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契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第四章 篭城
22/53

3

「みんな忘れてません?」


「何を?」


 全員の視線が、乃亜のほうに注がれる。


「カラスの事ですよ。あの、バラバラになってたカラスの死体」


 彼女の意図が掴めずに、英介は首を傾げた。


「それがどうかしたの? 犯人が俺たちを脅かすためにやっただけじゃないの? 契鬼伝説を連想させるためにさ」


「そこですよ。思い出してください。カラスがバラバラにされたのは、凛さんが契鬼伝説を私たちに語る前の事ですよ。ってことはつまり――」


 彼女の言わんとしていることを理解した瀬堂が、手をポンと打って成程と彼女の言葉を奪った。


「その時点で、契鬼伝説を知ってた人間が犯人ってことか! ……となると、考えられるのは凛さんと、ここに別荘を持ってて、何度か来たこともある英介ってことになる」


「おいおい、ちょっと待ってくれよ」


「でも――」


 折角止めに入ったのに、また火がついてしまった。

 流れを一旦引き留めるために、俺は大きく猫騙しをかました。

 案の定、びっくりしたみんなは、喋るのをやめて俺に注目する。


「だから落ち着けって言ってるだろう。疑心暗鬼になったりしたら、それこそ犯人の思う壺だ。契鬼伝説だって、何もここに来ないと知ることができないわけじゃないんだ。今はネットっていう便利なものもあるんだから、あらかじめ調べておくことだってできるだろう」


 そう言うと納得したようで、やっとみんな黙ってくれた。

 騒ぎを鎮静化させて、俺は考えることに集中した。脳裏に現場の状況が蘇る。

 バラバラの天司の四肢。テーブルから滴り落ちる赤い滴。辺りに立ち込めた、なまぐさい臭いまでもが、生々しく感じ取ることができた。

 そして俺は、首を横に振る。


「う~ん、やっぱり、瀬堂の言うようなこともないと思うな。あの血の流れ方からしても、少なくとも天司はあそこで解体されたんだろう。見たところ、死後硬直がまだ起こってなかったみたいだし、腐敗も進んでいなかったみたいだから、死んでから見つかるまでも、そんなに時間は経ってないはずだ」


 すると瀬堂は、困惑した表情になった。


「そんな……。じゃあ、やっぱり俺たち以外の誰か――イカれた殺人鬼が森の中に潜んでいるとしか思えないじゃないか」


 そうだ。話がまた逆戻りしてしまった。完全に振出しに戻ってしまったのだ。

 各々思案に暮れて、リビングがまた静寂に包まれた。これだけ人が集まって静かになると、声を出すのも憚られるもので、余計に静まり返る。

 柱時計が時を刻む音が、耳障りに聞こえる。神経過敏になった耳には、天井のファンが回転し、空気を切り裂く音までもが感じ取れるようだった。


「それとも、契鬼が本当に現れたとか……」


 唐突に、ぼそりと呟くように言ったのは、乃亜だった。

 意表を突かれて、俺の身体は少しビクリと反応した。


「え?」


「だってそうでしょう? あの死体、凛さんが言ってた、契鬼の殺し方そのままじゃないですか」


 一瞬、場に戦慄が走った。

 怒りに狂った契鬼。天司の死体を千切り、ゴミのように打ち捨てたその化物が、森の中で息を潜めて、次の獲物を狙っているとでもいうのか。

 だが、俺はその考えを捨てた。いもしない化物に取り憑かれてしまった邪念を振り払うかのごとく、またしても首を振る。


「それはないだろう。犯人が仮に契鬼のような化物だったとしたら、わざわざ電話線を切る必要もないんだから」


 この場の雰囲気に呑まれてはならない。こういう時こそ、よく見て冷静に考えるべきだ。


「……そういえば、不入斗くん、流石に遅すぎないかい? もう十一時だよ」


 英介が柱時計を一瞥して、たった今思い出したように言った。

 凛もまた、彼の動きにつられて時計を見る。


「そうですね……。何かあったのかしら」


 その時、電話をちらちらと気にしていた八逆が、何かに気付いたようで、声を上げた。


「あ、あの」


「何?」


「これ、留守電が入ってるみたいですよ」


「えっ?」


 そう言われて、電話に駆け寄って、確認してみると、確かに留守というボタンが赤く点滅している。


「ホントだ」


 俺は再生ボタンを押した。


『メッセージは一件です。午後、八時四分』


 感情も抑揚もない、機械的な女性の声が聞こえてくる。そして、ピーという電子音。


「午後八時か、さっきは慌てていて気付かなかったんだな」


 そして、電話のスピーカーから、録音された音声が流れ出てきた。

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