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契鬼伝説殺人事件  作者: 東堂柳
第四章 篭城
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2

 静まり返った気まずい空気のリビング。

 いつもの乃亜なら、自分に対する夕月の横柄な態度への文句を一言二言口にするものだが、今は状況が状況だけに、そんな余裕もないようだった。自分の疑いを晴らす証明ができないのだ。不安になるのも無理はない。


「……実際のところ、どうなんでしょうか?」


 ようやく静寂を断ち切って口を開いたのは意外にも、無口な八逆だった。

 瀬堂が彼に向き直って訊き返す。


「どうって?」


「僕たちの中に、天司さんを殺した人がいるかどうかってことですよ」


「まさか」


「でもありえない訳じゃない」


 その二人のやり取りを見て、俺は堪りかねて言った。


「それを結論として出すには、少し状況を整理した方がいいだろうな」


「そうだ、まだ早計すぎるよ」


 英介も賛同してくれた。

 そこで俺たちは一旦、天司の死体を発見するまでの行動を振り返ってみることにしたのであった。

 頭の中で時間を遡る。ビデオの逆再生の様に、これまでの映像が脳裏を流れていく。

 そうして、目当ての所で俺は、記憶の再生を始めた。


「確か……俺たちが肝試しに向かったのが、午後の九時過ぎぐらいだったよな? その時、瀬堂と乃亜が携帯を、そして凛さんが蝋燭を取りに行った。三人は途中まで一緒だったのか?」


 そう訊いてみると、三人とも顔を見合わせた。


「いや、コテージの方向が違うから、バラバラだったよ」


 代表して瀬堂が首を振る。


「ってことは、戻ってくるまでの七、八分の間、一人になることが出来たってことになる」


「おいおい、そんな短時間じゃ無理だろ」


 そんなことで疑われては溜まらないとでも言うように、彼は肩を竦めた。乃亜と凛は自分が疑われているのではないかと不安そうな面持ちだ。


「……そうだな。

 それから、俺たちは遊歩道に行って、肝試しを始めた。俺、夕月、乃亜、瀬堂、八逆の順に行って、ものの十分十五分くらいで全員帰ってきた。最後の英介が森の中に入った後、夕月がコテージに戻り、そのさらに十分後ぐらいに乃亜が飲み物を取りに行ったんだな」


 乃亜はしっかりと頷いた。


「そうよ。コテージのトイレも借りて、……あとついでに、冷凍庫からこっそりアイスをもらって食べてたのよ。それで遅くなっちゃったわけ」


「でもそれなら、ついでにそこで飲み物を飲めばよかったんじゃ? なんでわざわざキャンプファイヤーのところに?」


 瀬堂が突っ込んだ。

 どうやら、彼は天司や夕月がいないと、強気になれるらしい。

 しかし、彼女はそれにも即座に、そしてスムーズに答えた。


「私の好きなやつがなかったから、あっちにならあるかなって思っただけよ」


 その素振りからは、嘘を吐いているようには見えないが――。勿論、演技ということもある。

 俺はともかく過去の時間を先に進めた。


「……それで、英介が三十分くらいして戻ってきたとき、乃亜の悲鳴が聞こえて、駆け付けてみたら、ああなっていたという感じか」


「そうだ、英介。お前、三十分も森の中で一体何してたんだ?」


 瀬堂が、指をさして今度は英介に突っ込む。

 しかし、英介はそのことに気付いていなかったのか、狐につままれたような呆けた顔だ。


「え? そんなに時間掛かってたのか? ってか、何してたも何も、肝試しでずっと歩いてただけだし」


「全員せいぜい十五分で戻ってきてるんだぞ? おかしいだろ」


 詰問する瀬堂。英介は頭を掻いて、当惑するばかりだ。


「そんなこと言われてもなあ、俺は本当にただ歩いてただけで……」


 さらに瀬堂は畳みかける。


「実は肝試ししてるふりして、森から抜け出して天司を殺してたんじゃ?」


「な! そんなわけないだろ!」


 柄にもなく、語気を荒らげた英介。顔を紅潮させている。

 俺は二人の間に割って入り、英介を宥めた。


「落ち着けって。瀬堂の言う方法でも、石碑から御札を取ってくるのに十分かかって、森とキャンプファイヤーとの往復で五分かかる。とてもじゃないが、その時間でバラバラにはできないだろう」


「それなら、どれくらいあればバラバラにできるっていうんだよ」


「……まあ、やってみたことがないから何とも言えないけど、バラバラと言っても、コマ切れ状態って程ではなく、かなり大雑把な切り方だったし、うまいこと関節で切り離すことができれば、そんなに時間はかからないかもしれないな。それでも、一時間くらいは欲しいところだと思うけど」


 そう答えたがしかし、瀬堂はまだ引かなかった。


「確か、天司を最後に見たのは、大地と乃亜だよな?」


「ええ」


 乃亜が頷くのを見ると、さらに瀬堂は詳しく訊き出した。


「それはいつ頃?」


「確か……十二時ちょっと前くらいだったかしら」


「僕もそうだと思います」


 二人の確認を得ると、瀬堂は英介に向き直り、自論を主張した。


「例えば、天司がその後すぐに殺されて、バラバラにされていたなら、十五分でも充分に死体をあそこに運ぶことぐらいは出来たんじゃないか?」


「おい、ちょっと待てよ。それなら、別に俺じゃなくたって出来るだろう」


 英介はそう反論する。確かに、もし瀬堂の言う通りなら、肝試しの前後に一人になることができた人間が犯行可能なわけで、それはつまり、殆どの人間に当てはまることになる。


「お前が一番怪しいだろう。長くても十五分で終わる肝試しで三十分もかかるなんてさ。何訊いても普通に歩いてたとしか言わないし」


「そりゃ、本当にそれしかしてないんだから、他に言いようがないじゃないか!」


「落ち着けって。まだ決めつけるのは早いって」


 また二人の言い合いが激化したので、仕方なく俺が止めに入る。

 しかしそれに水を差すように、今度は乃亜が言い始めた。

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