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ハルトが顕現させた盾が消えると、地上に降り立ったナツメは生徒と対峙する形となる。
「ここで俺を無力化させる作戦か。悪くない。夢見のチームは先程数分俺を止めれたし、ハルトのチームは物理攻撃が可能なハルトを筆頭に罠を作らせると天下一品の龍膳、そしてミリアムか。確かにこのままだと俺の方が劣勢だな。」
冷静に戦力差を考え、自身が今どれ程の立場なのかを考える。戦闘の基本である。そして劣勢ならば退避しつつ味方と合流したり、多対一の環境ではなく1対1の環境を作るのがベストであるが、そのどちらも選ばずナツメは風魔法を足の裏で爆発させ、もの凄い速さで距離を詰め始めた。
「甘いです‼︎その速さでも…『武具精製・神星剣』‼︎」
走り出したナツメに合わす様に腰に剣を顕現させたハルトも駆け出し、ぶつかりそうになる手前で急ブレーキをかけ、その勢いのまま独楽の如く回転しながら剣を振るう。しかし、それを見たナツメは小さく口元を吊り上げ
「宗方無刀流・刃絶。」
ハルトの回転に逆らう形で腕を伸ばし、真正面からハルトの剣を受け止める。
ガチィッ…‼︎
交差した瞬間、2人の交点からは金属音が響く。打ち勝ったのはナツメだった。
ハルトの剣は中腹辺りから先がなく、その先端はまるでダイヤの如く硬化したナツメの右手に掴み取られていた。
「初めて一週間位だがこの武術悪くない。宗方先生にはもう少し教わるとするか。」
「ーッ‼︎まさかこれは…魔法体術⁈」
ハルトが折れた剣を愕然としながら見つつ、ナツメの方に振り返る。先日以降魔法体術の鍛錬を重ねていたナツメは、既に実践レベルに近い状態だと言う。それでも、あの瞬間にこの様な神技を…いやまさか。
「最初からこれが狙いですか…⁈」
「あぁ。ハルト位じゃないと試せないからな。」
どうやら特攻の目的はそれだったらしい。試されたハルト自身は堪ったものではなかった。
「さて、次は何をする。全員でも1人でも好きにかかってこい。」
まるで悪戯する子供の様に口角を吊り上げ、生徒達を挑発する。すると、その様子に釣られた凛音がすぐさま詠唱を始めるも
「貴様なんて灰にしてやる‼︎『炎王ー「甘い。」きゃぅっ⁈ひゃひふんだ⁉︎」
いつの間にか距離を詰めていたナツメに頬を引っ張られ、詠唱を止められた。続けてミリアムが凛音ごと風圧で潰そうと詠唱を始めるも
「ワンテンポ遅い。もっと早くなければ2人とも死んでるぞ。」
今度はミリアムが口を押さえられたまま壁に押し付けられ、無力化されていた。
「1対1では勝ち目はない。しかも、ここに居る殆どが複数対複数での戦闘において優位に立てる人間だ。その強さは全員味方を潰してでも輝く程に。隣の仲間に当たる事を考えて魔法を躊躇う人間はいつか必ずその味方のせいで死ぬ。」
「んな無茶な…‼︎貴様は友を殺してでも生き残れと言うのか⁈」
「そこまでは言わない。だが、殺せる位信頼できる味方でなければ、格上の人間と戦うにはリスクが高すぎる。そしてそれは出会ったのがいつであれ関係ない。今日たまたま最初に挨拶した人間と最後まで生き残らなければいけない環境なんて戦場では幾らでもある。」
俺も炎爺にそう教えられたとナツメは告げる。その言葉に凛音は黙り込み、俯く。しかし、すぐに顔を上げ、何かを決めたかの様に凛とした表情に戻ると、いきなり雄叫びをあげた。
「わかった。こいつらに背中を預けるのは私の…炎堂の誇りにかけて嫌だった。だけど、爺様がそう決めて貴様に背中を預けたなら…私だって腹を括ってやる。夢見‼︎孫妃‼︎やるぞ‼︎」
「勿論‼︎」
「理解‼︎」
「少しは頑張ってくれよ。」
凛音達が一斉に詠唱を始める。それを見て、ナツメは誰にもわからない様に小さく微笑み、すぐさま詠唱の邪魔をする様に走り始める。すると、それを阻む様にハルトが立ちはだかり
「炎堂さんの信念、邪魔立てはさせませんよ。」
すぐさま『武具精製』で湾曲した剣を取り出し、ナツメを足止めする。それをかわす様にハルトを飛び越えようとした矢先
「某 この様な事しか出来ない故。」
先程から姿が見えなかった龍膳が突如壁から現れ、ナツメを叩き落す。予想外の攻撃に驚きつつも、空中ですぐさま体勢を整える。しかし
「壁ドンにしては強すぎですね。ナツメ先生のバカ。」
少しムスッと膨れたミリアムがナツメの体を風で回転させる。
ここにきて絶妙なコンビネーションを見せられたナツメは、驚きのあまり声も出せずにそのまま地面に打ち付けられ
「『大地氷床』‼︎」
妃による土と水の混合魔法で手と足を床に結び付けられる。更に
「『夢喰・刹那昏睡』‼︎」
心菜がすぐさま手足についた氷を溶かそうとしていたナツメの意識を一瞬飛ばす。
「ー全てを燃やし、根絶せし世界。大地は灼熱に包まれ、新たな命すら拒絶する。朧に消える記憶、現となる意識。その全てを受け入れ、その全てを滅却せよ‼︎くらえ…‼︎『究極魔法‼︎鳳凰昇華』‼︎」
「まさかーっ⁈」
次の瞬間、訓練所のどこに居ても分かるくらいに噴きあがった炎により、ナツメ達が居た道は全て覆われた。