表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

「バーサス・闇メイド」

23時00分

越智苑学園校庭---

門の鍵は、開いている。

真暗な校庭に、俺は立っている。

暗がりの中、小さな薄明かりが近づいてくる。

かなり近づいてきて、ようやくその明かりが何であるかが判別できた。

自転車の明かりだ。

自転車に乗っているのは、瑞恵だ。

彼女は自転車を止めて、降り、後輪を止めて、こちらに歩いてくる。

顔が判別出来るところまで来て、

「黒鮫さん‥‥‥‥‥‥‥」

静かに、厳しい顔でこちらを見る。

「君一人かい?」

「あとの四人は、対魔族用の調伏訓練を受けていません。佳純は防御のみで、ご主人様とご家族、そして他の三人の仲間に対して隠形結界を張って、闇メイドの目から隠れています」

今度は素直に話してくれた。

「協会からの連絡で、戦いをここで行なう様に命令を受けました、その際校庭で待っている人間と協力するように、と」

「待っているのが俺で、驚いたかい?」

「あの時裏山で貴方が来た事を考えると、やっぱり、という気持ちもあります」

まっすぐに、射るように俺を見つめている。

「あなたは一体何者なのですか?」

「久々野のクラスメイトさ」

「ふざけないでください」

「ふざけてないさ‥‥‥君だって何者だと聞かれたら、久々野に仕えるメイドだって答えるだろ、魔術使いの癖に。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

では、と彼女が言い直す。

「どうして、メイド協会の対魔族研究機関『LIVE-D』にコネをお持ちなのですか?」

「コネがあったのは俺じゃない、本家さ」

「本家?」

「闇鮫家」

はっ、と瑞恵が息を飲んだ。

「知ってるのか?」

こくり、と頷く。

「私の教官が闇鮫家にメイドとして仕えています」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

今度は、俺が黙った。

世間は意外に狭いもんだ。

「‥‥‥‥そりゃ、初耳だ」

「黒鮫と闇鮫‥‥‥ようやくわかりました‥‥でも何故?」

「俺が、校長と交わした契約だからさ」

「契約?」

「まあ、立ち話もなんだから、中に入ろうや」

俺達は、校舎の中に入った。

二階廊下の隅にしゃがんで、俺は、簡単に事情を説明した。

この学校のこと、落ちモノ学園の秘密。

「‥‥‥というわけで、祖父の遺言でな、俺は落ちモノの女の娘と付き合わなきゃいけない、この学園が最も落ちモノの女の娘に出会える可能性が高い‥‥‥俺は『落ちものハンター』のメンバーの一人として、学園の裏の運営、つまり『落ちモノ学園』の運営に協力する事で、この学園に籍を置くことを許されたのさ」

「貴方から女へアプローチはしないのですか?」

「俺からアプローチをしたら、それは『落ちモノ』じゃないのさ、あくまでも、何処にでもいる普通の人間に、特殊な力を持った女の娘が向こうから勝手に惚れてくれなくちゃ、意味がない」

「そんな確立は、天文学的に小さいわ」

「だろうな‥‥‥だから俺にはここしかない。」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「ここはな、そういう不思議なことが起きる学園さ、『類は供を呼ぶ』って諺通りに、そう言うものはどんどん集まってくる。」

瑞恵の顔をじっと見つめながら言う。

「君も、そのクチじゃないのかい?」

「‥‥‥‥私が?」

「君の所の協会、『綺羅星メイド協会』から輩出されるメイドは、居るだけで高いステータスとなる。メイドは主人を選ぶ権利を持っているが、多くの名家が君たちを専属のメイドに雇いたくて、試しである『お見合い』の権利ですらオークションで高額な値が付くほどだ」

「‥‥‥よくご存じですね」

「校長の受け売りさ、で、その『お見合い』の権利だけで莫大な金が動くはずの、その君等が、いま、何の変哲もない普通の家の、しかも高校生に仕えてる‥‥‥疑問に思ったことはないか?」

再び黙る、瑞恵。

「なあ、今、メイド協会から連絡が入って、『間違いだったからその主を捨てて他の家へ行け』って言われたら、どうする」

「拒否します」

お、きっぱり言い切りやがった。

「私の主は、達也様だけです」

そう言って、彼女は自分の右手の薬指にはめられている指輪を撫でる。

俺の目は、その指輪に注がれる。

「もう渡しちまったのか!」

「はい、佳純も、静香も、秋恵も、萌見もです」

あっさり答える、

俺の目はまんまるに見開いたままだ。

「‥‥‥契約の指輪っていったら、一生をかけて仕えるに値するっていうたった一人の相手に、ただ一度だけ送るって‥‥‥まだ3カ月しか経ってないのにか?」

「渡したのは、一カ月目です」

絶句する俺。

「時間なんて関係ありません、深夏先輩なんか、会ったその日に渡したって聞いてますから」

「深夏先輩?」

「はい、私の憧れの先輩です。仕事の質もスピードも、超一流で、魔術だって、あの『ウオーレンの秘蔵っ子』パルミラと互角だって言われてます」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

天を仰いで嘆息。

「久々野の指には、はまってなかったが?」

「校則で禁止されてますから、ペンダントにして首にかけてもらってまいす」

ふむ、

「‥‥‥‥そうだな、君がそれ程本気だってことは分かった、ではちょっと考えてみよう。」

とりあえず、俺は、ずっと聞いてみたかったことを、口に出す。

「久々野達也という人間が君と言うメイドに出会い、君が試しに仕えるという事が起こりえる確率、それは本来どのくらいだ?、『お見合い』ですら一人数千万円が動く程だ、それが君等五人の『主』に、ただの一高校生である久々野達也がなると言う確率は?」

「それは‥‥‥‥‥」

「君は初めて久々野家に行ったとき、どう思った?、『何故こんな家に?』『何故こんな奴に』とは思わなかったか?」

きゅっと唇を結ぶ瑞恵。

俺はそれを沈黙による肯定と受け取った。

「そして、今は彼以外に自分の主は有り得ないと言っている‥‥‥‥では、本来なら彼と会うチャンスすら存在しないメイド協会とは何だ?、もし君が普通の女の娘として普通に暮らしていれば、普通の彼と出会って恋をするだろうチャンスはメイドとして彼に仕えるよりも‥‥‥」

「やめてください!!」

彼女が叫んだ。

「私はメイドであることに誇りを持っています、そして、それでも‥‥‥私は達也様に、メイドとして会ってしまったんです‥‥‥‥」

凜とした声の中に、わずかな悲しみがあった。

メイドにあるまじき感情ってやつが久々野に対して彼女は持っているのだろう。

「彼がもしこの学園の生徒じゃなければ、君と会うことは無かったとしたら?」

「そんな、ばかな‥‥‥‥」

「俺にとっては、『君が彼に会えた』『彼が君に会えた』それだけの事を見ているからな、この学園のご利益はあると思う。だから俺は、この学校に関わっていたいんだ」

「‥‥‥言っておきますが」

「なんだ?」

「今回の敵は私でも勝てるかどうか判りません、貴方は闇鮫家に関係した人間‥‥‥関わるな、とは言いません、けれど、貴方を護る余裕などありません」

「安心しな、俺だって命は惜しいし、やらなきゃいけない事がある、やばくなったら尻尾を巻いて逃げるさ」

「‥‥‥‥‥‥‥」

「それにな、久々野は越智苑の生徒だ、生徒を護るのは先生の役目、だから校長に雇われた俺が介入するのは当然の成りゆきだ」

「‥‥‥‥わかりました」

---------と、

突如、

きゅうっ、という耳鳴りがした。

そして、周りの温度が急に下がっていくのが判る。

「幽閉空間か‥‥‥‥‥‥」

空間を曲げて出ることの不可能な迷宮を作り上げる力、

『闇の存在』の能力の一つ。

俺等じゃせいぜいが、結界を張ってその場所に行きたくないように相手の精神に干渉する程度だが、

あいつらは、出たくても出られない、行きたくても行けないようにすることが出来る、

「来ます」

瑞恵が緊張した声でつぶやく、

こつ、

こつ、

こつ、

足音が聞こえる。

冷たい鋭い気配が二つ、

同時に、ざわざわと、たくさんの何かの蠢く気配。

「あいつら余裕でゆっくりと近づいて来やがる‥‥‥‥‥」

廊下の向こう---

そいつらの気配は、階段をゆっくりと登ってきた、

そして階段を昇りきって、

こちらに向かう。

その姿は階段を上がりきったときから俺達の目に入る。

姿は、瑞恵と同じメイドの姿だ。

数は二人----

追加して、その後ろにたくさんの真暗な陰がわさわさ動いている。

うえ、使役魔獣の高位のやつをわんさか連れて来やがった。

「なあ‥‥‥‥‥‥」

「はい」

「ちょっと、やばくないか?」

「ええ、マスタークラスの闇メイドが二人来るとは思っていませんでした」

その、訳のわからん影供を後ろに従えた闇メイドは、俺等と数メートルの距離まで近づいて止まる、

いずれも、瑞恵に勝るとも劣らない二人の美人メイド、

片方は長身、褐色の肌、

もう片方は、細身で抜けるように白い肌をしていた。

ただ、なんてえか、雰囲気が違う。

瑞恵が、庭で咲いてる一輪の小さな花に例えるなら、

この二人は、虫を魅きつけて食べてしまう食虫花とか、そんな雰囲気だ。

いや、あいつらになら喰われてもいいって奴は大勢いるかもしれんが、

俺は御遠慮したい。

「お初にお目にかかります」

二人は、スカートの端をちょこんと摘んで優雅に頭を下げる。

「私、ラフシェリア伯爵に仕えるシェリアースと申します」

「フォンヌと申します」

声も、美しい。

氷で出来た楽器の演奏でも聞いてるみたいだ。

「今宵、あなた方お二人には我が主の為に死んで戴きたく参上いたしました」

「これは丁寧なご挨拶痛み入る、しかし我らも人の子であるが故、相応の『抵抗』というものをさせてもらうが、よろしいか?」

俺は、脇のホルスターに手を突っ込み、サブマシンガンを取り出す。

「うふふふふふふ、まあ、怖い」

「おほほほほほほ、本当に----」

口に手を当て、

俯いて、まるで貴婦人が恥じらっているような仕種で笑う二人の魔物、

そりゃ彼女等にしてみれば、

子供が玩具のピストルで、手を挙げろと脅してきた様なものだろう。

「そんなもので---」

「我等に立ち向かおうとは」

「---なんと愚かな---」

顔を上げた二人の顔は、

目は真赤に輝き、

嗤う口には上下に乱杭歯、

鬼の嘲笑----

俺は一気に引き金を引く。

狙いはその二人ではなく、

後ろの使役魔獣を狙って!!

ダダダダダダダダダダッ!!

ギエエエエエエエエエエエッ!!!

当たりっ!

二人が連れて来た魔獣の半分が灰と化した。

きしゃあああっ!!

魔獣達の怒気を孕んだ声、

残りの魔獣が一斉に襲いかかる。

がしゃっ!!

俺はマガジンをドラム弾倉に入れ替える、

そして左手は30センチの銀のナイフを抜く。

俺と瑞恵は、あの二人と距離を取るように逃げる。

逃げながら撃つ、

撃たれて、灰になる魔獣、

その灰煙の後ろから飛び込んでくる魔獣を、

斬!

銀のナイフで斬り飛ばす、

銃は中距離を、

ナイフは至近距離に突っ込んできた奴を。

逃げながら、撃ちながら、斬りながら、

俺は、階段を駆け上がる。

「何故上に!、追いつめられるわよ!」

瑞恵が叫ぶが、

「幽閉空間で、下に逃げても無限の階段さ!!」

俺は答えて、登っていく。

「でも、上も無限なんじゃない!!」

「そうでもないさ、上には月が出てるからな!!」

屋上のドアが見えてくる!

ほら、俺の言った通りだろ、

「ドア開けてくれ!!」

俺は止まると振り返り、

銃を撃ちながら、俺はポケットから手榴弾を取り出す。

瑞恵がドアを開けて外へ出たのを見届けて、

手榴弾のピンを抜いて、魔獣達のほうへ放り投げる。

そして俺は、一気にドアのほうにかけていき、

屋上に出てドアを閉め、

耳を塞いでドアの横っちょに飛ぶ。

大音響、そして火花、

爆風でドアが吹っ飛ばされる。

おれは、入り口の横に身を潜め、階段をのぞき込む。

いない。

なんとか殲滅できたみたいだ。

ほっ、

「人間の癖にやるわね」

ぞっ、(背中に悪寒の駆け抜ける音)

屋上の中央を見ると、闇メイドが静かに立っている。

うえ、何時の間に?

「こんなに速くあの子達が滅ぼされるとは思わなかったわ」

さっきまでの馬鹿にしていたような、口調はもうない。

シェリアース‥‥‥肌の褐色の方が手を掲げる。

その指先には、小さな銀色の塊が摘まれている。

「正規術式を施した銀の弾丸‥‥‥確か造り方は、銀の板に魔術師が直接に『授かりし言葉』を書き込んでそれを弾丸の形に折り畳む、だったわね」

え~と、あの、シェリアースさん、さっきからそれを摘んでる指先からジュウジュウと焼けるような音がしてるんだが、

しかも煙がでとるし‥‥‥

「上級の魔術師に、相当な手間と魔力を使わせるために、一般人にはとても手が出せない高価な代物だと聞いてるわ‥‥‥これじゃあ、私のかわいい魔獣達でも耐えられない」

いや、あの、指先が焼けてるってば、

「だが、私達を滅ぼすには‥‥‥‥足りない」

彼女は摘んでいる指先に少し力を入れる、

ピキイッ!

という、音を残して、弾丸が砕けた。

「うわもったいない!」

思わず俺の口から出る言葉、

「その弾頭、一発いくらすると思ってんだ!」

「使い捨ての弾がもったいないとは、とぼけた男ね」

シェリアース‥‥‥肌の白い方が、手を掲げると、

ジャキッ!

指先に、『黒き爪』が伸びる。

確か、鋼でも断ち切るって奴だ。

「後で壁からほじくり出して回収するに決まってるだろ」

「生きて帰るつもりでいるの?」

「当然さ、こっちには退魔の達人のメイド様がいらっしゃるんだ」

俺は踏ん反り返りながら後ろに下がり、

「ささ、センセ、出番ですよ」

と瑞恵の後ろに隠れる。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

瑞恵は苦虫を噛み潰した様な顔で俺を見る。

ふう、と息を吐くと

「まあ‥‥‥‥魔獣達を倒せただけでも、上等でしょう」

「そーそー♪」

「といっても、あくまで道具の力で、貴方の実力じゃないけど」

ずるっ。

彼女は、すい、と前に出ると、

二刀流に西洋風の幅広の剣を構える。

月明りに銀色に輝くその剣には、『授かりし言葉』が刻んである。

俺はそれを見て思わず口に出してしまった。

「‥‥‥なあ、それ、何処から出したんだ?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

あ、無視しやがんの。

「せいぜい応援しててください、私が死んだら次は貴方なんですから」

「もちろん。」

二人の前に出て、双剣を構える。

「綺羅星メイド協会所属、棚橋瑞恵一級メイド、お相手いたします」


シェリアースとフォンヌが一気に襲いかかる。

二人が超高速で繰り出す爪を全て紙一重で躱していく瑞恵、

すげえ、と俺は感嘆のため息を漏らす

瑞恵はバトルメイドとしても一流の腕前を持っているようだ。

きっと、彼女の美しさに釣られておいたを働こうとした奴等は、手酷いしっぺ返しを喰らっていたことだろう、

ギイイイイン!

鋼をも断ち切ると言われる『黒き爪』を、銀製の剣が受けとめる。

なんであんな真似ができる?

剣が特製なのか、彼女の腕か?

多分、両方だろうか、

どっ、と彼女はフォンヌを蹴り飛ばし、

そして‥‥‥‥‥

ざん!、

ふたつの剣がシェリアースの両肩に食い込む。

「やった‥‥‥‥」

俺は思わず拳を握る、

だが、次の瞬間俺の顔は驚愕に彩られた。

にいっ、

斬られたシェリアースが笑った?、

ざああっ、と、剣の食い込んだ両肩が、黒く変色し、

ぶわっ、と盛り上がる。

「!!」

黒い粘液と化したそれが、瑞恵を剣ごと包み込んでしまう。

「ぐうっ」

瑞恵がその粘液から必死で抜け出そうともがくが、まったく叶わない。

「残念でしたわね♪」

シェリアースは、10歳にも満たない幼い少女になっていた。

褐色の肌も、今はフォンヌと同じ抜けるような病的なまでの白さになっている。

「‥‥‥‥粘液型の使役魔獣で身体を補っていたのか」

俺の言葉に、

「ええ、だってそうしないと身体が小さくて、ご主人様のお世話がうまく出来ないのですもの」

なるほどな、

どうりで正規術式を施した銀の弾丸を平気で摘んでると思ったぜ

「粘液型は、魔術耐性があるが、動きがとろくて使えない、そんな使い方があったとはな」

シェリアースはにっこり笑って、瑞恵を見る。

「貴方の負けよ、こっちの世界では『ダブル真剣白羽取り』とでも言うのかしら」

拘束されて動けなくなった瑞恵を見下ろす。

「このまま殺すのも面白くないわね‥‥‥‥そうだ、先に貴方のご主人様を目の前で殺すってのはどうかしら?」

瑞恵が、蒼白になる。

「やっておしまいなさい、フォンヌ」

「はい、お姉様」

フォンヌが、俺の方を向いた。

次の瞬間、

ばきいっ!

顔面をしこたま殴られ、吹っ飛ぶ俺がいた。

頭から火花がちった、

ごずっ!

次はボディか、

俺は胃液をまき散らす。

やっべ、速すぎてろくに防御もできねえ。

ばき、ばき、ごっ、べごっ、がぎっ、

何度も殴りつけられ蹴り飛ばされる、

そのたびに俺は、きりきり舞いさせられる。

闇の者ってのは、力が強い。

簡単に鋼鉄の建築財なんかを引き千切ったりできる。

つまり、俺が死なないってのは、遊んでいる証拠だ、

なにせ、爪をたたんで、拳骨で俺を殴ってるんだから、

その横で、シェリアースが、動けない瑞恵の髪の毛を掴んで、俺のほうへ顔を向ける。

「ほうら、ご覧なさい、愛しいご主人様が壊されていく様子を」

瑞恵は厳しい顔で俺を見ている。

俺は何も言わず、

彼女も何も言わない。

そう、俺と瑞恵が死ねば、久々野と他の四人は、助かるからだ。

フォンヌ達は俺が瑞恵のご主人様だと勘違いしているなら、そのまま‥‥‥‥‥

「そろそろ飽きたわ、フォンヌ、止めを」

「はい、お姉様」

再び、爪を伸ばすフォンヌ。

ざん!、

瑞恵は大きく目を見開いていた、

からん、から、きん、

金属音を響かせながら、斬り飛ばされたフォンヌの爪が、コンクリート製の屋上の床に落ちた音だ、

爪の無くなった自分の手を見て、呆然とするフォンヌ。

俺はそのまま、ナイフを構えてフォンヌにかかっていく、

斬りつける、

斬りつける、

蹴る、

反撃を捌く、

また斬りつける、

シェリアースが、憎悪に歪んだ顔で瑞恵を睨む、

「貴様‥‥‥主に『メイド式格闘術』を伝授したというのか!」

瑞恵もまた、信じられないという顔で、俺を見ている。

「あれは‥‥‥42式、どうして‥‥‥」

そして、

ざん!、

ぐえええええっ!

フォンヌの叫び、

俺の場合は片手のナイフだが、あの時の瑞恵と同じように、肩口を斬り込んだ。

「ぐ‥‥‥ぐぐ‥‥‥ぐおおおおおおおっ!!」

フォンヌが、残ったもう片方、左手で俺を殴りつけようとする。

今度は、本気で、

ばしゃああっ!!、

ものすごい音がした。

だが、その拳も、おれは右手で受け止めきっていた、

げひいっ!

受けた手から赤い光が輝き、彼女の手首から先が蒸発した。

「ばかな!、魔術師ウォーレンの守護水晶だと?!」

俺はナイフを持っている右手に意識を集中する。

「白銀の都留祇つるぎよ!、白き雷持ちて魔を焼き払え!!」

次の瞬間、天空から雷鳴と稲光が俺のナイフに落ちる!、

バチバチバチバチイッ!!

ぎゃあああああああああああああっ!

肉の焼ける音と匂い、

ゆっくりと、フォンヌが膝を着く、

真赤な眼と乱杭歯を隠すこともできなくなった。

「き‥‥‥‥さま‥‥‥魔術を‥‥‥‥」

息も絶え絶えのフォンヌを蹴り飛ばし、

瑞恵とシェリアースの方へ向き直る。

「ばかな‥‥‥何故だ‥‥‥貴様からは魔力の欠片すら感じなかったのに‥‥‥どうして」

俺は、一歩踏み出す。

しゃっ!!

シェリアースは牙を剥いて、瑞恵の髪を引っ掴み、引き寄せ、

彼女の喉元に爪を突きつける、

「来るな!!」

「誇り高い闇のメイドさんが、人質を取ろうってのか?、プライドは無えのかよ」

「うるさい!!」

だが、次の瞬間、

ガガガッ!!

彼女の後ろから、金串が背中に刺さる、

「ぐあっ!!」

今だ!

俺はシェリアースに飛びかかる。

「くっ!」

彼女は俺に瑞恵を放り投げて、大きく飛びずさる

飛びずさって、後ろを見ると、

そこには、一機のヘリが浮かんでいた。

そして、轟音が響わたる、

ヘリに搭載されていた機関銃が、シェリアースに向けて火を吹いたのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ