無題
連載ではありますがすぐに終わります
では楽しんでくださいね( ´ ▽ ` )ノ
外ではオスの蝉たちが自分のフィアンセを見つけるために周りの迷惑というものを考えず、大合唱している。
「暑い……」
夏の空に輝く太陽に熱せられて陽炎が微かに立ち上るアスファルト。
その上を歩いている少年が呟いた。
少年の頬には大粒の汗が滴っている。服装は白のTシャツに七分丈のズボン。背中からも汗が出ている様子でシャツの背中側は濡れて肌の色が透けて見えている。
「今年暑すぎだよ……ほんと」
いかにもこの暑さを睨むかのように少年は頭上にある太陽を鋭く睨む。
しかし、睨まれた太陽はそんなことは知る由も無いので変わらず燦々と輝いている。
少年が坂を歩き続けて小十分。
やっと自宅に着いた。
「何でよりにもよって今日が登校日なんだよ」
家の中に入りテレビの電源を入れる。
そして、テレビの向かいにあるソファにダイブを決めてテレビを見る。
「うへっ、ここら辺の最高気温三十八度って、そりゃないわ」
テレビの中で、正確にはテレビ局の一室で喋っているアナウンサーは淡々と声音を変えることなく伝えることを伝えていた。
少年はテレビを消し、おもむろにiPhoneを触りだした。
今流行りのLINEを開いているが友達人数はゼロである。
暫し、友達人数ゼロを眺め、虚しさを感じる少年。
そして、メールアドレス帳を開く。アドレス帳に登録してあるのは義理の姉のメールアドレスのみ。
そう、少年には友達が居ないのだ。別にイジメを受けているわけではなく、ただ、誰も友達という部類に昇格していないのだ。
ゆえに友達と堂々と胸を張って言える友達が居ない。
「友達ねぇ……」
誰にも聞こえるはずのない小さな小さな声がリビングに儚く響く。
「よし、暇だし自転車でどっか行くか」
少年は立ち上がり、また玄関のドアノブに手をかけ、外に出ていった。
恐らく、家の中に居てもすることがないのでだったら、暑いが外に出た方がまだ何か面白い事が起きるかもしれないと思ったのだろう。
自宅のガレージに置いてある自転車を少年は引っ張り出す。
ボディが赤色のマウンテンバイク、ギアは二十五段階。
起伏が激しい場所に少年は住んでいるのでギアが多い方が楽ではある。
少年は家の前にマウンテンバイクのスタンドを下ろして止める。
そして、首にかけてある鍵を出してドアを閉めた。
「さて、どこに行こうか」
どうやら少年は、行くあてがないらしい。
まあ、当たり前だろう。
何せ友達が居ないのだから。
「まあ、どこでもいいか」
友達が居ても居なくても変わらなかっただろうが。
少年はマウンテンバイクに跨り、ペダルを踏み込む。
さっき通った道とは反対の道、つまり山へと向かう道だ。
少年が住んでいる場所は街を見下ろす事ができる小高い山の中腹辺りで家の前には一本の道がある。
先ほど少年が歩いていたのは街から山へと向かう道でこれからマウンテンバイクで行こうとしている道は家から山のの向こうにある深い森へ向かう道である。
「世の中は夏で暑いというのに初めて来るけどここは涼しいな」
少年はバイクで走りながらに言う。
ここの道は当然舗装なんてされていない。だいたい平生は道だとも認識されることのない道。過去の道。人の行き交いがあった道。今は忘れ去られた道。
しかし、幸か不幸か少年は、コレを道だと認識してしまった。
忘れられた道は再び道としての役割、人が行く道になった。
行き先は忘れ去られた者たちの場所。
そして、この道を認識してしまった事が少年の夏休みの残りを不思議な事に誘う原因となった。
「ていうか、この道どこに繋がっているんだろ……」
山道はデコボコしていて、ママさん自転車や軽自動車では走ることができない。
しかし、オフロードマシーンなら走ることができる。そして、その道を通るだけで楽しいと感じる人も居る。
かくいう少年もその一人であった。
「あ、この道楽しそう……」
そう言って一本の道を見つめる。
何故かは知らないが少年は無意識的にその道をマウンテンバイクで走ろうとしていた。
少年はペダルを思いっきり踏み込んだ。漕いだ時の力がペダルを回し、そしてギア、チェーンに伝わり、最後に後輪へと伝わり、後輪が回転する。
視界に映る景色は流れ、前方はクリアになる。次は右、その次はドリフトを使って左に曲がれと。
手元はギアを変えること、ドリフトをするためにブレーキを握ることに忙しなく動いている。
前方を見るとその向こうの地面は見えない。しかし、木は見える。
少年の記憶にはその木が低木の一種と記憶されていたので、そんなに地面までは高くないだろうと判断し、上半身を沈ませ、体重をかける。
「ジャンプだ!やっほーい!」
と家に居た時のテンションの低さはどこへやら、まあ、人間の気分なんてすぐに変わってしまう。
溜めに溜めた力を上半身を上げると共に解き放つ。
少年は宙を舞った。
眼下に広がるのは黄色い景色。
向日葵だ。
しかし、ずっと空を舞うことはできない。地球は人間が空を飛ぶことを許さなかった。
重力が少年を地面に戻そうとする。
逆らうことのできない少年は着地態勢を整える。
地面まであと少し。
少年が乗ったマウンテンバイクは地面へと着地した。
「ここはどこだろう………………?」
凄く綺麗な所だと少年は向日葵畑を見る。
人が近づいているにも気づかないで、ただただ向日葵畑を眺めていた。
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