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契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第一章 夏合宿
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5

「そうだ。あの中身、冷凍庫に移しちゃおう」


 英介は立ち上がり、玄関脇に積んだクーラーボックスに近寄ろうとしたが、それを凛が制した。


「私たちがやりますよ。お手伝いなんですから。お金も貰ってるわけですし」


「いや、一応みんなにもコテージの中を案内しておきたいし、俺がやるよ。二人も色々と疲れてるだろうし、ここでゆっくりしてて」


 英介が二人をソファに座るよう促して、他の全員でコテージの奥へと向かった。

 リビングの右奥はキッチンに繋がっていた。広々としたスペースは、まさしくパーティーをするにはもってこいである。大きな冷蔵庫が二つもある上、収納はこれでもかと備え付けられていた。オーブンや小型の竈まである。ここなら本格的な料理もできそうだ。と言っても、俺は料理はてんでダメなのだが。

 キッチンから廊下に出た。廊下はL字型に伸びていて、丁度ここはそのL字の折れ目の所に位置する。

 俺たちは英介に付いて、廊下を右に進んだ。右手に大型の冷凍庫の扉がある。英介いわく、最強に設定するとマイナス六十度程にまで冷やすことができる、業務用のものなのだそうだ。中は凍えるほど寒く、薄着の俺たちは鳥肌を立たせて、がたがたと震えながら、身を寄せ合っていた。庫内には既に豪勢な食材の数々が収められている。やはりあの二人があらかじめ買い出しに出ていたのだろう。

 俺たちはクーラーボックスの中身をそこに移して、冷凍庫を後にした。

 廊下の左手には――つまり冷凍庫の反対側には――物置の扉だ。廊下はさらに奥へと続いているが、突き辺りは外へと通じる裏口のようだった。擦りガラスの扉越しに、外の景色がモザイクがかって見える。

 廊下を引き返し、再び折れ目の部分にやってくると、今度はまっすぐ伸びた廊下の方へと歩を進めた。

 英介に促されるようにして、廊下の右側にある遊戯室と書斎に通された。遊戯室にはビリヤードやダーツ、カラオケにその他諸々の見たこともないようなボードゲームやカードゲームまでもが、雑然と置かれていた。これならば万が一悪天候に見舞われたとしても、有意義に暇を潰すことが出来そうだ。

 書斎のほうは、壁一面が本棚になっているのだが、それだけでは足りないようで、図書館のような動く本棚の設備まである。その蔵書数は、そこいらの学校の図書室などよりもよっぽど多いだろう。本を検索するための端末まで設置されていた。廊下の左手には、これまた広々としたダイニングがあった。白い西洋風のロングテーブルに、白の高級感ある装飾が施された椅子からは、清潔感が伝わってくる。椅子は全部で十脚あり、俺たち全員でも余裕で一斉に食事を摂ることが出来そうだ。

 その他、一階にはあとは風呂場やトイレなど、一通りのものは揃っているようだった。

 さらにリビングの階段から二階に上がったが、こちらは部屋が数室あるだけのこじんまりとしたものだった。


「ここは客間だけど、今は氷水さんと不入斗くんの部屋になってるよ」


 英介は手前の二部屋を指差した。


「このメインのコテージの中は大体こんな感じだね。じゃあ、そろそろ自分のコテージに荷物を置きに行こうか」


 英介に連れられて階段を下りると、今しがたキッチンから出てきた凛とばったり出くわした。凛は腕をまくって、ハンカチで両手を拭っている。リビングのテーブルがすっかり片付けられていたから、どうやらティーセットを洗っていたようだ。


「あ、丁度いいや氷水さん、今から皆をコテージに案内してもらえないかな?」


「はい、わかりました」


 突然の依頼にも彼女は愛想よく頷き返した。

 彼女はさらにキッチンに顔を向けて、


「そういうことだから、あとは頼んだよ、兼人」


 と声を掛ける。不入斗の怠そうな返事が戻ってきて、呆れたように肩を竦めると、彼女は俺たちに向き直った。


「それでは皆さん。荷物を持って、私についてきてください」


 その声に促され、俺たちは凛の後に続いて、コテージの外に出た。

 もうすぐ日没の時間なのだろう。

 空は物寂しげな赤橙のグラデーションに彩られ、木立の隙間には闇が広がりつつある。

 宿泊場所となっているコテージは、外装こそほぼ同じであるが、メインのものよりも一回りほど小さい。それでも、一人一棟充てられているのだから、十分すぎるほどの大きさだ。凛の案内で、不規則に並んだコテージの中へと、一人また一人と姿を消していく。

 遂に残ったのは俺と英介と凛だけになった。

 

「ここが、末田さんのコテージです」


 凛に示されたログハウスもまた、これまで見てきたものと同様の造りであるようだった。


「そして、あちらが槻さんのコテージですね」


 少し離れたところに、英介のコテージがあった。


「それでは、私は御夕食の準備をしなくちゃいけないのでこれで。準備が整いましたら、お呼びします」


 それだけ言って小さく頭を下げると、彼女は忙しなさそうにメインコテージに踵を返した。

 八人分の食事を、彼女と不入斗の二人で拵えなければならないのだから、それは大変なことだろう。英介ももう少し気を利かせて、雇う人数を増やしておけばよかったのに。

 と、ちらと英介の方を見てみたものの、彼は既に自分のコテージに入ろうとしていた。心なしか、その背中には重しが乗ったように緩慢な動きである。ここへ来る道中、色々と揉め事があったので、心労が祟っているのだろう。

 俺の方も、疲れのせいか、車酔いのせいか、なんだか全身がぐったりとしてきたので、そそくさとコテージの中に引っ込むことにした。

 不入斗からもらった鍵で扉を開け、中に入ってみたが、電気が点いていなかったので薄暗く、ぼんやりと物の輪郭しかわからない。壁を手探りでスイッチを見つけて、入れてみると、パッと部屋中が明るくなった。

 靴を脱ぐためだけの小さな土間があり、その脇にはシューズボックスが取り付けられている。土間から一段高くなった床にはフローリングが敷かれていて、すぐそこがリビングになっているようだ。リビングには更にカーペットが敷かれ、ソファにテーブルに戸棚と、家具はすっかり揃っている。どれも高そうだ。

 リビングには二つ扉があり、左手前の扉は寝室へ、右奥の扉は風呂場、トイレといった水回りへと繋がっていた。このコテージにはキッチンはない。飯はメインのコテージで食べろという事だろう。

 しかしそれにしても、これほどまでの物を、恐らくは多額の金をつぎ込んで造っておいて、殆ど利用することなく手に余らせておくなんて、やはり金持ちの考えることはわからない。

 俺は荷物を寝室に運び込むと、そのまま身体をベッドに預けた。一度倒れ込んでしまうと、重力に逆らうことができず、鉛のような身体をベッドの上で転がすばかり。

 とは言え、流石に暇なので、しばらくぼうっとした後に、例の読みかけの推理小説を手に取り、寝そべりながら読み始めた。

 どこにいても、結局は同じだ。

 俺がやることと言えば、これぐらいしかない。

 せっかくこんなところまで来たのだから、誰かと遊ぶとか、自然に触れるとか、そう言うことをすべきなのだろう。だが、今の俺には、どうもそうしたものに対する興味は湧かなかった。

 それはただの一過性の無気力なのか。はたまた未だに治まりを見せない、車酔いの延長線上にある胸のむかつきのせいなのか。

 いずれにしても、やはりここに来たのは間違いだったのだと知ることになるのだが、この時の俺はそんな事、予感さえしえど、知り得る由など微塵もなかったのである。

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