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契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第八章 謎解き
44/53

3

「瀬堂の殺害については、一見この場にいる誰にも、時間的猶予がなくて犯行不可能に見える。でも、一人だけ、可能な人物がいたんだ。

 そいつは、見張りの順番が回ってくると、自分と同じペアの瀬堂との会話を、物置にあったラジカセを使って録音した。ある程度それが溜まったら、瀬堂を殺して物置から今度はマットレスや布団を使って、自分と瀬堂の簡易的な人形を作り、ラジカセからさっき録音した会話の音声を流したんだ。エンドレスで同じ内容を繰り返すようにしてね。そうやって、ずっと二人が裏口にいたように見せていたわけだ。

 トイレから戻るために通りかかった時、俺は裏口の電気が少し暗いような感じを受けたんだけど、実際に電球を緩めるなりして、明るさを落としていたんだろう。人形だとバレないように」


 英介がはっとして、俺を見据えた。何か訴えたそうな眼だが、何も言ってはこない。

 俺はその視線を敢えて無視して、さらに続ける。始めた以上最後までやり遂げるつもりだ。そして、成り行きを最後まで見届けるつもりでもある。もう、後戻りはできない。


「そして、その間に瀬堂を森に運びバラバラにした後、発電機の燃料を調整し、自分が見張りの間に、停電が起こるように仕組んだ。あとは裏口に戻って、停電が起こるまで、人形の瀬堂と録音した会話を聞いているだけだ」


 徐々にみんなの視線が英介の姿へと収束し始める。しかし当の彼は、そんな事など気にしている余裕もないようだ。


「まさか、そんな、そんなのって……」


 英介は視線を泳がせて、声にならない驚きを露にしている。頭を振って、違う違うとうわ言のように呟くばかりだ。


「停電後、人形を物置に押し込み、ラジカセを止めると、あたかも自分も襲われたように腕を斬り付け、土間に、残しておいた天司の血液を撒き散らした。そうして、さも今、外から犯人がやってきて、自分を襲って瀬堂を連れ去ったように見せかけたってわけだ。あの森へと続いていた血痕も、犯人の仕込んだものだ」


 乃亜が口元を押さえた。その双眸は、英介の青い顔をしっかりと捉えている。


「そんな、じゃあ犯人は――」


 もう全員、誰が犯人か、察しは付いているようだ。これ以上明言せずに隠しておく必要もあるまい。

 俺は乃亜の言葉の先を奪って、突き付けるようにして言い放った。


「そう。槻英介、お前しかいないんだよ」


 自分のことを言われているのは、既に英介もわかっていた。とは言え、はっきりとそう宣告されると、彼も瞳孔を開いて、愕然としたような、困惑したような、狐につままれたような表情になっている。

 暫く、水面から顔を覗かせた金魚の様に、口をぱくぱくとさせていた。その姿は、喋り方をすっかり失念してしまったようにも見える。

 そうして、彼は不意に笑い出した。

 乾いた小さな笑いが、静かなリビングの中で、波紋のように広がっていく。

 心底から笑っていたわけではないだろう。どう反応したらいいのかわからず、呆れて笑うしかなかったのだ。

 しかし俺は表情を一切変えることなく、あくまでも真剣に、言葉を発した。


「十分やそこらで、人体をあんな風にバラバラにはできないだろう。だが、あらかじめ殺しておいたのを、生きているように見せかけられれば、話は別だ。そして、あの時それが可能だったのは、お前一人しかいない」


 それを聞いて、英介の顔から笑いが消えた。弛緩していた顔の筋肉が強張り始める。強張りはより一層強くなり、彼はわななき始めた。さあっと血の気が引いていくのが見て取れる。一拍置いて、ようやく英介は声を荒らげて反論した。


「違う。そんなのデタラメも良い所だ。俺は、俺はやってない!」


 冷や汗を流した英介の視線が、自分の両目に刺さる。思わず顔を背けた。こんな展開を迎えることになるとは、俺にとっても不本意極まりないことだ。

 苦虫を噛み潰したような顔になりながら、俺は英介の反論を無視して先を続ける。


「物置には、瀬堂が死んだ日に着ていた服の切れ端が落ちていた。多分、出し入れした時に引っかかって、千切れたんだろう」


 ポケットから物置で拾ったそれを取り出し、彼に見せつける。特徴的な模様の入ったそれは、紛うことなく瀬堂の衣服の一部だ。


「違うって言ってるだろう! それなら、夕月のことはどうなる? あそこは、完全に密室だった。それは、他でもないお前が確認していたはずだろう。一体どうやって中から鍵を掛けてそこから抜け出したっていうんだ?」


 物凄い剣幕で食ってかかる英介。自分がバラバラ連続殺人の犯人だと言われたら、不愉快極まりないことだろう。それだけでなく、自分のこの先の人生まで狂うことになるのだ。必死で否定するのが普通だ。

 夕月の密室の謎が解けなければ、その僅かな隙を突き、どうにか口実を作って、逃げ切られることだろう。

 だが、そうはいかない。ここまで来たら、もう逃がすわけにはいかない。

 俺は確信を持って、はっきりと言った。


「あれは、夕月の手によって掛けられたんだ」

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