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Dクラスの他の生徒とは別に桜に個人指導を始める。
その様子は真剣そのもので、先程まで笑顔だった桜も真面目な表情でナツメの後に続いてた。
しかし、それが凛音とミリアムにはあまり喜ばしくないのか、お互いに中級魔法をぶつけ合っている。
「なんなのよ御堂の奴‼︎」
「さっきまで面倒臭い感丸出しのグータラ娘のくせに…‼︎」
その様子に周りの生徒は苦笑いしながら爆風を必死に避けてる。
しかしその様子を気にせず二人は真剣に基礎を鍛えており、時折お互い見せる笑顔が余計苛立ちを増す形になった。
「大体ナツメもナツメだ‼︎昨日私達を褒めた癖に‼︎」
「天性の女ったらしだ‼︎」
遂には私怨まで入り始める。
しかも、互いに上級魔法の打ち合いになり始めたものだから流石に他の生徒は離れ始め、竜三ですら引きつった笑顔を見せる。
「ここまでくると凄いな。執念とはなんとも恐ろしい。」
魔力が尽きたのか、肩で息をして打ち合いを中断した二人に張が声をかける。
すると二人は睨みながらそれを否定しつつナツメと桜を見る。
ちょうど二人は土系統魔法の練習をしているのか、砂埃が舞ったり、地面が揺れたりしていた。
「付きっ切りの指導が羨ましいのは貴様ら位だ。私とミリアムはやる気のない桜にあり余り過ぎている才能が妬ましい。」
「そうね。『4大元素なんて知らない』って意地はってた桜が適正あるとわかった途端これなのが苛立たしいわ。」
勿論ナツメを独占しているのも…とミリアムは言いたそうにしていたが、凛音が断ってる以上その点は言い出しづらいものがあり伏せた。
しかし、張には理解できたらしく、少しにやけたまま
「そういう事にしておくよ。」
と言い残し去っていく。
少しムッとしたミリアムをよそに、張は溜め息を吐きながら素直じゃない二人を自分事の様に微笑む。
口では言わないものの、このクラスの誰もがナツメの個人指導を受けたいし、その気持ちは人一倍負けず嫌いなあの二人が無いわけないと理解しているからである。
「こうなったら桜に負けない位強くなるぞ。ミリアム、貴様もだ。」
「勿論。当たり前じゃない。」
魔力切れを気合いでカバーするかの様に大声を上げて立ち上がり、二人は再度魔法の打ち合いを始めた。
一方ナツメと桜は一通り基礎を練習した後に休憩を取っていた。
「ほら、御堂。これ飲んどけ。」
ナツメから林檎ジュースを手渡され、それを飲む桜。
この時間実に数十分ではあったが、今までにない程濃密な時間となっていた。それ程までにナツメにとっても桜にとっても嬉しい出来事だった。
「ウチ初めてこんなに満たされてる…‼︎」
おかっぱを揺らしながらにっこりと頭を振り、ナツメに寄りかかる様にして休憩をしている。
そんな桜をまるで妹を見るかの様に見つめるナツメは、何も言わず微笑見返す。
「この調子なら今月中にも中級魔法を全部使いこなしそうだな。」
「本当?そう言ってもらえると嬉しいな〜。」
「お世辞でも何でもない。なんだかんだ今まで努力していたんだろ。でなければこんなに早く系統初級を使いこなせない。」
「そりゃ勿論‼︎ウチは陰で努力するタイプだし。」
控えめな胸を突き出し威張る。
努力を褒められて嬉しかったのか、桜は照れた様に笑い、思わずナツメはその頭をぽんぽんっと撫でる。
ブチィッ‼︎
「日輪の光よ、全てを焼き尽くす紅炎よ。何人たりとも触れられぬ領域で、ただひたすら咲かせ一輪の花。遥か彼方の高嶺に咲き誇れ‼︎『皇王紅炎』」
「大いなる風よ。全てを宥める王なる風よ。怒れるその身を汝に、怒涛の波を絶え間なく届けよ。今全てを解き放ち、この地を荒廃させよ‼︎『竜王翼刃』」
何かスイッチが入った二人は急に上級魔法をぶつけ始める。
その爆音にナツメを含め全員が驚き、ナツメがやり過ぎだと焦って警告しに行くも
「「貴様が悪い‼︎」」
と二人は睨んでソッポを向くだけだった。