表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第九章 終結
49/53

2

「――瀬堂京太。お前だけなんだ」


 俺ははっきりとそう宣言した。

 英介の眼がより一層見開かれた。椅子に縛り付けられていることも忘れて立ち上がろうとし、思わずこけそうになっている。


「お前なら第一の殺人の時に、俺たちに先に肝試しの会場に行かせて、携帯を取りに行くふりをしてその場に留まり、クーラーボックスに仕込んでおいた死体をセットしたと考えれば、犯行は可能だ」


 ようやく体勢を持ち直した英介が、驚愕の声を漏らす。


「なっ……! え……、いや、でも、瀬堂は殺されたはずなんじゃないのか。俺もその死体を見ているし、お前だって見ただろう。森の中にバラバラにされた瀬堂の死体を」


 彼は死んだはずの人間が生きていたということに、かなり驚いていたようだ。既に一度このパターンは経験しているにもかかわらずである。

 しかしそれも無理もないはずだ。

 何しろ、新潟の事件の時とは違って、瀬堂の死体は俺たちに一生もののトラウマを植え付けかねないほどのインパクトのある、非業で凄惨な最期を遂げていたのだから。

 だが、彼はこうして、バラバラどころか四肢はしっかり繋がって、しかもまだちゃんと生きている。

 驚かない方が不思議なものだろう。

 とはいえ、彼以外の三人はそれ程の衝撃を受けてはいないようだった。俺が事前に死んだ人間の中に犯人がいると伝えていたからだ。


「そうだ。確かに俺たちは森の中でバラバラ死体を見つけた。でもあれは、瀬堂の死体じゃない」


「じゃあ、一体誰の……?」


 困惑の眼差しで俺を見据える英介。


「不入斗くんのだよ。松本に行ったと思われていた不入斗くんの首から下の部分を使って、自分の服を着せ、バラバラにしたんだ。そうして、自分の死体にみせかけていたんだよ」


「で、でも、それなら、頭はどうしたんだ? あれはどう見ても瀬堂の顔だったぞ」


「そりゃそうさ。あれは瀬堂が自分そっくりに作った、人形なんだからね」


「に、人形!?」


 英介が頓狂な声を上げる。いちいち大袈裟に反応するから、話が途切れて少々鬱陶しい。


「ああ。あの時、辺りは森の中で暗かったし、明かりは蝋燭の炎しかなかった。そんな状況だったから、人形を本物と見間違えても不思議じゃない。確か二日目の昼間に、懐中電灯がなくなったって言ってたけど、あれは瀬堂が隠したんだろうな。懐中電灯みたいな強い光源があると、バレてしまうかもしれないと危惧してね。死体をバラバラにしたのは、ここにも意味があったんだ。バラバラにすれば、人形として用意する部分は、頭部だけで済む。ここへ持ち込むのも楽になるし、これもまたバレるリスクが減る。残りの部分は正真正銘本物の死体なんだからね。それに、ある程度の体格差も、バラバラにしてしまえばわからなくなるしね」


 俺は乃亜のほうを見た。


「確か乃亜は、肝試しの時に、やけに人形が作りものっぽいって言ってたよね?」


「はい。何だか思ったほどクオリティは高くなかったなって」


「あれも瀬堂がわざとやったことだろう。敢えてちゃちな脅かし人形にすることで、芸大志望の自分にもこれくらいのものしか作れないという印象を俺たちに与え、後で発見される死体が人形ではなく、紛れもない本物だと俺たちに思い込ませるためにね」


 俺は唇を舐めて潤し、さらに続けた。


「つまり、第二の殺人について瀬堂の取った行動はこうだ。

 あらかじめ、裏口の鍵をくすねておいて、そこの見張りをせざるを得ない状況を作っておく。そして、うまいこと言い訳して英介と一緒のチームになった。そうしたら見張りを待つ間にトイレにでも行くふりをして外に出て、自分たちが見張りをしている時に電気が落ちるように、発電機の燃料を調整した。見張りの順番が来たら、こっそりと裏口の近くの物置にあったラジカセを使って、英介との会話を録音する。後は停電が来るまで待つだけだ。

 電気が消えたら、裏口の扉を開けて、外から誰かが入ってきたように見せ、英介の腕を切りつける。そして、とっておいた天司の血液をぶちまけて、外へ出ていった。そのまま血を垂らして森の中に置いておいた不入斗くんの死体へと俺たちを誘導した。ざっとまあこんなところだろう」


 口惜しそうに唇を噛む瀬堂。しかし沈黙したまま、何も言ってはこない。図星という事だろうか。


「ただ、この死体の偽装トリックにも問題点がある。

 自分に見せかけた死体が発見されたときに、不入斗くんがいないとなったら、本当は彼の死体なんじゃないかと疑われる可能性が高くなるんだ。だから瀬堂は懐中電灯を盗んで、不入斗くんに買い出しに行かせ、留守番電話を使ってまだ彼が生きているように見せかけることで、俺たちにあれが間違いなく瀬堂の死体だと刷り込ませたんだ。わざわざ俺たちを血痕で天司の死体に誘導したのも、同じ理由だ。自分の死体が天司の死体を利用したものだと思われたら困るからね」


「で、でも、あれが不入斗くんの死体だとしたら、俺がキッチンで見つけたのは……、あれは一体誰なんだ?」


 すっかり混乱した口振りの英介が尋ねた。


「あれは間違いなく不入斗くんのものだよ。夜が明ける前に、瀬堂は自分の死体――もとい、不入斗くんの死体と天司の死体を回収した。そして、不入斗くんの死体から服を剥がして、食洗器の中に突っ込んだんだろう。流石に既にバラバラにした死体に服を着せるのは困難だったんだろうね。

 伝説に基づいて殺した意味はここにもある。死体が突然なくなって、代わりに新しい死体が出てきたりしたら、もしかしたら死体が入れ替わっているんじゃないかと勘繰られる可能性がある。だから伝説を利用して、わざわざ天司の死体も一緒に消すことで、死体の偽装工作をカモフラージュし、俺たちの視線を本来の目的から逸らしたんだ」


「な、成程……」


「それに、瀬堂の靴が現場に残ってなかったのも、このトリックが行われた一つの証明になる」


「靴?」


「そういえばセンパイ、確かそのこと気にしてましたよね」


 思い出した乃亜が確認するように尋ねる。

 俺は頷き返した。


「そうなんだ。ずっと引っかかってたんだ。

 恐らく瀬堂は停電後、森の死体まで戻って不入斗くんの足に靴を履かせる時になってようやく、足のサイズが合わないことに気付いたんだろう。しかし、その場に放っておいたら万が一サイズが違うことがバレることになるかもしれない。そうすれば、確実に死体が別人のものだと気付かれる。それで仕方なく、靴を持ち去るしかなかったんだろう。こう考えれば実にスッキリする」


 俺の一連の話を聞いた瀬堂は、長く、長く溜息を吐き出した。肺中の空気を一遍に押し出して、空っぽにしてしまおうかという程に、大きな長い溜息だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ