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中を見渡すと、自分達が入ってきた入り口の反対側には出口の様な所があり、その上には露骨に『この先で待ってる。』と書かれた看板が掲げられている。
「これまでの流れだと確実に何かあるわね。皆、気をつけて。」
ルナが注意を呼びかけつつ、ゆっくりと進もうとした矢先
「私は消化不良だ。何が来ても怖くない。」
と、凛音が先程の竜を倒しきれなかった事を不満気に捉えてるのか、ズカズカと先頭を切って歩き始めた。すると、突然生徒達にスポットライトが照らされる。
『ようこそおいで下さいました。等闘技場最初にして最後のゲーム、3on3のデスマッチを開始したいと思います‼︎ルールは簡単。相手に参ったを言わせるか殺しきるかどちらかで決着。先に2勝したチームがこの先の道を進めます‼︎』
突然、レトロなスピーカーから音声が聞こえる。どうやら、実況らしい。その実況の声にどこから現れたのか、沢山の観客からの歓声が響きわたる。…いや、よく見るとただの観客ではない。その姿は皆服は着ているが全員骨ではないか。
「これは…‼︎巨大な蘇生陣⁈しかも、聖者が使うまともなものではなく、ネクロマンサーが使う悪質な、それこそ不死の軍団を作らんとするものじゃないか‼︎」
声をあげたのはハルトである。彼は両親を不死の軍団に強制参加させられて以来、聖者になる為の勉強を行っていたと言う。その言葉を聞き、まず最初に参戦の意を見せたのはルナだった。
「相手は多分同様に不死の可能性もあるわ。それも多分大将で来るはず。その場合私の魔法には破邪効果があるから効果覿面だと思うの。」
ルナの意見に一同は賛成する。次いで立候補したのは意外にも時丸であった。
「タイマンでの優勢さは確実に僕にありますから。世界唯一の力、使いこなします。」
その顔には一週間前の狼狽えた表情を微塵も見せる事なく、男らしい目で出口を見つめている。恐らく、早くナツメに認めて欲しいのだろうとルナは微笑み、時丸の参戦を許可した。
「では、3人目はわた「じゃあ私さっきから何も出来てないのでここで役に立ちますね。」おい貴様なんで‼︎」
喚き散らす凛音をミリアムが文字通り押さえつけ、心菜の立候補をサポートする。その様子に全員苦笑しつつも、心菜の噂を知っているルナはその立候補を認めた。
こうして、特別クラス側の3人は決まりルナ、時丸、心菜は中央に立ち相手を待つ事に。その間に他のメンバーは飛び火を喰らわない様骨がガシャガシャ鳴り響く観客席へとテレポートした。
『挑戦者チームはどうやら決まった様です‼︎さて、ではここで今回の相手であり現チャンピオンチームに入場してもらいましょう‼︎』
実況の声がテンション高めで相手の入場を知らせると、出口の方から出てきたのは両手を拘束されたフードを被った男。両足を拘束された前髪で顔が見えない女。そして、棺の中に閉じ込められている何者かだった。明らかに普通の人間ではない。そう感じ取った3人は緊張感を一気に高める。
「では最初は私から行こうかしら。対戦相手は…そっちで決めていいわ。」
足を封じられた女性は器用にバク転をしながら中央に向かい、こちらを向く。一方、生徒側は時丸が先鋒を務める事になった。
「よろしくね、坊や。大丈夫。すぐに殺してあげる。」
「…。」
「あらあら、黙りこくって。やっぱ坊やは怖くなったのかしら?」
無言で立ち尽くす時丸を笑う女。しかし、そんな事は気にせず、しきりにブツブツと早口で何かを時丸は唱えていた。
『両者出揃いました‼︎それでは始めます。standby…3.2.1 action‼︎』
開始早々女は両足で地を蹴り、手に隠し持ったナイフで時丸の頸動脈を狙う。
「お休み、坊「『解放魔法六重加速』」っ⁉︎」
女のナイフが時丸の頸動脈を捉える瞬間、時丸は魔力の流れを止めながら加速魔法を6度重ね掛けしていたものを一気に解放し、音速を軽く超えたのか真空波を起こしながら女の背後を取る。
「荒ぶる時の奔流、禁断の速さを手にした進化。人の尺度を超え、その者に確かな死を‼︎」
「まっまって、今降参するから…っ‼︎」
「『超速時間・走馬灯』」
時丸が女に触れた瞬間、みるみるうちに女の体が年老いていき、最後は完全に皮が骨に張り付くまでに衰退、そのまま強制的に衰弱死をさせた。
「すみません、敵には情けをかける方が失礼だとナツメ先生に教わったもので。」
完全に息の根が止まった女を一瞥すると、そのまま2人の所へ向かった。
「お疲れ様、何というか中々にえげつないわね。貴方の…いや時間魔法と言うのは。」
「あれで中級魔法ですからね。本当に怖い魔法ですよ。とりあえず後は任せました。」
労うルナに一礼した後、心菜にハイタッチをして選手交代を知らせる。心菜はそれを快く受け取り、笑顔で向かう。
「…俺の相手は嬢ちゃんか。うっかり殺しそうだな。」
「貴方達はその負けフラグを毎度言わないと気が済まないのですね。」
心菜のツッコミに首を傾げる男。しかし心菜はその動作を見逃さず、隙をつき自身の指に触媒が拵えてある指輪をはめる。
「大丈夫、一番綺麗な死に方にしてあげますよ。」
「頼もしいねぇ。始めようか。」
『さて、先鋒戦圧勝の霧雨選手でしたが、中堅はどうなることか‼︎
流れを持っていくか?それとも大将に希望を託すか‼︎standby…3.2.1 action‼︎』
実況の掛け声と共に心菜は駆け出す。それに対し男は両手を振り上げ、心菜を、迎撃する構えをとる。しかし男の行動を気にせずに近づいていき、目前で止まる。
「っ‼︎」
男が振り上げた両手を一気に振り下ろす。当たれば最低でも失神するレベルの打撃に対し、心菜は魔法を唱える訳でもなくその打撃を右手で流し力を流しながら足を絡め、男の力を利用して思い切り投げ飛ばす。
不意に力を流された男は踏ん張りも効かず心菜の意のまま飛ばされ、二転三転して背中から落ちる。すかさず心菜は魔法を唱え出す。
「微睡みし深淵、深みに嵌る闇黒。永久の檻を作りし睡魔よ、苦痛と共に汝を仕留めよ。『夢喰・串刺悪夢‼︎』」
魔法が唱えられた瞬間、男から生気が消える。その数秒後、男の体の至る所から血が噴き出しまるで全身を串刺しされたかの様な状態になった。
『二連続で秒殺‼︎挑戦者強い‼︎この結果、挑戦者チームの価値となりました‼︎』
実況の熱狂した声に感化された観客は大きな歓声と共に骨を鳴らす。
「2人とも凄いね。先輩としても焦せらざるを得ないよ。」
楓の漏らした言葉に頷きながらも一同はルナを見る。試合をせずとも勝利を手にした彼女は少し退屈そうにしながら時丸と共に心菜を迎え入れた。
『さて、一応必要ないですが大将戦も行いますか?どうしまー「戦うまでもないわ。」』
あまりにも退屈だったらしいルナが実況を割り込む様に声をかけ、棺を指差す。すると、魔法すら詠唱せずに指先から一筋の光を打ち出し、音も無く貫いたと思えばいきなり棺が燃えだした。
「ただでさえ最速の魔法なのに無詠唱で行える私に負けなどないのよ。」
燃える棺を意ともせず横切り、先行して出口へ向かう。それに続く様に時丸、心菜が。そして慌てながら他の面子が後ろについていった。