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先生始めました。by勇者  作者: 雨音緋色
生徒、躍動する。
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11-5

 もはや地球上の生物とは思えないその怪物は、空気を引き裂かんばかりの咆哮を放つ。それはもはや声なんて物ではなく衝撃波としてルナ達を襲い一同は思わずたじろぐ。


「なんて大きさ……‼︎日本で見た奴の何倍も大きいわ……ッ‼︎」


「慄くな‼︎貴様らそれでもナツメ先生の生徒か‼︎」


 予想を遥かに超える巨体に身体中から冷や汗が吹き出す。しかし、凛音の怒号により気を取り直した生徒達は一斉に怪物に向け魔法を放つ。しかし、怪物はまるで蚊に刺された程度と言わんばかりに見向きもせず、ただ一点をー凛音を睨み付けていた。


「私に何の用がある。貴様はコミュニケーションも取れないのか?」


『我の眠りを妨げる愚かな者がこの様な小さき女子とは……その身に宿す力こそ素晴らしかれど同胞を打ち破ったのか強者に非ず。何とも妬ましい事。我が怒りをその小さな身体で受け止めるなど到底不可。死闘を繰り広げ本望のまま死を遂げた同胞が何と羨ましい事か』


「……んだと……⁈私よりナツメ先生が良かったってほざいたのか貴様は‼︎」


『肯定しよう。貴様では我の怒りを受け止める事は出来ぬ。強き者を呼べ。さすれば命は見逃そう』


 明らかな侮蔑に凛音の中で何かが切れた。それを対した事とは捉えない怪物は、その体を再び海に沈めようとー


「穿て‼︎『暴風衝波バーストウインド』‼︎」


『ぬぅッ⁈』


「それじゃあ2人で相手してあげるわ。海蛇如きの相手にこんなにも人数要らないし」


 凛音よりも早く魔法を唱え怪物の額に高圧の風弾を叩き込んだミリアムが、凛音の横に降り怪物を睨み付けた。


『小賢しい……幼子が2人になった所で変わらぬ。』


「それは試してからにした方がいいわ。海の中じゃ海蛇の三枚下ろしショーも干物ショーも見れないもの。まぁ不味そうだからそのまま廃棄だけど」


『口の減らぬ幼子共だ……。良いだろう。そこまで言うならこのリヴァイアサン。弱き者共を蹂躙しよう‼︎』


 再び咆哮をあげる。しかし、先程とは違い動揺を微塵も見せない一同にリヴァイアサンは僅かに口角を上げる。そして次の瞬間ー


「なっ…ふざけんな‼︎」


 頭がもう一つ現れた。


 双頭を見せつけるかの様に波打つリヴァイアサンは、その動き一つで津波が起きる程に身体を動かす。しかし、近郊陸地では既に動いていたセルベリア達首脳陣が波打ち際に防波堤代わりの結界を張り巡らせている為安全だった。


「おいルナ会長‼︎貴様らはそっちの頭を止めてて欲しい‼︎私とこいつで完全に潰す‼︎」


「な……っ⁈無謀な試みはー」


「そんなのやってみなきゃわかんないわよ‼︎」


 2人は言葉を放つと詠唱しながらリヴァイアサンに近づく。その様子に諦めたルナは溜め息を吐きつつ周囲に伝える。


「ああもうっ‼︎わかったわよ‼︎鈴蘭‼︎貴女達で奴の魔法を潰して‼︎龍膳君‼︎奴を止めてて‼︎霧雨君はそのカバー‼︎心菜ちゃんは……臨機応変に‼︎他の魔法使いの方々はイギリスの防衛と戦闘補助‼︎行くわよ‼︎」


『了解‼︎』


「こうなりゃヤケよ‼︎『極光爆砕スーパーノヴァ』‼︎」


 ルナの掌から巨大な光の球が放たれる。思わず目を覆いたくなるその輝きは、リヴァイアサンの喉元で爆発しその巨顎を打ち上げる。しかし、表面が薄く焦げた程度のダメージしか与えられなかった。

 それでもその隙を見逃さないルナは龍膳にすぐ様追撃を命じる。


「御意‼︎したらば某の秘技を‼︎

金剛の肉体、羅刹の如く手腕。修羅をも越える強き意志は、森羅万象を得て六道を進まん。地獄の道を苦もなく進む破壊僧は、その身に宿す仏の加護を捨てる。その者鬼となりて、悪鬼羅刹を体現せん‼︎破道‼︎禁忌……『鬼神暴僧キジンボウソウ』‼︎」


 瞬間。龍膳の体が赤黒く変色し、その巨体を更に大きく膨らませる。その筋肉はどんどんと膨れ上がり四肢はまるで大木を思わせる程厚みを増していく。


「いざ、尋常にッ‼︎」


 やがて鬼の如く顔を強張らせた龍膳がリヴァイアサンの顔目掛け飛び出す。その速さは隣にいた筈の時丸ですら見失う程早く、再度見つけた頃には既にリヴァイアサンの上顎に掌底を放っていた。


『ぐぬぅ…ッ‼︎』


「凄い…‼︎」


 息つく間もなく放たれる鬼の一撃。その全ては人間の膂力とは思えない程の力強さを見せ、次々とリヴァイアサンの顔へと打ち込んでいく。


『ぐぅ…その膂力……誠に人間か……っ⁈』


「否、『鬼神暴僧』を発動した某は人に非ず。鬼と知れ‼︎」


『なんと……‼︎面白い、面白いぞ‼︎ならば良い、我が力を喰ろうてみよ‼︎』


 防戦一方だったリヴァイアサンは一転。龍膳に向け口から幾数もの水弾を放つ。だが、それは突如消えた龍膳には当たる事なく、空の彼方へと消えていった。


「カバーとはこういう感じですか?」


「これは霧雨殿‼︎助かり申した‼︎」


『時を司るだと⁈何者だ貴様達は……ッ‼︎』


 龍膳が突如消えた理由を、その一瞬で気付いたリヴァイアサンはここに来て初めて驚愕する。しかし、それでも攻め手を緩める事の無い怪物は2人を水の牢で囲みー


「「「相乗展開‼︎木剋水‼︎『裏木リモク吸水還元キュウスイカンゲン』‼︎」」」


『極東の魔法使い‼︎おのれ……ッ』


 その牢が完成しきる前に御堂3姉妹によって時丸と龍膳が消費した魔力へと還元された。完璧な連携を誇る生徒達に認識を改めざるを得なかったリヴァイアサンは、三度咆哮をあげる。すると、海面からはリヴァイアサンよりも二回りほど小さな海蛇が大量に現れる。


「なんて数…‼︎これでは……」


「私の出番ですね‼︎行ってきます‼︎」


 ルナの横から心菜が飛び出す。大量の海蛇を前にした彼女は、魔力を練り上げつつその手を翳す。


「草原なびく風、高らかな青空。心地良さを覚える風景は、人々の心を癒し日々の疲れを取り除く。荒んだ心に一時の安らぎを。『夢喰ドリームバイト快眠誘惑グッドナイトララバイ』‼︎」


 辺り一面を埋める海蛇達は、心菜の魔法が発動した瞬間一斉にその巨体を倒し海の底で眠り始めた。だが、倒される前提で呼び出したのかすぐ様現れた新たな海蛇の集団に心菜はその表情を崩し苦笑へと変える。


「これは……本当に根絶やしにするつもりで魔法を使わないといけませんね」


 その言葉は誰にも聞こえず、小さな呟きでしかなかったが表情は違った。


 普段の優しい微笑みは消え、悪魔を思わせるような冷笑を浮かべていた。

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