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契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第五章 第二の殺人
30/53

5

「一人できる人間がいるじゃない」


「え?」


 乃亜はそして、凛のほうを指さした。厳密に言えば、凛の話し相手のことを指しているのだが。


「今呼び出されてる、あいつよ。あいつはずっと一人だったじゃない。あいつなら、出来るんじゃないの?」


「確かに、夕月ならいつでも殺せるタイミングがあった。けど、それでも説明つかないところがあるよ」


 俺は難しい顔で、その考えを否定した。乃亜は納得いかないようで、


「何がですか?」


 と突っかかってきた。俺は夕月犯人説に大きく立ちはだかる問題――夕月だけに関わらず、ほぼ全員に当てはまる問題であるが――を指摘した。


「どうやって、あの短時間で、瀬堂をバラバラにすることができたかってことさ」


「あ……」


「停電から死体の発見まで、長く見積もっても大体十分くらいだったし、人間の仕業なら、そんな時間でバラバラにはできないだろう」


「じゃ、じゃあ、やっぱり、犯人は人外で、契鬼だったとしか――」


 また八逆がそう言い出した。しかし、今度はそれを、電話を終えた凛が遮った。


「あの、夕月さん、電話には出たんですけど、こっちには来たくないって」


「え?」


「出ていけばその分襲われる可能性があるし、瀬堂さんまで殺された以上、自分が狙われているかもしれないから、と」


 なるほど、尤もな話だ。仲がよく、いつもつるんでいる二人が殺されたとあっては、次は自分かもしれないと思うのも、当然と言えば当然である。

 すると、乃亜が肩を竦めた。

 また夕月の悪口でも言うのだろうかと思ったのだが、彼女の口から出たのは、予想外の言葉だった。


「正直、その通りよね。一緒にいたところで、実際瀬堂センパイは襲われたわけだし、私も自分のコテージに戻ってもいいかな?」


「ぼ、僕もそうさせてもらうよ。そのほうが安全そうだ」


 八逆もそれに乗じる。

 皆が自分のコテージに戻ってしまったら、凛はどうするのかと思ったのだが、自分一人だけなら、二階の部屋に内から鍵を掛けていれば大丈夫なので、とのことだった。

 結局この騒ぎで、全員で固まって一夜を明かすという当初の計画は完全に崩れた。

 別れ際、凛にしっかり鍵を掛けて部屋にいるように、と注意を促して、俺も皆と一緒に自分のコテージに引き返すことにした。

 一人になると、今までどこに鳴りを潜めていたのか、どっと疲れが溢れ出てくる。

 全く、一夜に色々なことが起こり過ぎだ。

 正直、まだ頭の中では混乱が起こっていて、収拾がついていない。

 ああ、早く横になりたい。

 そう思いながら、コテージのドアに手をかけた。ドアノブは抵抗することなく、すんなりと回転する。

 鍵がかかってない。

 当たり前の事だった。最後にここにいたのは、夕食の前で、つまり事件の起こる前だ。その時は、どうせ見知った人間しかいないのだから、わざわざ鍵を掛ける必要なんてなかったのだ。

 もしかしたら、それを利用して、ここに二人を襲った犯人が隠れているかもしれない。

 八逆の言うような、契鬼だのの人外が犯人だとは思えないが、頭のおかしな外部の人間が犯人である可能性は否定できないのだ。

 一度そんな考えが思い浮かぶと、もうそれが呪縛の様について回った。電気をつけても心中はそわそわしていて落ち着かない。確かめずにはいられず、俺はコテージの中をくまなく調べた。

 が、そんな不安に反して、ここのコテージには誰もいなかった。結局はただの思い過ごしだったのだ。

 徒労に終わったもののほっと一安心して、全てのドアと窓に今度はしっかりと鍵を掛け、何度も確認すると、寝室のベッドの上で横になりながら、これまでのことを想起し始めた。


 天司の最後の目撃証言が、乃亜と八逆の、今日の正午少し前に見たというものだ。

 しかし、天司の死体が見つかったのは、肝試しの最中だ。昼過ぎに殺され、既にバラバラにしてあったのだとしたら、あんな風に血が滴ったりはしないはず。ならば、発見される前に、あの場所で殺され、解体されたと考えるのが妥当だ。

 死体発見の前で、肝試しの十分十五分を差し引いて一人になることができ、かつ今も生きているのは、凛・乃亜・夕月そして英介だ。しかし、全員三十分も一人になっていない。そんな短時間で、人体をバラバラにすることができるのだろうか。

 あるいは、何かもっと別の方法で……?

 そして、次は瀬堂の件だ。

 ずっと一人でいた夕月の行動は分からないから除くとして、停電の直前、八逆がトイレに立ち、凛が蝋燭を探してくれて、俺たちは裏口へ向かった。その途中でトイレから戻った八逆と出会った。そのまま三人で裏口に向かうと、腕を斬られた英介がいて、瀬堂の姿はなかった。そこから俺と八逆は森に、英介と凛はキッチンへ戻って乃亜と一緒にいた。治療を終えた英介は俺たちと合流して死体を発見。そして凛と乃亜は外の倉庫に発電機を調べに行った。

 メインコテージにいた人物には、一見犯行は不可能の様に思える。しかし、時間から考えても、夕月の犯行と考えるのも難しい。

 ……英介ならどうだろうか。

 ずっと二人で裏口を見張っていた彼なら、もっと早い段階で瀬堂を殺しておくことも……。

 いや、それは無理だ。もしそうなら、俺がトイレに立った時や、八逆がトイレに立った時、裏口の近くを通るから瀬堂がいなかったら気付くはずなのだ。

 それなら、一体どうやって……?

 瀬堂の靴の事も気になる。そして、あの時のあいつの発言もだ。どうにも腑に落ちない。

 これまでの事件を一旦整理しようと思っていたのに、蓋を開けてみれば、余計にこんがらがるだけ。

 俺は頭を掻きむしって、寝返りを打った。

 そんなことをしても、閃きが生まれるわけではない。

 結局、俺は何の進捗も得られないまま、そのまま眠りに堕ちてしまうのであった。

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