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その後一同はテレポートをせず国民達に見送られながらジェシカの用意した車に乗り込む。例の如くバカ長いリムジンを用意した彼女は特に気にする事もなく乗り込むが初めて乗るらしいリリーナとシュバルムは驚き、龍虎は乗るくらいならと準備運動を始め走ろうとし始めでいた。
だが、それをジェシカが止め無理矢理引きずり込まれた龍虎は溜め息を吐きながら諦めた様子を醸し出しており、その一部始終を見ていたシュバルムが笑いだし更にそれをリリーナが頭を叩いて黙らせるという謎の連鎖が生まれていた。
「何という事だ、本当に走ってる。俺はこのまま死ぬのか、教えてくれ神よ……‼︎」
「情けない。武帝ともあろう人が車に乗っただけで怯えるなんて。それに貴方儒教でしょう」
「そういえばそうだ。祷るべきは神ではなく仏ではないか。流石はジェシカ」
「……あれ、そういえば2人はそんなに仲が良かったのですか?」
「ん……と言うより太志より早くアプローチしてきたのはこの龍虎だったのよ。当時は超真面目君だったのに」
『え、えぇ〜ッ⁈』
大胆な暴露にジェシカ、太志、龍虎、パシフィスタ、セルベリア以外の一同は驚愕の声を漏らす。そしてそんな暴露をされた龍虎は顔を赤らめつつ頷き、咳払いをした。
「仕方がない。今でもその人気は凄まじいが当時の彼女は連盟国の世界的英雄だ。ジェシカにアプローチをかけた男は俺や太志だけではない。」
「……最も、その中で生きてるのは太志と龍虎だけね。他は皆既に……」
「……大戦の被害者となったのですね」
「いや、ジェシカが殺した。本気で妻の魔法を受け止めれる猛者以外信用に値しないからと言って挑戦させては命を奪っていたのだ」
「あはは……。そりゃ息子の師事に殺意をもって応える母上ですから、何となく察しましたけど……はぁ」
「あの時は鬱陶しかったのよ。只でさえ有象無象が湧き出でる戦場なのにこの至高の存在を娶ろうなんて、無理も良いとこなのよ」
久しぶりに厨二っぷりを言葉に含ませつつ腕を組み鼻を鳴らしたジェシカに苦笑しつつ、ナツメは龍虎を見て気になった事を言う。
「しかし、何故龍虎さんではなく父上が……?生き残ったのであれば選ばれてもおかしくない筈では?」
「いや、それがだな。恥ずかしながら俺はその挑戦を辞退したのだよ。今の自分ではジェシカを受け止めきれないと。そこからだな、俺が自らを鍛える様になったのは」
「まぁ賢明な判断よね。そう思えば私が龍虎を育てたと言っても過言ではないわね」
「ははは……。否定は出来ないさ」
ジェシカの言葉に苦笑しつつも、龍虎は思い出に浸るかの様に黙り込み、時折頷く姿勢を見せる。そんな中、1人静かにしていたアメンがひょいと爆弾を投下する。
「……ところで、ナツメに恋人はいるの?エジプトからずっと気になってたのだけど」
その言葉に生徒達といつも通りと言うべきか、ジェシカが過剰な反応を示す。そして更に、わざと空気を読んでいないのかシュバルムが核爆弾を投下し始めた。
「ふむ、それなら焔を恋人にしてはどうだ?ナツメと焔ならば旧知の仲でしかも『こないだ一緒に寝泊まりしていたではないか』」
「なっ、何ですと⁈あのロリ姫私のいない所で……‼︎」
「それなら私もしていたけど……。しかもジェシカさん黙認で。」
「なにぃ⁈ちょっと先生⁈」
「いや、それは監視の意味であって……っ‼︎パシフィスタさん‼︎」
「我に振られてもな。色男の恋沙汰はある種美味い話ではないか。」
予想外に裏切られたナツメは絶望的な眼差しで太志を見る。しかし、首を横に振り笑顔でサムズアップをする太志もまた、ナツメを裏切り静観をし始めた。
「ここは公平にミリアムのお祖母様に…あれ、それは公平じゃないか「ッチ‼︎」ちょ、ミリアム?先輩に軽々しく舌打ちしないで⁈生徒会長として不安よ色々‼︎」
「じゃあ私が決める。「おお、リリーナ様なら……‼︎」めんどいから私の物……。『ちょっとぉぉぉっ‼︎』うるさい……」
予想外の所から出てきたリリーナは、いきなりナツメの腕を取り肩に頭を乗せた。その結果本日3回目のナツメ争奪戦が始まり、車内で暴れだした女性陣は結局……
『はい、ごめんなさい』
『全く、主がモテるのは別に構いませんが、私の眠りを邪魔しないでくれませんか?割と本気で神罰与えますよ?』
昨晩ずっとナツメの警護をしており、その分の睡眠を摂っていたヴェルダンディが現れ、強制的に『神格降臨』させた上騒いでいた女性陣を縛り上げて説教をし始めた。
それから数分後。
官邸に着いた一同は車を降り、一時的な祝勝パーティーの会場となった大広間に集まる。
祝勝パーティーと言えど、戦闘の経緯や敵方の動きに関しての情報は基本機密になっている為実戦に投入された魔法使いまでの参加とはなっていた。しかしそれでも100人以上の魔法使いがこの場に現れての会となった為広い空間であるはずの大広間が少し狭く感じる程だった。
そんな中、中央に設置された壇上に登ったパシフィスタは、ブランデーの注がれたグラスを片手に咳払いをする。
「あー、この度は皆よく頑張ってくれた。この世界を駆ける戦役自体はまだ終わりではないものの、両面作戦において圧勝とも言うべき成果を残せた祝いとしてこの席を設ける。今日は国も王も勇者も、生徒でさえも無礼講だ‼︎存分に楽しんでくれ、乾杯‼︎」
『乾杯っ‼︎』
乾杯の音頭に合わせグラスを掲げた一同。その表情は誰1人曇りのない笑顔を見せていた。