お幸せに。 僕の、初恋の人。
「駿くん!」
空の青色が薄くなって、夕焼けが、もうすぐ沈もうとしている時。
突然後ろから、名前を呼ばれて、振り返る。
「杏花音、さん……?」
「お久しぶり!」
そこには、腰より少し上まで伸びた髪を、ふわりと一つ結びにしている、杏花音さん__僕の、初恋の人が立っていた。こうして会うのは、何年ぶりだろうか。
「お久しぶり……で……す……」
「ん? 駿くん?」
僕は、杏花音さんの薬指にはめられている、キラキラと輝いたそのリングに気付いて、胸が詰まった。
「あ……えっと……結婚、したんですね……」
「えへへ、バレちゃったかぁ」
髪の毛を指に巻きながら、照れ笑いをしている。
「おめでとう……ございます……」
「ありがとう! すっごく良い旦那さんなんだよっ」
なんて、幸せそうに言うから。
あぁ、僕じゃ駄目だったんだって、初めから、叶うはずがなかったんだって。
自然と視線が落ちて。
「……そう、なんですか」
「ん……どうしたの? 元気ないね」
「……あはは、そんな事ありませんよ」
「そっかぁ、良かった!」
苦しくて、悲しかったけれど。
今は、貴女の。笑っている顔が、見たいから。
この初恋に、あの日の貴女に、別れを言いたいから。
僕は笑って、
「はい。お幸せに」
って。
「ふふっ、ありがとう。じゃーねっ!」
「はい……」
ぴょこぴょこと、走り去っていく背中を見送りながら。
その背中に、今までの思い出を振り返って。
__お幸せに。 僕の、初恋の人。