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契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第六章 捜索
34/53

3

 引き返している最中、キャンプファイヤーの横を通ったのだが、その時、夕月が気付いた。


「おい、天司の死体がないぞ。誰か片付けたのか?」


 それでテーブルの上に目をやったのだが、そこには確かに、あの歪なボールのような頭部はなく、乾いた血の跡だけが残されていたのである。頭部だけではない。切り離された腕や脚も胴体も、綺麗さっぱり消えていたのだ。


「そんなの、俺たちに出来るわけないだろう」


 英介はそう言いつつも、死体がなくなっていることに困惑しているようだ。


「じゃあ、一体誰がこんなこと……」


 バラバラになった死体が、勝手に歩き出して何処かへ行ってしまったとでも言うのか。

 俺は、継ぎ接ぎの身体で、地上を闊歩するちぐはぐな動きの亡者の姿を想像した。

 馬鹿な。そんな事あり得ない。オカルトだ。俺の大嫌いな。

 俺は自分を嘲笑した。

 しかし咄嗟に、もしやという考えが頭に過ぎる。

 気付けば、俺の身体は動いていた。今日の未明の出来事を再現するかのように、森へと続く血痕を頼りに、瀬堂の死体の在処へと向かったのだ。

 果たして、そこに瀬堂の死体はなかった。血だまりだけが、渦巻く怨念の様に留まっている。


『妹は姉を殺してもなお、収まりきらない怒りに身体を蝕まれ、遂には人ならざる者――鬼と化し、姉の死体を貪ったと言います。夜明けになると、姉の身体はすっかりなくなり、妹の姿もまた忽然と村から消えたそうです。後に残ったのは、無残に殺された姉の血溜まりだけでした――』


 前日の怪談話で凛が披露した契鬼伝説の文句が映像と共にフラッシュバックする。

 まさか――。まさか、伝説の中の契鬼が、彼らを殺し、そして喰い尽したとでも言うのか。

 またオカルトだ。勘弁してくれ。

 そんなはずはないのだ。これは人間の犯人が仕組んだ事なのだ。

 考えろ。何かしらこんなことをする理由があるはずだ。

 常に犯人に先を行かれている気がして、俺は言い聞かせるように、何度も口の中でそう繰り返していた。


 みんなの所に戻ると、俺は瀬堂の死体も消えていた事を告げた。


「や、やっぱり、契鬼だ。伝説の通り、バラバラにした死体を喰ったんだ」


 怯えて蒼ざめている八逆が言い出した。


「そんなのあり得ないよ。これは犯人が、何らかの理由の故にやったことだ」


 俺はきっぱりとそう言った。


「でも、一体何のために……?」


「それは、まだわからないけど……」


 その場は言葉を濁して逃げた。

 とにもかくにも、一旦メインコテージに戻り、これからどうするか考えなくてはならない。

 まだ寝ているであろう、乃亜も呼び出して、リビングに揃ったのだが、もう戻ってきているはずの不入斗の姿が見えなかった。

 呼びに行った凛に尋ねてみたのだが、


「それが、部屋にはいなくて……。靴も荷物も何もないし……」


 彼女は訝しげに、そして心配そうに首を傾げていた。


「仕方ないですね。後で手分けして探しましょうか。それはそうとして、これで一つはっきりしたことがあるんです」


 俺がそう言うと、


「分かったって、何が?」


 英介が怪訝そうに、顔をこちらに向けた。


「外部犯の可能性や契鬼という伝説の化け物が犯人である可能性が、限りなく低くなったってことだよ」


「ど、どうしてそんなことがわかるんだ?」


「さっきの吊り橋の炎上さ」


 英介の質問に、俺は答える。


「吊り橋?」


「不入斗くんの戻ってきた後で吊り橋が燃え上がるなんて、あまりにタイミングが良すぎるんだよ。それに、犯人が外部の人間なら、不入斗くんが買い出しに出かけたことを知らない。つまり、彼がまた戻ってくるなんて、思いもよらないはずなんだ。それなのに、わざわざ最初は吊り橋を燃やさず、敢えてバスのタイヤをパンクさせるっていう、遠回りな方法を使って足止めしてる。これじゃあ二度手間だ。犯人は、ここから出ていった不入斗くんが戻ってくるのを、ずっと待っていたとしか考えられないよ。そして、それを知り得たのは――」


「その時その場にいた、俺たちだけだってことか」


 俺が言いたいことを理解した英介が、言葉の先を奪った。


「そう言うこと。

 それに、それだけが理由じゃない。発電機の問題もあるんだ。外部の人間が犯人だとしても、外にある発電機には気付くだろうし、俺たち全員を襲おうっていうイカれた殺人鬼なら、このコテージに電気を供給している発電機を壊してしまえば、散り散りになってやりやすいはずだ。それなのに、犯人はそうしなかった。夜中に燃料がなくなることは起きたけど、それが外部犯の仕業だとしたら、壊さずに燃料を捨てた点がどうにも腑に落ちない。だから、犯人には、壊そうと思っても壊せなかったってことになる」


「それがどうして、俺たちの中に犯人がいるってことになるんだ?」


「壊したくても壊せなかったっていうのは、犯人にとってまだ必要だったってことだよ。つまり、犯人は発電機を使えなくなったら、他のコテージにはキッチンは勿論、冷蔵庫とかもないから、ここの冷凍庫や冷蔵庫の中にある食材やら何やらが全てダメになってしまう事を気にして、壊せなかったんじゃないかって思ったのさ。それってつまり、内部の人間が犯人ってことだろう? 仮に外部の人間がこのコテージから食材を失敬していたとしたら、何度も確認している凛さんが気付くはずだしね。

 そしてもう一つの理由としては、停電の瞬間のアリバイを確保するための工作だったから、壊したくても壊せなかったとかね」


「成程な……。……そうか、わかったぞ」


 俺の話を聞いていたのかいないのか、一人上の空でぶつぶつと呟いていた夕月が、不意に立ち上がってハッキリと言い出した。

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