪崩始めた。
「ちょっ‼︎そんなん聞いてない‼︎」
「と、とりあえず逃げっ…きゃぁぁぁ‼︎」
直撃は避けれたものの、崩れた衝撃による風圧と粉塵がルナと桜を襲う。それにより、視界を奪われ退避を余儀なくされた2人はナツメを見失う形になった。
「危ない危ない。いつの間にか狩られる側になりそうだった。」
遥か上空で冷や汗を拭うナツメの真下の道では、悔しそうに左右を見回しナツメを探す2人が見える。そのまま、2人の意識を飛ばす為に上から上級魔法をぶつけても良かったのだが、たった1日でここまで追い詰め始めた2人の頑張りに免じてナツメはその場から離れる事にした。