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1話

 底冷えするような冷気が、背後から高速で迫る。

 延髄を貫かんと突き出された半透明の腕。

 仲間なかま 日射ひざしは振り向き様に錫杖をかかげ、受け止めた。

 ギャリ、と耳障りな音と、眼前で散る火花。

 錫杖の向こうには、この地に縛り付けられた霊の姿。その表情は大きく歪んでおり、禍々しい霊力もあって、もはや怨霊と化してしまっていることが分かる。

 ばか正直に力比べに付き合う理由はない。視線に殺傷能力があったなら刺し殺されそうだが、しかしそれを至近距離で受けている日射は気にした様子もなく、杖を動かして後ろにそらすように弾き飛ばす。

「美都!」

 素早く霊に向き直りつつ、日射は名前を呼んだ。

「よし来た!」

 まだ幼さの残る少女の声と共に、天空から流星のように踊る一陣の風。

 それは弾丸のごとき勢いを保ったまま正確に霊を捉え、もろとも地面に高速で激突した。

 炸薬で発破でもしたかのように砂塵が巻き上がる。

 その砂煙の中から飛び出す黒い影。

 背中に黒い翼を生やした黒髪の少女だ。

 日射の隣に降り立った、美都と呼ばれた少女は不満げであった。

 手にした護符に力をこめる日射に手応えはどうだ? と聞かれ、美都は頭一つ高い彼の顔を見た。

「クリーンヒット」

 でも……と続けて、美都は首を左右に振る。

「効いてないんだろうなあ」

 美都は不満げに口を尖らせた。可愛らしい顔が歪むが、元々が美少女である。そんな表情もまた魅力的だった。

「まあ、今のは良かったと思うがの」

 そんな二人の背後から、声は若く口調は年寄り臭い人物が声をかけた。

「美都が動きを止めて日射が決める。極々一般的な連携じゃ」

 それはそうだけどさ、と美都は横に立った二十歳前後の、狸の尻尾と丸い獣耳を頭から生やした女性を見た。

「そもそも木ノ葉婆ちゃんもやってればもっと早く終わったよ」

 不満を口にする美都を鼻で笑う木ノ葉。

「わしが抜けた途端こんな木っ端にすら時間をかけるお前たちが悪い。わしがいなくてもどうにか出来るようにするのが当面の課題じゃったろう?」

「むうー!」

「まあまあ……。さて、終わりだ! 行け!」

 ますます口を尖らせる美都の横で、準備を終えた日射が護符を砂煙に向けて放った。淡く青白い光をまとった護符が、ついに砂煙の中から飛び出してきた霊に直撃、強く発光した。

『ぎゃああぁぁぁ……』

 断末魔の叫びを上げる霊を三人で眺める。

 霊が持っていたエネルギーはみるみるうちに萎んでいき、同時にその半透明な身体も薄くなって消えていく。

 日射は、美都をなだめるために、ちょうどいい高さにある彼女の頭を撫でる。

 俯いて黙り込んだ美都の頬がやや赤くなったことには気付かぬまま、日射は今回の仕事も無事終わりそうなことに内心で喜ぶ。とはいえまだ気は抜けないが。いつもそう、この仕事は、相手を見くびった者から死んでいくのだ。

 日射にとって最適な戦闘待機状態となる、適度な緊張感と脱力を保ちつつ小さな頭をさらに三回ほど撫でたところで、霊はすっかりと消え去り、周囲に充満していた負の霊気も霧散していった。

 最後に周辺を探り、残留思念もないことを確認し、日射は今度こそ安堵のため息をついた。

「終わったね、日射」

「ああ。今回も無事に帰れるな」

 日射に向けて柔らかく微笑む美都に、日射もまた微笑み返す。

 いつも仕事は命懸け。だが、日射には心強い仲間が二人もいる。

 これは、妖魔を仲間とする変わり者退魔師、仲間 日射と、彼と関わる妖魔たちとの、数奇な物語である。

「何終わった感出しておる。お前ら、帰ったら朝まで反省会じゃからな?」

「なにィ!?」

 日射と美都の声が重なる。

「当然じゃろう。今回は今までよりはマシじゃったが、前回わしがあれだけ口を酸っぱく小言したところがまるで直っておらん」

「明日でいいじゃん! せっかく一段落したんだから、空気読みなよ木ノ葉婆ちゃん!」

「無論読んだとも。読んだ上でぶち壊したが、それがどうかしたかの?」

「そのどや顔ムカつくー!!」

「諦めろ美都。木ノ葉殿には口じゃ勝てねえよ」

 カカと笑う木ノ葉と、勝てないと分かっていても突っ掛かる美都。

 いつもの光景。変わらぬ日常。

 その『普段』が変化するまで、後もう少し。


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