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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
勇者、指導する。
11/110

2-3

驚きと焦りが生まれる中、一番驚いていたのは当の本人ー霧雨時丸キリサメトキマルであった。

彼はAクラスの中でも下の方で、入れ替え時転落を左右されている一人でもあるが故、自身の適正が超越魔法の…それも『時間』を操る魔法の適正だとは夢にも思わなかった。


「な、何かの冗談でしょうか。」


思わず半笑いで問いかける時丸。

しかし、冗談だと思いたいのは時丸だけではなく竜三やナツメも同じであり、二人も思わず半笑いで返してしまう。


と言うのも、過去に時間を操る魔法は開発された事はあれど適正者が出た事はない。つまり、時丸は世界で初めて時間を操る魔法使いとしてこの世に存在していた。


「…診断は偽りなく行われる。こちらとしても驚きではあるが…事実だ。」


いよいよ今年の1年は化け物揃いだ。

そう心で呟いた竜三は、取り敢えずナツメの元に行く様伝える。

頷くことしか出来ない時丸は、ナツメの元に行くもナツメも引きつった半笑いのまま固まっており、時丸に声かけられるまで我を忘れていた。


「霧雨、これまでに時間操作魔法を使った事は?」


「もちろんないです。あの、先生僕は一体どうすれば…。」


世界唯一の適正を見出された少年は、事の重大さが後々になって理解できてきたのか、オロオロと狼狽え始める。

しかし、それではいつまでたっても進まない為、ナツメは昔教えられはしたができなかった初級魔法の練習法を伝える。


「いいか、時間を操る魔法の第一歩は時間固定だ。浮遊魔法の応用だが術式が一切違う。間違っても自身の体で練習はしない事。いいな?」


ナツメの言葉に頷きながらメモを取る。


「さて、では術式を教える。が、これは口頭で教えれるものではない。今から霧雨の頭に直接焼き付けるから我慢しろよ?」


ナツメの何時にない真面目な表情に時丸は唾を飲む。

次の瞬間、ナツメは時丸の頭を掴みながら詠唱し、脳に、体に直接術式を刻み込む。

身を裂かれるような痛みを感じた時丸は、思わず声をあげて叫び、苦痛に悶える。しかし、ナツメはそれを気にもとめず詠唱を続け、時間魔法の基礎を時丸に刻みつけた。


やがて、詠唱を終えた頃には時丸の体の至る所に魔法文字が浮かび上がり、一度薄く光った後に何事も無かったかの様に消えていく。


「無事終了だ。よく耐えたな。霧雨。」


「がっ…はぁ…っ‼︎死ぬかと思った…っ‼︎」


目に涙を浮かべながら肩で息をする時丸に対し、謝罪をしながら深呼吸をうながす。

その後、実際に体験させる為にナツメはどこからともなく取り出したマグカップを宙に浮かせる。


「これに対して時間固定魔法を使ってみるんだ。成功ならハンマーで叩いても割れる事なく止まっている。」


「わかりました。では…

無慈悲なる時の拘束に抗え‼︎『時間固定ストップウォッチ』」


時丸が魔法を唱えると、それまでふわふわと浮いていたマグカップがピタリと止まる。

それをナツメがすぐさま魔法で撃ち抜くも、マグカップは微動だにしない。

しかし、その2秒後にマグカップは急に爆散し、粉々になった。


「うん、成功だ。今の所2.5秒が限界っぽいが鍛錬すれば伸ばせる。これが10秒以上止めれる様になったら、『加速』や『鈍速』系の時間魔法を覚えると良いよ。」


「はい…‼︎ありがとうございます。…っと。」


お辞儀をした拍子に足がおぼつかないのかふらついてしまう。


「まぁ無理もない。時間魔法は使用中効果がある間使用者の魔力を食い続ける。あまり使い過ぎるとすぐ燃料切れを起こすから魔力量を増やしながら頑張るんだ。」


ふらついた時丸にナツメは手を貸しつつ、にっこりと笑う。

まるで昔を思い出すかの様に懐かしみながら時丸に『活力増強』をかけるのであった。


その後、Aクラスの診断も終わり授業終了のチャイムがなったところでナツメと竜三は昼食へと向かう。

と言っても竜三は藤堂に食事を用意されているが、ナツメは意外にも学食に向かわないといけない為、方向は別々である。

その為、一人学食へ向かっていると道中で心菜と出会う。


「あっこんにちわナツメ先生。これから学食ですか?」


「ん、ああ。そうだが夢見もか。」


「はい、今日は学食で食べてみようと思ったので…。」


どうせならと心菜と二人で学食へ向かうが、その矢先


「貴様‼︎貴様も学食か?私もだ。故にお供する‼︎」


と、凛音が現れ更に


「あら、ナツメ先生こんにちわ。皆で学食なら私もついて行くわ。」


とミリアムまで現れ


「ちょ、皆さん私のナツメ先生と学食なんてずるいです‼︎私もいくー‼︎」


レイナまでもが引っ付いてきた。

思わぬ所で団体になったナツメは苦笑いしつつも学食に入ると、流石は学園。まるでフードコートの如く構えた店にどれだけの人数が入るのかすら分からないほどの座席があった。


そこで各々好きなものを頼みナツメを囲む団体で食事を楽しんでると


「1年が学食っていい身分だな。」


あろう事か2年の生徒が絡んできた。

が、その2年が威嚇しようとした矢先


「おいまて、よく見ろ。あの席はダメだ。『勇者』に『夢喰』…それに『鮮血女帝』と『炎獅子』、『風巫女』って化け物卓だっ。」


「っ⁈し、失礼いたしました‼︎」


ツレらしい人の耳打ちにより、荒事を起こす前に退散した2年の生徒に対し


「…?」「喰い損ねましたね」「あの子私の言われたくない異名を…」「ミリアムその唐揚げ貰うぞ」「しょうがないわね」


と、2名を除き気にもとめていない様子だった。

やがて食事が済んでナツメが席を立とうとした時


「さってと〜、デザートだ〜‼︎」と頬を緩ませながらみかんゼリーを取り出した凛音に思わず吹き出す。


「なっ、貴様何故笑う‼︎」


いきなり笑われたのが恥ずかしかったのか耳まで真っ赤にしながら凛音がナツメを睨む。


「ごめんごめん。炎爺も食後にみかんゼリーを毎度食べてたから…そこも受け継いでるんだなって。」


「勿論。我が家には専属のみかんゼリー工場がある位には家族全員みかんゼリーが好物だぞ。」


思わぬカミングアウトに目が点になりつつ、幸せそうに食べる凛音を見ていると


「…貴様、ハズいから見るな。あとこれはやらんぞ。」


と頬を染めてそっぽを向いた。

その様子にレイナがいち早く私を見てと言わんばかりにナツメをガン見するも、それを苦笑いでスルーしつつ窓を見つめる。

思えばこの様に皆で食卓を囲んだのは魔王討伐前夜が最後であった。

それ以来一人で生活する様になり、毎日の食事は大抵ファーストフードで済ましていた。 故に周囲を見渡し、一緒に食事を楽しんでくれた生徒やレイナに対し、心の中で感謝しつつ席を立ち上がる。

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