表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第九章 終結
48/53

1

「そろそろこの事件の、本当の解決篇の幕を上げるとしようか?」


 押さえつけられ、行動不能になった犯人は、それを聞いてようやく観念したようだった。狂ったようにばたつかせていた手足の動きが止まり、静かになった。

 うつ伏せに倒されたせいで、犯人の表情を窺うことは出来ない。しかし犯人は、こちらを見上げようとしている。

 椅子に縛り付けられ、不貞寝をしていた英介は、ようやっと騒ぎに気付いて目を見張った。


「こ、これは、どういうことなんだ?」


「こいつがこの事件の真犯人だってことさ」


「え? で、でも、お前、さっきは俺を犯人だって……」


 狐に化かされているような気分なのだろう。英介は唖然として、何が起こったのか、まだ理解が及んでいない様子だ。


「あれは、この真犯人の考えたシナリオだよ。お前を犯人に仕立て上げ、最後にはこうして遺書まで作って、自殺に見せかけて殺すつもりだったんだ」


 俺はテーブルの上に置かれた英介のスマートフォンを指し示した。

 画面に映し出されたメモ帳には、ありもしない殺害動機や、英介の俺たちに対する詫びの文言がずらずらと綴られている。今もまだ後ろ手を縛られ、椅子から離れることのできない英介に、これを入力することはできない。

 そして俺の仮説を証明するが如くに、犯人の手にはロープも握られていた。

 英介が自力で縄を解いて、そのロープで首を括ったように見せようと考えていたのだろう。


「それじゃあ、さっきセンパイが見せた証拠は……?」


 犯人の上にのしかかっている乃亜が尋ねる。


「あれも、勿論全部犯人が仕込んだものだよ。証拠が何にもないっていうんじゃ、英介を犯人にする説得力がないからね」


「でも、テープやストラップはともかく、服はどうしたんだ? 俺は確かに自分のコテージにはずっと鍵を掛けていたから、中に忍び込むのは不可能だったんだぞ。推理小説風に言うなら、これも密室と言えるんじゃないのか?」


 英介がそう訊いてきたが、それは大した問題ではない。犯人にとっては、何も鍵のかかったコテージに入りこむ必要などなく、すんなりと英介の荷物に自分の服を紛れ込ませることができたのだ。


「そうだな。だが、思い出してみてくれ。俺たちがここへ来た直後のことを。

 あの時、このコテージに入った俺たちは、荷物を一纏めにしてリビングに置いておいただろう」


「ああ、まさか、その時に……」


「そう。俺たちはその後、荷物を置いてコテージの中を見に行った。つまり、その間は荷物から目を離さざるを得なかった。こいつはその時に、こっそりお前の荷物の中に服を入れておいたんだろう」


 俺は再び真犯人を見下ろした。相変わらず犯人は身動きも取れず、表情も見て取れない。僅かに下唇を噛んでいることだけがわかる。


「第一の殺人の時、英介のアリバイを確実になくすために、この犯人は肝試しの時にある仕掛けを施していた。看板をいじって、英介の時だけルートを変更したんだ」


「でも、そんな事ができたのって、あの時英介センパイの前に肝試しをした、大地だけなんじゃ……」


 乃亜は、自分と一緒に犯人を制圧している八逆の顔を窺った。その八逆は慌てて首を振る。


「ち、違うよ。僕は何もしてない」


「そう。彼は何もしていない。第一、肝試しの順番はくじ引きで、完全に運で決まるものだった。操作してうまいこと英介の前に自分の順番を持ってくることはできない」


 俺の言葉に、乃亜は困惑して首を傾げた。


「じゃあ、どうやって……?」


「乃亜はプロジェクションマッピングって知ってる?」


 俺の唐突な問いに、彼女は思わず、


「え?」


 と訊き返してきた。しかし、戸惑いつつもすぐに頷いて、


「あの、建物の壁とかに映像を映して、なんかパフォーマンスとかするやつですよね。見たことはないですけど、ディズニーとかでよくある」


「それを利用して、犯人は看板をいじったんだよ。俺はあの看板を見たとき、白地に赤の矢印で、肝試しなのになんかポップな印象を受けたんだ。それに、わざわざ一度全部白に塗らなくても、そのまま普通に赤の矢印だけを塗ればいいんじゃないかとも思った。それで考えたんだ。白に塗られていたのは、スクリーンの代わりにするためで、あの赤い矢印は、プロジェクターから投影された映像だったんじゃないかってね。犯人は小型のプロジェクターを看板の下の茂みに隠し、そこから映像を映したんだろう。そして、英介の順番になったら、遠隔操作で逆向きの矢印の映像に切り替えた。そうすれば、英介だけを、全く別のルートに向かわせることができるんだ」


「でも、一人だけそんな全く違う道順を歩いていたら、途中で気付くものじゃないですか?」


 八逆が犯人に全体重を預けながら、英介を怪しみながらチラチラ横目で見つつ、顔だけをこちらに向けた。しかしその彼の妙な体重移動でどこか痛めたのか、犯人が軽く呻いた。


「英介と昼間に外の倉庫を調べた時、そこには既に肝試しに使われた道具が片付けられていた。俺はてっきり、凛さんが片付けたんだろうと思ったけど、時間的にそんな余裕はなかった。多分犯人が片付けたんだろうな」


「でも、どうしてわざわざそんな事……?」


 八逆はさらに尋ねる。


「一つは看板に矢印を塗るためさ。明るくなったら映像を映しておくことはできなくなるからね。そしてもう一つは人形のためだ」


「人形?」


 鸚鵡返ししたのは英介だ。

 俺は頷いて、英介を見た。


「倉庫で見た中には、俺の見たことのない人形もあった。これだけなら、作ったけど単に使わなかったものという可能性もある。でも、英介には見覚えがあった。つまり、犯人はあらかじめ、英介の通るルートにも人形を仕掛けておいたんだよ。それで英介も気付かずに歩き続ける羽目になったってわけさ。そして、それをそのまま放っておいたら、俺たちが遊歩道に入ったときに、通ったはずのない道に人形が置かれていることに気付いてしまうかもしれない。だから片付けておいたんだ」


「じゃ、じゃあ、この真犯人って……」


 扉の前に立って、押さえつけられた犯人を恐る恐る見つめている凛が、一歩前に進み出た。


「そう。そんな事ができたのは、あの肝試しを一人で準備した、こいつしかいない」


 俺は犯人にさらに歩み寄り、のしかかっている二人に力を緩めさせた。それで、ようやく犯人も上半身の自由が少しばかり利くようになったようだ。反り返るようにして、俺を見上げる彼の表情を、やっと視界に捉えることができた。

 特徴的な長髪を乱して、悔しくて睨んでいるような、悲しげに訴えるような、そんな思いの混じりあった瞳を俺に向けている。馴染みのある顔。森の中で死んだはずの男の顔だった。


「――瀬堂京太。お前だけなんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ