11-3
乾杯の音頭の後、参加者はそれぞれ談笑しつつ食事に勤しむ。そんな中、ナツメを始めとする中枢集団と生徒達は一つの卓を囲み真剣な表情で話し合っていた。
「……と言うのが魔界からの情報だ。まぁ見た事がない物だから信じろと強要しないが。それに対し天界も動き出すかもしれない」
「成る程。なんともスケールの大きな話だが…信頼には値する情報だ」
『当たり前でしょう。私達の真実なる言葉ですので』
振り向けばどこから取り出したのか、酒瓶を抱えながらグラス片手に呑みつつ卓上にあるつまみを食べ、ナツメにもたれかかっているヴェルダンディが現界していた。そのなんとも自由な姿に一瞬言葉を失いかけたナツメだが、気を取り直しつつ話を続ける。
「さて、こちらの話も終わった所で今度はルナ。お前達の話を聞きたい。どの様にして奴を倒したんだ?」
「そうね、ではその時の様子を再現しながら話しましょうか」
ルナは立ち上がるや否や詠唱を始める。その様子に周囲がざわつき何かのショウが始まるのかとルナの方を見つめる。
「思い出の投影、幻想たる風景。過去の産物を映像にし、その勇み足を映し出さん。『投影幻画』」
ルナの手元を離れた魔力の光は、大きな長方形のスクリーンとなり真ん中には笑顔でピースをしているデフォルト化されたルナが映っていた。
「……相変わらずの趣味で」
「そ、そこは良いんです‼︎それより始まりますよ‼︎」
まるで映画の様にカウントダウンが入った映像は、次の瞬間第三者視点で映し出された映像へと切り替わる。
「……おい、まて。お前の寝相はこんなに良くないぞ」
「もう‼︎ナツメ先生の馬鹿‼︎そこはスルーしてくださいっ」
ナツメの言葉にルナと同室で寝た経験のある女性陣が頷くも、それを無視して映像は動き出し、戦闘が始まるまでの経緯から説明を始めたー
ーナツメ達が出発した翌日。唸り声をあげる桜に起こされたルナは、以前ナツメに買ってもらったぬいぐるみを抱きしめつつ憂鬱そうな顔で溜め息を吐く。
(果たして本当に上手くいくのかしら。失敗したら……はぁ。ダメよね。失敗はイコール死よ。全てが終わってしまう。最低でも皆を生かしてナツメ先生にバトンタッチしないと……)
実際、相手が相手である。あのナツメやセラフィムを苦しめたルシフェルと同格の相手に今度は自分達が向き合わなければならない。ルナの頭はその使命に対しての恐怖と生徒を纏め上げなければならない使命感で一杯だった。
だが、それもその筈である。もし、これが兵器を使った戦争ならば1人対約100人。いかに強い人間だろうと武器の使える者に集中砲火を喰らえばひとたまりもない。しかし、これが魔法となると話が変わる。魔法は1人の方が『効率が良い』のだ。
と言うのも、強大な相手を倒す魔法となればそれだけ効果範囲も大きくなる。無論、ルナの様にタイマンに強い魔法使いならばこらは別だが大体の魔法使いは前者となる。つまり、フレンドリーファイアを考えなくて良い1人の方が多少の力の優劣はあれど効率自体は良くなる。
そして相手は言ってしまえば悪の化身な1人。もし仮に味方がいたとしても、味方ごと倒す可能性がある。しかし、こちらは非常になりきれない生徒達に、実力は確かだが飛び抜けた力がある訳ではない国家魔法使い。そして飛び抜けた力はあるものの、国の防衛に大部分の力を注がなければならないセルベリアである。結局は自分達がメインで戦わないといけない状態に、ルナは悩まされていた。
頭の中で悪戦苦闘しつつ隣で熟睡する親友の妹を見つめる。その幸せそうな寝顔を見て苦笑しながら、ルナはそっと呟いた。
「……貴女は幸せそうで羨ましいわ。どんな夢を見ているのかしら。」
「……むにゃ……ナツメ先生……ご飯にする?お風呂にする?それともーふぎゃ⁈」
前言撤回。自身が使っていた枕で思い切り寝顔を叩いたルナは、目を吊り上げながら桜に対し大声で怒鳴った。
「ナツメ先生を夢の中でも旦那にしないの‼︎何朝からそんな破廉恥な夢見てるの‼︎本当貴女は節操なしの痴女ね⁈」
「やっ、やめてっ⁈先輩痛いからっ⁈こんな激しいモーニングコール頼んでないですよっ⁈」
朝から喚き散らす2人。その声に驚いたセルベリアは急いで2人の部屋へと向かい、心配そうな顔で扉を開けー
「「ごめんなさい。」」
「脳天気なのは良いけど、もっと気を引き締めて下さいね‼︎」
2人の様子に激怒したセルベリアは、正座をさせたまま説教をし頭に血を昇らせながら部屋を後にした。