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翌日。
ナツメは今いる地点から一番近い『私立藤堂魔法学園』に足を向ける。
世界を救った勇者である事から、何の手続きも無く学園長室へと誘導される。
「失礼します。ナツメ・レイニーデイです。」
「これはこれは勇者様、よくいらしてくれました。お変わり無い様で…!」
驚きと喜びの混ざった表情で初老の男ー『藤堂平治郎』は立ち上がり、うっすらと禿げた頭を下げた。
「どうか頭を上げてください。その節はお世話になりました。」
実は藤堂とナツメは全くの無知では無い。と言うのはナツメが幼い頃、彼を指導した一人として藤堂はその場にいた。
ナツメからすれば、自身の師である様な間柄だった。
「この度はどの様なご用件でしょうか、勇者様。」
「そんな距離を置いた呼び方しなくて良いですよ、藤堂さん。実はお願いしたい事があって参りました。」
にこやかな笑顔と共にナツメは
「実はこの学園の教師になりたいのですが、だめですかね。」
と言葉を続けた。
当然、藤堂は驚くも
「レイニーデイ嬢の息子で世を救った勇者の指導を受けたく無い人間などかの魔王を探すより難しいですよ。」
と、快く承諾してくれた。
しかし、1つ問題がある。ナツメは教職員免許が無い上、はっきり言ってしまえば魔法学以外の学業は状況が状況だった為疎かにしていた。
詰まる所魔法馬鹿であった。
とは言え、藤堂もその点は考慮してあり免許が無くてもある一定の実績があればなる事が出来る魔法学の常在講師に任命すると言う形で手を打つ様で、
「ナツメ坊ちゃんのできる術を尽くして教えてあげてください。」
と、笑顔を送るのであった。
彼なりの手厚い待遇にナツメは感激し、喜びを表しながら藤堂の手を取って
「勿論、出来る限りを尽くして頑張りたいと思います。」
と、熱意を伝えた。
世界を救った勇者が常在講師として赴任したニュースは瞬く間に学園内に広がり、その噂はいつの間にかメディアにも伝わった。
そのインタビューに受け答えしつつも翌々日。
私立藤堂魔法学園への赴任を正式に発表され、世間は再び大いに賑わった。
「…という事で急ですが本日から赴任された講師を紹介します。」
朝、全校生徒と全教職員を集めた巨大な体育館のステージ上では、ナツメの紹介が行われていた。
「ではな、なななナツメさ…先生、ご、ご挨拶の方を…いたっ頂いてもよ、よよよろしいででしょふかっ⁈」
「…は、はい。」
それまでは冷静を保っていた女性が、ナツメが登壇すると同時に慌てふためき、噛み噛みになりながらもマイクを手渡す。
その様子に呆気に取られつつも一礼し、
「皆さん初めまして。ナツメ・レイニーデイと言います。皆さんの学業に少しでもお力添えができる様尽力しますので、お手柔らかにお願いします。」
と、先程の女性にマイクを返して降りて行った。
何とか自分は噛まずに挨拶を終えた事に対しホッと胸を撫で下ろすと、体育館からは割れんばかりの歓声と拍手が送られており、改めて自分がこの学園に赴任した事を感じさせられた。