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ルナの様子に安心した表情を見せた2人は、強がりつつも疲労感を漂わせており作り笑いでルナにハイタッチする。
「ちょっと休んでなさい。私が今から凄いの見せてあげるから」
「へっ、どうせ跳ね返される魔法だろ?」
「さぁね?ナツメ先生でもそれは無理じゃないかしら」
自信満々で答えるルナの眼差しは真っ直ぐリヴァイアサンを貫いていた。対し何かを察したリヴァイアサンも彼女を睨む。先に仕掛けたのはリヴァイアサンだった。
自身の口を覆う大木を強引に裂いたリヴァイアサンは、双頭をルナの方に向け高圧のブレスを吐き出す。今までとは違いどんどん威力を増すそれは宛ら迫り来る水の壁となり、やがて風を切る音を立ててルナへと向かう。だが、それを気にせずに両手を広げたルナは、静かに詠唱を始めた。
「天翔る光、清光の星々。全ての罪を断罪する光は、天の加護を受け地を裁く。満天の夜空、蒼天の一矢。七つの罪を裁く光よ。かの者の罰を裁き、星々の下全てを昇華せよ。裁け……究極魔法『七欲懲罰』‼︎」
まだ昼間だというのに月が輝き始め晴天の空はいつの間にか夜空へと変わる。天候をも変える程の魔力を注いだルナは、迫る水の壁を微笑みながら見つめつつ、左手を空に掲げ、何かをなぞる様にゆっくりと振り下ろした。
次の瞬間、空に無数の星が輝き始め、その星から輝く光が水の壁を貫き、リヴァイアサンの腔内を串刺しにする。膨大な魔力が込められた光に触れた水の壁は音を立てて蒸発し、リヴァイアサンの喉をも溶かす。だが、それで終わりではないとばかりにルナは2振り目を振り下ろす。次は脳天から地面に縫い付ける形で光が降り注ぐ。3度目。尾。4度目、もう片方の頭。5度目……胴体を縦に、6度目。横から。そして7度目を振り下ろした。
『この魔法は……くそ、何という‼︎』
「唯の楔では無いわよ。その身の魔力、全て封じさせて貰うわ‼︎」
最後に頭から尾にかけて一直線に貫いた光の楔は、消える事なくリヴァイアサンの体に宿る魔力を蝕む。普段使う直接的な攻撃魔法と違い、相手を完全無力化させる目的の『七欲懲罰』は、如何に相手が素早くても、防御魔法を展開していようとも効果があり、複数での戦闘においてこれ以上の効果を発揮する魔法は無かった。
「それじゃあ後は任せたわ」
徐々に体を纏う光が薄れていき、最後に笑顔で5人を見た後気を失う形で落ちていく。それをイギリス付近に居たセルベリアが風で受け止め、龍膳達の居る場所まで運ぶ。
「任されたらやるしか無いな」
「ええ、そうね。やるしか無いわね」
再び振り向き、リヴァイアサンを見る。相手は回復だけが早い大きな蛇。負ける訳がない。
『魔力が尽きようとも……貴様らを殺す事は出来る……‼︎』
掠れた声で叫ぶリヴァイアサン。その大声は衝撃波を生み凛音達の頬を裂く。だが、その程度だ。近くで聞けば耳から出血し、全身を切り刻まれる程の声だろう。しかし、身動きの取れないリヴァイアサン相手ならば近づかなければいい。そして2人には遠くから敵を倒す術がある。勝利は決まりきったも同然だった。
「ミリアム。全力でぶつけるぞ」
「分かってるわよ。制御度外視の魔法を放てば良いのよね」
2人は最後の活力薬を飲み干し、魔力を高める。炎の如く揺らめく魔力を纏い始める凛音と、嵐の如く巻き上がる魔力を纏うミリアム。2人は同時に詠唱を始めた。
「生命への天罰、女王の蹂躙。海をも焦がす灼熱の炎は、天より導かれ全てを燃やす。龍すら嘶く恐れの一撃は、形ある物を無に帰し終焉の地を築き上げる。破滅の始まり、再生の礎。新たなる道程を生み出す石は、空の彼方より降り注ぐ。全てを潰せ……」
「女神の調、母の息吹。芽吹く花を刈り取る風は、風車を回し盛者を支える。帝を導く大いなる風、大地を削る悠久の風。古より出でる大気の鼓動は、全てを砕く王者の威厳となるだろう。天よりうがて……」
『究極魔法‼︎』
「『女帝隕石』‼︎」
「『皇帝風靡』‼︎」
同時に魔法を放つ。自身が持てる全てを出し切る一撃は、海をも斬り刻む大輪の竜巻と、天を切り裂く巨大な隕石となりリヴァイアサンを捉える。
『くっ……そんな魔法で我が屈すると……』
だが、自身の膂力のみで必死に堪えるリヴァイアサン。だが、防御魔法すらない生身で受ければ当然抵抗などできる訳が無くー
『グォォッ‼︎我が‼︎我……がー』
爆音と共に大地にめり込んだ隕石はリヴァイアサンの体を両断し、衝撃で跳ね上がった前後の体はミリアムの生み出した風により微塵にまで切り刻まれた。