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その後、各自朝食を摂った一同は階下の会議室へと向かい、海底に潜む7神柱の動向を探る。ちなみにその動向を探る為に活用されているのは、以前龍膳が仕掛けた罠による監視と感知の罠だった。
「某の感知が正しければ、依然動きは無いままではあるものの、その体内に秘めたる魔力や如何なる魔法使いでも匹敵せず。誠恐ろしき生物といった所」
「成る程。ありがとね龍膳君。さて、これをどの様に動かすかを考えましょうか」
龍膳に変わり壇上に上がったルナは、その場に集まった生徒含め大勢の魔法使いの前で話し始める。その肝の座り方は流石600人超えをしている藤堂学園の生徒会長と言うべきものだった。
「一番の手段は海面を割きその体を外に晒す事かと。水の魔法使いが複数名集い唱えれば可能かと」
「成る程、しかしそれでは逃した海面が戻る際大津波が起こり得ます。近隣国家が多大なる被害を生むでしょう」
「確かに……ではー」
その後多数の意見が出るも、その全てが二次災害を考慮しなければならなかった。結局最善手が見つからず一同が黙り込む中、小さな掌が勢いよく上がった。
「面倒だ。海の温度を急激に上げれば出てくるだろう‼︎そんなもの貴様らの手を借りなくとも私1人で出来る‼︎」
「凛音、確かにそれは良い案だけど…けど、周りの海洋生物はー」
「そんなもの奴が居座り続ければ漁師達はまともに漁など出来ん‼︎ならば先に海上に奴を上げすぐ様私が海音を下げる。そして出てきた所を全員で叩けば奴の注意は此方に向き戻る事は無い‼︎」
その言葉に反論が浮かばなかったルナ。一方、珍しく弁論で勝った凛音は、ドヤ顔で周囲を見回すと、腕を組んで壇上に上がった。
「貴様。今のままでは近隣国家の被害は増す一方だ。目先の被害を気にし過ぎて先の損害を忘れてはいけない」
「尤もな意見だ‼︎流石は日本の姫‼︎明朗快活‼︎実に愉快‼︎」
勢いよく開いた扉と、一度聞けば覚えてしまう程の大声に一同は思わず入り口を見る。すると、そこには対ロシア防衛戦を築いている筈のシュバルム、リリーナ、龍虎の姿が現れた。それに驚いたセルベリアは立ち上がり、3人を糾弾する。
「貴方達⁈ティアナへの対策はどうしたのです⁈」
「安心せよ『戦乙女』。それにおいては『幻惑師』が既に手を打っていた。事態を急するはこの目下のみだ」
セルベリアを諌める形で龍虎が前に出る。その言葉を聞き、どこか思い当たる節があったのかセルベリアは表情を一転させシュバルムを褒め称えた。
「つまり、成功したのですね⁈」
「ハッハーッ‼︎この私に惑わせぬ者など居ないのだよ、歴戦の乙女よ。」
「そゆこと。……良い方と存在と声がムカつくけどここはリュンを信じて良い……」
目の端で足を踏み合うシュバルムとリリーナを他所に、ルナは安心した表情を見せる。これだけ居れば流石の7神柱でも何とか出来るだろう。そう感じたルナは表情を引き締めー
「貴様ら‼︎私に続け‼︎奴を仕留めるぞ‼︎」
「ちょっと‼︎凛音、それ私のセリフ‼︎」
勝てる。そう思い一同は席を立ちイギリスの端へと移動した。
目下に広がる大海原を目にした一同は、そのどこかにいるであろう敵に備え身体強化の魔法をかける。
「では行くわよ。魔力を切らしそうになったら遠慮なく近くの陸地に向かって。空中で意識を失えば元も子もないわ。では……降下‼︎」
ルナの号令で一同は空都の末端の陸地から足を離す。勢い良く降り立った総勢100名余りの魔法使いは、まるで翼を広げた鳥の如く陣を敷き大きく空を制する。そのままある程度の高度で静止した一同は、一斉に凛音の方を向いた。
全員の視線を集め僅かに息を飲む凛音。だが、それも束の間。すぐ様魔力を高め右手を天に翳した。
「灼熱の炎輪、陽光の噴出。全てを照らす太陽の熱は、その焔を振り撒き辺りを熱する。紅蓮の蓮華、煌光する紅炎。灰燼に帰さん焔のうねりよ、我に集い数多を燃やし尽くせ‼︎降り注げ‼︎『炎華乱落』‼︎」
凛音の周囲の温度が急激に上昇し、その周囲には眩く光る紅蓮の炎が巻き上がる。そしてそのまま空気中の酸素を貪り続けた炎は、巨大な華の如く花弁を咲かせた。それを見た凛音は周囲に目を配り静かに頷く。一同が頷き返したのを確認した凛音は右手を振り下ろしー
「グァァァァァォォォォォオッ‼︎」
急激に上昇した海温に驚き怒り狂った7神柱がー巨大な海蛇の様な姿をした『嫉妬』と呼ばれる生物が海面に全貌を晒した。