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二日目ともなると、流石に昨日の戦闘が効いているのか、すぐには姿を見せようとはせずに各自『悪魔人形』を避けて行動している様だった。その為、ナツメ、藤堂共にすぐさま駆けつける事が出来ずに時間だけが過ぎていった。
「流石にこのままだと埒があきませんね。少し作戦を変えましょう。」
ナツメの提案に藤堂は同意し、その方法を任せる。すると、ナツメは広範囲にばらけさせていた『悪魔人形』を一列に並べ、端から端まで調べ尽くせる様に進行させる。これならば、生徒達が逃げる方向は一方方向に纏まり、もし反撃があればその場所へと即座に移動出来る。
そしてその思惑は見事効果覿面で、『悪魔人形』の規則的な動きに気付いたルナによる攻撃で『悪魔人形』の内の数体が撃ち落とされた。
「このうちのどれかが本体付近の攻撃です。俺はあっちに、藤堂先生はこちら側へお願いいします。」
「ええ、お互い無茶しすぎない様に。それでは。」
すぐさま2人は散開し、生徒を探し始める。
藤堂と別れてから数分後、ルナの残した魔力源を元に探索すると、この場で撃ったであろう源が発見される。
「(ビンゴ。こちら側がルナ達か。しかしこれは…。)」
ナツメは少し考えてすぐさま横に飛び退く。すると、直前までナツメが居た地点が沈み始めた。
「おいおい、龍膳以外にこんな罠を張る奴が居るのかよ…‼︎」
「ウチの年頃は何でも吸収しやすいんやで。」
ナツメの悪態を嬉しそうに聞くのは桜だった。どうやら桜が龍膳の真似事を土魔法で行ったらしい。
「桜か。本当俺以上の大物になりそうだな…。それにしてもその着物はここで買ったものらしいな。」
「ふふ、褒めても何も出んよ。」
「そうか、じゃあ可愛いって褒めるのは無しにしておこう。」
「っ…⁈それはズルい‼︎言って?言ってーな‼︎」
むっすと頬を膨らましながら桜が手を振るうと、氷でできた矢がナツメを目掛けて飛んでいく。水の初級魔法を無詠唱で行ったらしい。それを炎を纏った右手で弾きながら、ナツメは桜との距離を詰めつつ魔法を静かに詠唱する。
「そうだな、俺に勝てたら可愛がってやる。穿て‼︎『連装火矢』‼︎」
「そんなんじゃ足りないし‼︎デート位して欲しいな‼︎斬り裂け‼︎『風神龍爪』‼︎」
互いに近距離で系統初級魔法を連打しながら飛び回る。その打ち合いは勿論ナツメの手加減によって互角の勝負となっているのだが、手加減と言っても全力から考えて6割位で戦っている為、かなり異常な強さであった。
「桜は本当筋が良い。ここを卒業する頃には俺と並ぶレベルになるだろう。『炎風螺旋』‼︎」
「なんかそれお嫁さんみたいで良いわぁ。どうせならそのままお嫁さんにせん⁈『水剋火‼︎裏水・間欠泉』‼︎」
混合魔法に対し必要分だけを相剋魔法で削ぎ落としつつ熱烈なプロポーズをし始める桜に対し違う意味で冷や汗をかきながらナツメは一度足を止める。それに続く様に桜も足を止め、ナツメと対峙した。
「んー、結婚はまだ考えてないんだよな。それに俺と桜は7つ差がある。桜が20になった時俺は27だしそれまでに俺が結婚している可能性もあるぞ。」
「う…やだ。ウチがナツメ先生の嫁になりたいもん。て、てかそんな真面目に回答する為に足を止めたん⁈」
桜が先程以上に頬を膨らましながら聞くと、大真面目な表情をしてナツメは頷く。それを見るや今度は桜が苦笑し
「そういう変に真面目な所もポイント高いで。やっぱナツメ先生大好きや。」
と、言いながら先程までとは違い、中級魔法を唱え始める。それに対しナツメも同じ様に中級魔法を唱え始め
「ま、俺も桜のそういう所は好きだぞ。」
「ふぇっ⁈」
「隙あり。『流星炎幕』‼︎」
桜が一瞬顔を赤くした瞬間にナツメが唱えた魔法によって周囲は炎と隕石の山となった。
「ま、生徒としてだがな。」
「いけずー‼︎ばかー‼︎女たらしー‼︎けど大好きー‼︎」
隕石に囲まれる様にして動けなくなった桜を置いてその場を離れようとする。すると、一歩動いた所で何かに足元を撃ち抜かれる。この目で追う事のできないそれは直ぐに犯人を割り出せる形となり
「ルナ、君もデートのお誘いなら断るつもりだが。」
「私は公私混同しません、と言うかそんな事しませんよ‼︎」
耳まで赤くしたルナが背後から現れた。
「ここでナツメ先生を止めさせて頂きます。私と桜。中々に相手にし辛いと思いますが。」
「そうだな。藤堂先生ならばこう言うだろう。『最悪な組み合わせだ』と。」
最速の魔法使いと最高の汎用力。この二つが手を組むほど面倒な事はない。どうやら、その事を理解した上でチーム編成を変えてきたらしい。
「休息を与えたのは間違いな気がしてきたよ。ルナの思考の速さを舐めていたみたいだ。」
「舐めるのはウチだけにして頂きたい‼︎」
「桜さん⁈女の子がなんてはしたない‼︎」
どうやら、色んな意味で相性最悪な組み合わせらしい。恐らく、鈴蘭に毒され始めている桜のボケは放っておき、ナツメはどう対処するか考える。すると、すぐさまルナは無詠唱で攻撃を仕掛け
「考える暇なんて与えません‼︎『聖光連矢』‼︎」
光でできた矢を雨の如く降らせ始めた。それをナツメは防御魔法すら張らずにステップだけして避け、すぐに反撃とばかりに魔法を詠唱する。
「楽しませてくれよ。『二重詠唱・巨神闊歩、雷神憤怒』‼︎」
ナツメが放った魔法は、地面を大きく揺らしながら2人に対し雷を落とした。すんでの所で2人は回避するも、ルナは不恰好に転倒し、桜は買ったばかりの着物を早々に焦がして穴だらけにしていた。
「…あー、その。少し強すぎたか?」
「ナツメ先生はあれですね。脱がすより破ったりするのが好きな性格なんですね…。」
「何の話だ‼︎誤解するな‼︎」
体を起こしながら肩や太ももなど狙ったかの様に着物を焦がされた桜を見て、ルナは呆れた眼差しでナツメを見る。勿論、そんなつもりの一切ないナツメは慌てて桜の服を治し、咳払いをして再度距離を取る。
「…と言うかルナ。君はどうやら何かを隠している。」
「ルナ先輩パッド疑惑。」
「桜、後で楓に折檻食らいなさい。隠してると言うより、策を巡らせている。が正しいですね。後胸は本物です。」
ルナは青筋をたてながら桜の頭を拳骨でグリグリとしつつ、ナツメに言い放つ。その様子に余程自信があるとみたナツメは、嫌な予感がして『悪魔人形』の動きを全て止めて退避させようとする。しかし
「策を巡らせていると相手に教えるのは、策がハマったからですよ。ナツメ先生。」
「っ…‼︎またもや龍膳か‼︎」
直後、巨大な破裂音と共に『悪魔人形』は全て霧散した。龍膳の罠が作動した証拠である。
「今です‼︎他のものは散りなさい‼︎」
ルナの号令はテレパシーで全員に伝わり、悪魔人形が詮索してきた方向へと桜とルナを除いて散開する。その光景にやられたとばかり眉をひそめ、ナツメはルナを見た。
「やるじゃないか。流石学内1位なだけある。」
「後輩ばかりにいい格好見せれないので。さて、このまま行きますよ‼︎」
完全に勢いにのったルナはすぐさま攻撃に移る。その判断の速さに一歩遅れたナツメは防戦を強いられ、その隙をついて桜が的確に魔法を撃ち込む。
「まだまだ‼︎先生にはここで一度休んで貰います‼︎」
「くっ…生憎まだ休む気はない…‼︎」
2人のコンビネーションに押されつつ、ナツメは反撃のタイミングを見計らい、見つけた瞬間に無詠唱で中級魔法を放つ。すると、攻勢に身を任せていたルナと桜は威力の落ちているその攻撃を払いのけ、再度詰めようとする。しかし、一歩踏み出そうとした矢先。2人は同時にズッコケてしまう。
「『拘束巻蔦』。地面についた瞬間周囲を巻き取る遅延発動魔法だ。」
「〜っ‼︎顔打った…っ。」
「ナツメ先生…これは流石に痛い…。」
赤くなったおでこをさすりつつ足に絡まる蔦を切る。その間にナツメは詠唱を始め、立ち上がった2人に対して魔法を放つ。
「ほら、まだまだ行くぞ。『狂気風圧』‼︎」
「「ちょっ…きゃぁぁぁっ‼︎」」
まるで何かに殴られたかの様に吹き飛んだ2人は100m程飛ばされていた。それを見てナツメは2人に手を振り
「じゃ、また後で会おう。」
と、言い残して去ろうとした。しかし
「まだまだ行きますよ。」
いつの間にか後ろに現れたルナによってナツメは撃ち抜かれる。