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「退魔のメイド」

放課後‥‥‥‥

ホームルームを終わる前に、気分が悪いという形で、俺は早退した。

一応、身体が弱い、ということで通しているから、

先生も許可を出してくれた。

本当は別の理由がある、

俺は静かに、校舎の裏口へまわる、

校舎の裏は、小さな山がある。

実はこれ、学校の敷地だ、

空手部なんかがたまに『簡易山籠もり』なんつー訳のわからん修業をしにくるが、

今日に限っては、誰もいない。

俺も、来たくはない、

出来たら、この場所は外したい、

なぜなら、

そう仕向ける結界が貼ってあるからだ、

俺は、裏口の門の所を見る。

一枚の紙が貼ってある。

呪文文様が描かれている。

「アルター・グロウズ派の魔術式か、一体誰が‥‥‥ん?」

裏返すと、文字が書いてある。

声を出して読んでみる。

「‥‥‥‥牛乳2パック、ニンジン二本、じゃが芋ひと袋、牛肉500グラムに、タマネギ大4個、ベルモンテカレーの素一つ‥‥‥」

なんじゃこりゃ?、

下を見ると、

「スーパー谷重?」

メモ書き通りの食材が、白いビニール袋に包んで入れてある。

まあいい、とにかく行こう。

目的の場所まで、走って5分ってところか、

俺は、鞄を持ったまま、坂を駆け上がる、

そして、その先にあったものは‥‥‥‥

黒い、黒い、わけのわからん生き物に襲われている、

メイドの姿だった。

わけのわからん生き物は、背丈は人間の半分ぐらいの大きさで、

たとえれば、猿ぐらいだが、

肌はつるつるで、

口は耳まで裂けて、牙がみえた、

目は赤くらんらんと光り、

ぎいぎいと、耳障りな泣き声を奏でている。

数にして10匹近く‥‥‥‥

俺は、そいつの側に走り寄ろうとして、止まった。

メイドは、一方的にやられている訳ではなかった、

いや、むしろ、彼女は強かった。

調理用のオタマやシャモジ、串焼き用の金串等を武器に、

的確に、その黒い化物達にダメージを与えていく、

速い----

メイドは飛びかかった化物の牙ををシャモジで防ぎ、

掌底を打ち込み、

化物は向こうの立ち木まで吹き飛ばされ、

その額と心臓に、

カカカッ、という金属音と共に、

金串が突き刺さる、

その化物は、ぞっとするような断末魔の叫びを上げると、

ざあっ、と崩れて、灰と化す、

なるほど、金串に簡易術式を施したか。

しかも、並のレベルの体術じゃねえ、

次々と繰り出される、芸術的な技の数々に、

あっという間に、化物の7~8匹が退治される。

ひゅう、すげえ!、

と‥‥‥‥‥‥

一匹の化物が、俺に気付いた、

キイイイイイイイイッ!

と、叫んで俺に向かってくる、

はっと気がつくメイド、

「駄目!、逃げて!!」

と切迫した声で彼女が叫び‥‥‥‥‥

それは間に合わず、

俺は、

持っていた鞄を、その化物の頭に叩き付けていた。

グエエエエエエエッ!

化物は、灰と化した。

うわ、近くで聞くと気分が悪くなりそうな叫び声だ。

俺が仲間を滅ぼしてしまったその様子に、一瞬動きを止めた化物達の残りは、

ばしゅ、ばしゅっ、

次の瞬間、メイドの放った金串に心臓を貫かれ、灰と化す。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

その、灰となった化物をじっと見る、俺、

「大丈夫でしたか?」

と、メイドが近づいてくる。

「ああ、瑞恵さんだったのか‥‥‥」

顔を上げた俺の顔を見て、驚く瑞恵、

「あなたは、黒鮫さん‥‥‥‥‥」

「こいつらは、一体何?」

「それよりも、貴方こそどうしてここに?」

「趣味の散歩です」

と、答える。

「でも‥‥‥‥‥‥‥‥」

と、なんとも言えない困った顔をする瑞恵、

どうやら今の一件は、一般人には見せられない事らしいな。

俺が、結界を超えてここに入ってきた事に驚き、警戒している。

「なぜ貴方が、闇に属するバルバドゥを倒せたのです?」

真剣な顔でこちらを見る。

そっちの方の『わけ』を知られたくないから、逆に俺に向かって話をふってきやがった。

さて困った、

あんたが、『わけ』を知られたくない様に、俺も『わけ』は知られたくないんだ。

「えっなに?、バルバル?、バオー来訪者の鳴き声見たいですね」

「そうじゃなくって!、バルバドゥは‥‥‥って言いそうになったじゃない!、これは、普通の人間の攻撃では滅ぼすことは出来ないのですよ!、」

ちっ、残念、はぐら返したか。

「といっても、僕はただ鞄で殴っただけだけど‥‥‥」

と言って、鞄を掲げる。

はっ、と鞄に着いているキーホルダーを見て、驚く瑞恵。

「これは‥‥‥‥魔術師ウォーレンの守護水晶‥‥‥そうか、だから結界も‥‥‥‥」

と、小さくつぶやいた。

「‥‥‥なんです?、それ?」

と知らないふりをして聞き返す俺。

「黒鮫さん‥‥‥‥あなた、それを何処で手に入れたのです?」

「さあ?、バレンタインデーにチョコと一緒に靴箱に入ってましたけど」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

しばらく、驚いた顔で俺を見つめる瑞恵。

そして、

はあ~っ、

額に手を当てて、ため息をつく。

「‥‥‥‥この学園ならありえそうだわ」

確かに。

もちろん本当は違う。

「で、こいつらは何なんです?」

「う‥‥‥‥」

話を戻した俺に、困った顔をする瑞恵。

「‥‥‥‥ごめんなさい、貴方には教えられないんです」

そうきたか、まあ予想できてたけどな。

「そうですか、じゃあ失礼します」

ぺこりとお辞儀をして、俺は瑞恵の横を通り抜ける。

「あっ、黒鮫さん、何処へ‥‥‥‥‥」

「趣味の散歩の途中なので」

「だ、駄目です!!」

慌てて俺の腕をつかむ瑞恵。

「まだ奴等がその辺にいるかも知れません!、これ以上先に進んでは危険です!」

「久々野君、さっきカレーを楽しみにしながら帰っていく所でしたよ」

「えっ?」

「今日って、あなたがあいつの食事を作る日じゃなかったんですか?」

「ああっ!」

愕然とする瑞恵、

忘れてたな。

結界に使った呪符の裏にメモ書きしてあったのは、カレーの材料だ。

そして、朝の彼女は、夕飯はカレーだと言い、

彼女が今日の奉仕担当だと言っていた、

そしてカレーの食材は、裏門に置いてあった。

結論、彼女はまだカレーを作っていない。

動揺した彼女の隙をついて、彼女が掴んでいる俺の腕を引き抜く。

そして、すたすたと、山の奥に向けて歩き出す俺。

「あ‥‥‥‥う‥‥‥‥」

お~、迷っとる、迷っとる、

俺を追いかけて止めるべきか、一刻も速く家に帰って久々野の為のカレーを作るか、

「他の娘が、久々野君に作っちゃうかもしれないですよ」

「!」

次の瞬間、彼女は校舎に向けて全力で走り出す、

カレーの材料を取りに戻ったのだ、

さてさて、俺は、俺の仕事をしなくちゃならん。



一通り、見回らないといけない所は終わって、俺は校舎に戻る。

ただ今、夜中の8時、

もう校舎には生徒の姿はない。

俺は、そのまま校長室に向かう。

校長室の扉を、一応コンコンとノックするが、返事はない。

俺は合い鍵でドアを開けると、校長室に入る。

部屋の真中に校長の机がある。

大理石で出来た、クソ重たそうな机だ。

俺はその机に近づくと、机の裏に手を滑らせて探す。

あった。

カバーをずらすと、パネルが出てくる。

裏側についてるパネルに暗証番号を打ち込のは多少難しいが。

打ち終わると、

ずずずずずずずずっ、

机が横にずれていく、

机がよけた後に、

ウイイイイイイイイイン、

と、床が変形して、エスカレーターに変わる。

俺はそれに乗り、下に降りていく

降りた先は、ちょっとした最新の軍の司令室みたいな状態になっている。

ここに来るのは1カ月ぶりだ。

回りを見回す、

ここに来る度に思うのは、

校長は戦隊ものや、ウルトラマンなんかのファンなんじゃないかってことだ。

まるで地球防衛なんとかの秘密基地の司令室みたいだ。

趣味の世界だな。

そのまま『裏の校長室』まで歩いていく。

ドアの前まで来て、立ち止まる。

セキュリティに向けて、顔を近づける。

網膜照合で、俺だと確認すると、

しゅっ、というこれまたSFチックな音でドアが開く。

部屋の中には、

頭の禿げ上がった初老の男が机に座っていた。

校長だ、

俺を見ると、にっこり笑って、

「良く来てくれました」

と言った。

相変わらず、外見は、普通の好好爺だ。

何の変哲もないただのオヤジって感じだが、

ただのオヤジなら、こんな所に座っている筈がねえ。

いったい裏にどんな顔を持っているのか、

俺は、ずかずかと中にはいると、どっかりと、勝手にソファに腰掛けさせてもらう。

「どうでした?」

「ああ、一通り見て回ったが『備品』に異状はなかった‥‥‥ただし、変なものを見た」

「おかしなもの?」

俺は肩をすくめた。

「アルター・グロウズ派の魔術を駆使して、第二レベルの使役魔獣を調伏するメイドさ」

ここでは、猫を被っている必要はない。

俺は本来の口調で、一通り、見聞きした内容を話す。

「ふむ」

と校長は何やら考え込んでいる。

「あんまり驚いていないようだな」

「そう見えますか?」

「少なくとも、メイドが魔獣を調伏するのは予想の範囲って顔だ」

俺の指摘に、頷く校長。

「さすがですな」

「俺の『仕事』に関係あるなら教えてもらおう」

「依頼をお受けするおつもりですか?」

俺の顔に浮かんでいるのは、たぶん、『苦笑』ってやつだろう。

「いろんな意味で、『やりかけた仕事』だからな」

うんうんと、校長は満足げに頷くと、説明を始める。

「メイドの歴史が始まって以後、メイドには表側の人間には知られない『裏の顔』と『裏の対立』があります」

「主人を護る『バトルメイド』とかってのは聞いたことがある」

「いえ、それすらも『表の顔』の一つです」

「‥‥‥‥裏の顔ってよりは『闇の側面』ってやつか」

「ええ、主人としもべの関係は、人間だけとは限りません。」

「使役魔獣とは違うのか?」

「あれは、あくまでも彼らが『種』に瘴気や邪気を与えて造り出した玩具でしかありません」

なんだか、嫌な予感がする。

この言葉は使いたくないが、どうしても口に出さなければならないだろう。

「‥‥‥闇のマスター・オブ・ダークネス

俺の出した単語に、今度は重々しく頷く校長。

「というより、彼らは主に仕えるメイドですから、『メイド・オブ・ダークネス』でしょうな」

「いっそのこと『冥土のメイド』って名前を付けたらどうだい?」

「では瑞恵さんは『メイド・イン・ジャパン』ですかな」

‥‥‥笑えねえ、

いつもなら、俺も校長も爆笑する、精一杯のオヤジギャグを互いにかましあったんだか、

今回は、寒い。

「で、普通のメイドと、闇のメイドってのが対立してるってのか?」

「『闇のメイド』にとっては、人間世界のメイドと主人は、邪魔な存在です‥‥‥かつて闇のメイドに主人ごと殺されたメイドは数え切れないといいます」

「『条約』の締結までは、だろ」

「闇とヒトとの戦いは、『条約』締結後に停戦してはいますが、それを破るものはやはりいます、人間の世界ですらルールを守らない者は多いですからね」

「瑞恵が魔術を会得しているのは、闇から主を守るためか‥‥‥今回も、それか?」

「特に闇のメイドは、主の為にと、主が何も言わないでも勝手に動くことがありますからね」

「『闇の住人』の、それもマスタークラスが出てくるとなると‥‥‥‥あの娘、勝てるのか?」

「わかりません、残念ながら綺羅星(きらぼし=トゥインクル・スター)メイド協会によって、ここ100年のメイドVS闇メイドの戦いのデータは封印されています」

「協会の一部の上の人間しか知らないって事か‥‥‥あんたでも聞き出せなかったのか?」

「残念ですが、メイド協会の最高理事からは、『協会には別に、私と異なる命令体系が存在する』と」

「俺等じゃ首を突っ込めないということか?」

「しかし、手をこまねいているわけにはいきません、今回狙われているのは久々野数馬君‥‥‥私の生徒ですから」

と言って、校長は俺の顔を見る。

「むしろ、あなたのツテなら‥‥‥‥」

「俺の?」

「闇鮫家です」

「‥‥‥‥本家が?」

「一応、世界中の闇にもある程度顔は利くのでしょう?」

う~ん、と俺は腕を組む。

一応、利くような話しは聞いたんだが、果たして『綺羅星メイド協会』の『裏側』に対してコネがあるかどうか‥‥‥‥‥

「契約に基づく正式な依頼をします、久々野君と、その家族そして彼のメイドの命を護る手伝いをしてください」

俺は立ち上がる。

「隣の部屋、借りるぜ。電話をかけてみる」



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