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契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第九章 終結
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4

 耳にタコができるほどにすっかり聞きなれた不入斗の音声が、俺のスマートフォンから流れ終えるのを確認すると、俺はさっき感じていた違和感のことを尋ねてみた。


「凛さんは、この留守電を聞いて、ある違和感を感じたんですよね?」


 彼女は小刻みにうんうんと頷いて、


「そうです。兼人が笠見先生と最後にあったのは、つい最近のことで、十六以来というのはおかしいということと、笠見先生は若い先生ですから、自分の年齢を気にするのは不自然ということです」


「その二点と、俺が感じていた違和感を合わせて、やっと彼のメッセージが解読できたんだ」


 俺はスマートフォンをポケットにしまうと、全員に向き直って言った。


「そもそも、たった三十秒ほどしかない留守番電話への録音で、中盤の笠見先生との会話のくだりを捲し立ててまで喋る必要があったのかという事も疑問だった」


「確かに、言われてみればそうですね。不入斗さんって、あんまり無駄話するような感じの人じゃなかったし」


 と乃亜も同調する。それは八逆や凛も同じ印象を持っていたらしい。彼女よりも不入斗と面識のある二人は、別段否定するでも肯定するでもなく、俺の言葉の続きを待った。


「うん。だから俺は、きっとそこになにがしかのメッセージが込められているんじゃないかと踏んだんだ。そこに、凛さんの違和感だ。それらを踏まえて考えてみると、あのくだりの中に出てくる年齢に注目してほしいんじゃないかと思ったんだよ。『歳を感じる』という台詞からも、その意図が汲み取れる。あの留守電の中に出てくる年齢は十六と十九だけ。そして、不入斗くんはさらに、『大事なのは歳じゃなくて中身』と言っている。つまり、十六と十九が意味するものこそが重要だという事だろう」


「でもそれだけじゃあ、その数字が何を意味するのかなんて、さっぱりわからないですよ」


 八逆が難しい顔になって唸っている。これだけの情報では、誰にもわかるわけはない。もう一つ重要な事実が、解読には必要になってくるのだ。


「俺は凛さんから笠見先生は化学の担当だったと聞いたから、わざわざ彼がこの先生を選んだのは、きっとこの数字が化学と関係のあるものなんじゃないかと推測したんだ。高校化学で番号と言ったら、原子番号くらいしかない。原子番号が十六と十九の元素は、硫黄とカリウムでSとK。つまり、瀬堂京太のイニシャルになるっていうわけだ」


 すると瀬堂がふっと吹き出した。


「そんなの、殆ど言いがかりじゃないか。こじつけにもほどがある」


 それは他の三人にしても同様に思っているようだった。成程すっきりした、という顔ではない。何かしら喉に痰でも引っかかっているような、微妙な顔つきで俺のほうを見ている。

 確かに、こんなメッセージでは、そう思われても仕方がない。

 しかし現実は、何でもかんでもクイズの様に上手い答えが得られるというわけでもない、というのもまた一つの真理だろう。

 俺は言い訳がましく言った。


「まあ、不入斗くんにしてみたら、あからさまなメッセージじゃあお前にバレる可能性が高いから、こういうかなり無理矢理なものになってしまったんだろう。

 だけど、疑いを抱くきっかけにはなったよ。そして瀬堂が犯人だったとしたら、英介を犯人と考えても解けなかった謎が、すっきりと納得のいく形に収束させることができた。

 ただ、その証明については、大きな問題が立ちはだかっていたんだ」


「問題って……?」


 英介が首を傾げながら尋ねた。


「証拠だよ。瀬堂が犯人だという確たる証拠が全くなかったんだよ。おそらく、自分の存在を殺した後に、俺たちに隠れて、殆どの証拠は処分してしまったんだろうな。それで仕方なく、俺は瀬堂が描いていたシナリオ通りに、英介を犯人に仕立て上げ、ここに閉じ込めることにしたんだ。そうすれば、口封じに瀬堂がやってくるだろうと思ってね」


 瀬堂が自虐的な笑みを浮かべる。


「それで案の定俺は、罠だとも気付かずにのこのこやってきちまったってわけか」


「そうだ」

 

 俺は再び瀬堂を見下ろし、両手を広げてこの部屋全体を示した。


「こういう風に、実際にお前がまだ生きていて、英介を殺そうとしている状況を皆に確認させれば、少なくとも殺人未遂の現行犯だ。おまけに、お前が用意した遺書には、犯人しか知りえないような情報も書かれてある。身体を縛られて身動きのできない英介に、こんなものは書けないから、これもまたお前が犯行に関与していたという大きな証拠になるってわけだ。

 で、どうする? 言い逃れするか?」


 瀬堂にもうその気がないことは、彼の態度からわかってはいたが、一応尋ねてみた。しかし、彼がそれに答えるよりも、乃亜のほうが早くに疑問を呈していた。


「どうして? どうして、瀬堂センパイが、こんなことを……? あの二人とは、ずっと一緒にいた仲じゃないですか」


 すると瀬堂は、またも皮肉を込めた言い方で、それに答えた。


「ずっと一緒にいた……ね。一緒にいる、イコール仲がいいってわけじゃないからねえ。むしろ、一緒にいる時間が長ければ長いほど、その分色々と裏も出てくるもんだよ」


 そうして彼は、昔を見るような目で、自らの過去を語り始めた。

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