「群れ集う落ちモノ達」
俺の名は黒鮫鬼太(くろざめ-おにた)。
年は15歳、
普通とは、少しだけ違った人生を過ごしてる。
俺の通ってる高校は、私立越智苑学園、
巨大な学園都市『蟻江音』の中の一つの学校だ。
そこのクラス1-Bだ。
ここに入ったのは、祖父の遺言。
本当は、ここはある基準によって、校長が認めた人間にしか入学することは出来ない学校なんだが、
俺の場合は、いろいろ裏から手をまわして‥‥‥
かなり大変だったが、
ようやく入ることが出来たわけだ。
おそらく、通っている連中は、そんなことは露にも思っていないだろうが、
立地条件も良く、学費も安く、先生も良く、施設も良い、
穏やかで、明るい学校‥‥‥‥
しかし、その裏にはとある秘密が隠されてる。
まるでどこぞの推理小説みたいだが、
その秘密はおいおいにわかるだろう、
それこそが、俺がここにいる理由なのだから。
午前7時50分
越智園駅で電車を降り、なだらかな坂を登って行く、
学校への道のり、どこでも朝はせわしいものだ、
後ろから、
「おーいす、黒鮫エ」
という、同級生の声が聞こえた。
どことなく、疲れた声である、
振り向くと、眠そうな顔のやつが、ふらふらと歩いてくる。
「おはよう、久々野君」
と、俺はさわやかな笑顔で話しかける。
「どうしたんだい?、深夜番組の見過ぎ?」
「お前‥‥‥あいかわらず、平和で、のほほんとしてるな」
久々野のやつは、恨めしそうな顔で俺を睨む。
本当は違うんだが、
「僕が?、自分じゃ、そんなにのほほんとしてるつもりは無いんだけど」
口調が違うと、突っ込まないでくれ、
一応、事情があるんだ。
『僕』等という似合わない口調をつかわざる終えない。
「なんだか、大分疲れているみたいだけど、」
「瑞恵さんが‥‥‥」
「瑞恵さん?、ああ、君の家のメイドさんか」
久々野は、ひきつった顔で俺を見る。
「お前‥‥‥本当におかしいと思わないのかよ?」
「何が?」
「メイドだよ!、メイド!、俺ん家にメイドがいるんだぞ!」
そう、ついこの間から、こいつの家にはメイドがいる。
それも、とびっきりの美少女の。
別に、こいつの家は大金持ちって訳じゃない、
ごく普通の平均的な、アメリカ人が『ウサギ小屋』と表現するような家に住んでる。
そこにメイドなぞ、当然似つかわしくないが。
「そりゃあ、メイドは普通、家にいるものだろ、メイドが砂漠のど真ん中に突っ立ってたらおかしいと思うけど」
と、俺はしれっと答えた。
久々野はがっくりと肩を落とす。
「なんで‥‥‥お前はそうなんだよ」
「おかしいかな?」
と、首をかしげる俺。
「おかしいに決まってるだろ!」
叫ぶ久々野、
すまんな、気持ちは良くわかるが、賛同するわけにはいかんのだ。
これが、俺の、この学院でのキャラクターなんでな。
「で、その瑞恵さんがどうしたんだ?」
「うっ‥‥‥‥」
俺の質問に、久々野は顔を赤くして俯く。
「いや‥‥‥俺の‥‥‥蒲団に‥‥」
「添い寝してくれたの?」
「‥‥‥あからさまに言うな」
「確かに、子供扱いされて添い寝だなんて、恥ずかしいのは判るけどね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
はあ、と額に手を当てる久々野。
「お前に相談すること自体、間違ってるとは思ってるんだか‥‥‥‥」
すまん、
実は、意味は、よ~~っく、わかってる。
「で、朝まで一緒だったのかい?」
「んなわけあるか!!、逃げ出して明け方まで公園の土管の中で過ごしたんだぞ!!」
「ふ~ん」
もったいねえ、俺だったら、朝までくんずほぐれつってところだが。
と、その時、
ちりん、ちりん、と自転車のベルの音がして、
「ご主人様~~~っ!!」
と、言う声がする。
振り向くと、古式ゆかしいメイドの衣装を着こなした、
とびっきりの美少女が、一生懸命に自転車を漕いで坂を登ってくる。
そして、俺達の前にとまると、
「ご主人様、お弁当をお忘れでございますわ」
と、笑顔で前カゴから弁当箱を取り出し、
両手で久々野の奴に向かって掲げ、
首をくいっと傾げ、
笑顔を浮かべる。
う~~ん、美人だ、
ちょっと見回すと、他の登校途中の男子生徒が彼女の笑顔に、心を奪われ、
ぽうっとなっている。
「い、いいよ、購買でパンでも買って食べるから」
あわてた様子で、言う久々野だが、
「でも、せっかくご主人様に食べていただこうと、一生懸命作ったので‥‥‥」
と、今度は上目遣いで久々野を見つめる。
「だからそんなのは‥‥‥‥」
と、言いかけた久々野の肩を、
ぽん、と叩く俺。
「久々野君、素直に受け取ったほうが良いよ」
「く、黒鮫‥‥‥」
「泣かしたら、彼女のファンクラブに、また半殺しにされると思う」
「うっ‥‥‥‥」
言葉に詰まる久々野、
そう、前にもいっぺん、こいつは瑞恵にきつい言葉をかけて、
その結果、彼女を泣かし、
ファンクラブの男どもに追いかけ回された経験があるのだ。
「わ、わかったよ」
しぶしぶと、受け取る久々野。
嬉しそうに笑う瑞恵。
周りからは、ちっ、という舌打ちの声と、
「なんで、あんな奴が瑞恵さんの主人なんだ」
と、悔しそうな男の声があちらこちらから聞こえる。
か~わいそうに、久々野のやつ、
退かば無間地獄、進んでも無間地獄、ってな感じだ。
「あ、そういえば、一昨昨日は、佳純さんがバイクで届けてくれたっけ」
という俺の問いに、
「今日は私がご主人様のためにお弁当を作れる日なんです」
と笑顔をふりまく瑞恵。
「じゃあ、5人で交代になったんだ?」
「はい♪、5日ぶりなんです♪」
「最初は久々野君、弁当箱を5つも抱えて途方に暮れてたしね」
「‥‥‥‥楽しそうに言うな」
憮然とした表情で答える久々野。
「あの時は、さすがの君でも1カ月でぶったおれたね」
「はい、その節はご迷惑をおかけしました」
「いえいえ」
彼女の謝辞は、だがちょっと恨めしさがこもっているように見える。
「黒鮫さんのご意見どおりに一人ずつ代わりばんこにしたところ、確かにご主人様の健康状態が目に見えて良くなりましたが‥‥‥でもご奉仕の回数が5分の一になってしまいました」
はっはっはっ、そういうことか。
説明しよう。
実は、5人のメイドが、先を争ってこいつに『奉仕』しようとして、
かなり熾烈な争いになっていたのだ。
一つの仕事を5人でやる、
でかい金持ちのお屋敷とかなら判る。
しかし、ごく普通の家に住んでいるこいつにそんな真似をしたら、そりゃ大変なことになる。
弁当も、朝夕食も、
着替えの手伝いも、
風呂での背中流しも(うらやましい奴!)
五人が、我も我もと争って、
前の主人とやらは、冷徹に、一番うまいやつのだけを選んでいたそうだが、
こいつは気が優しい奴で、
一人に絞って選ぶことが出来なかったわけだ。
彼女達の『攻撃』で、かなり弱ってきていて、
さすがに俺でも可哀想に思って、
『一人づつ、日替わりでご奉仕』って俺が提案したんだ。
最初不満を漏らしていたが、
こいつの性格を得々と解いて、こいつの健康のため、と言ったら、
しぶしぶ承諾した、というわけだ。
「そっか、せっかくの自分の番で一生懸命作ったお弁当を忘れられたら、それは可哀想だもんな、ちゃんと弁当を食べてやらないと」
っていうか、食ってもらわんと、提案した俺が恨まれる。
「‥‥‥‥人事だと思って‥‥‥‥‥」
「では、失礼いたします」
瑞恵は、ぺこりと頭を下げると、
自転車に乗り‥‥‥‥
「あ、ご主人様、今日のご夕食ははご主人様の好きなカレーにしますから、お早めにお帰りくださいませ」
と笑顔で言って去っていく。
その後ろ姿を俺達二人はしばらく見つめ‥‥‥‥
「ねえ、久々野君」
「‥‥‥なんだ?」
「君の家って、たしか快速電車で30分飛ばした所だったよね」
「うん、そうだけど」
「彼女、自転車で追いつけるなんて、すごい健脚なんだね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
久々野は、眉間にしわが寄った顔でしばらく見つめると、
はあ‥‥‥‥‥
と溜め息をついて、
「さき、行くからな」
と言ってすたすたと早足で歩き出す。
冷たい奴、とは思わない。
何せ、後ろからは瑞恵のファンクラブを自称する男どもが、
憤怒の表情で久々野をめがけて早歩きで追いかけてきたからだ。
多分、
『あんな遠いところから瑞恵さんに弁当を持ってこさせるなんて、なんて冷酷な命令をするんだ久々野の奴』
ってな感じだろう。
いくら弁明しても、嫉妬に狂った男達に通用するはずがないのは今までの経験上、明らかだ。
まあ、がんばれ。
朝の学院、
生徒たちが、ぞろぞろと、学校に向かって集まってくる。
半端じゃない数だ。
何せ、学園都市、いくつかの学校が集まった場所でもある。
学園都市全体での生徒数はおおよそ3万6000人、
越智苑学園だけでも1200人の生徒がいる。
上から見ると、俺達はまるで、地面に落っこちたお菓子に群がる蟻に見えるだろう。
ここが、そして今が、この学園の『秘密』を知るのに一番判りやすい、
ほら、向こうを見な、
男女交際には、ここはそれ程は厳しくないから、
そこらかしこにカップルが出来ている、
実は、そのカップルが、問題なんだ。
一見、普通に見えるが、
例えば、あそこのカップルを見ながら、
俺と同じ事をやってみな。
左手で、ジャンケンのチョキの指を閉じた形をする。
これは、密教で言う『刀印』という手の形だ。
そして、その手の人差指を自分のコメカミにつけて‥‥‥‥、
あからさまにやるんじゃないぞ、
なんとなく、前髪でも掻き分けるふりをしながらやるんだ。
そして、小さくこうつぶやく、
『オン・マニハンドマ・ウン』
どうだ、見えただろ。
女のほうに、猫耳と猫シッポが生えてるのが。
彼女は俗に言う、『妖怪』の類さ。
そのまま、他のカップルを見てみな、
他にも何かの動物の耳とシッポが生えてるの女がいるだろ、
頭に、天使の輪っかが浮いてたする女もいたり、
回りを妖精が飛んでたり、
なんだ?、気分でも悪くなったか?、
じゃ、指を額から離しな。
ほら、元に戻っただろ。
なに?、何かの幻術かって?、
いんや、そうじゃない、あれは、彼女達の本性さ。
おっと、この音は‥‥‥‥
戦闘機の音だ、耳を押さえないと、鼓膜がやられるな。
キイイイイイイイイイン!!
ああ、うるせーな。
上からは、垂直離陸式のジェット戦闘機、
『菱謫A-31』が降りてきた。
ったく、校庭に直接降りてくるんじゃねえ!、
ほら、生徒の多くが、ジェットの風圧で吹っ飛んでるじゃねえか、
平気なのは、例のカップル達ぐらいだ、
なにせ、女のほうがただの人間じゃないと来てる。
みんな、男を守ってる。
結界をはったり、パワーで風圧を押し返したり、
風の魔法で、自分たちに来る風をそらしたり‥‥‥‥‥
エンジンが止まった、
ぷっしゅー、という音がして、
コックピットのハッチが開くと、
ひょい、と顔を出す、これまた奇麗な女生徒が一人、
「あ、いたいた♪、水凪く~ん♪」
と叫ぶと、
尻餅をついている一人の男子生徒に向かって、戦闘機の機上から、ダイブ!
ばふっ、
男に抱きついて、
「おはよう、水凪君♪」
とこれまた幸せな顔。
「ち、ちょっと、菱謫、なんで戦闘機なんかで‥‥‥」
と、水凪の困った声に、
「うん、実は昨日ね、お祖父様のパーティに出席しに、オーストラリアまで行ってたの、急いで水凪君に会いたいから、マッハ3.4で大急ぎで飛んできたのよ♪」
と、抱きついたまま女が答える。
説明しとこう。
彼女の名前は、菱謫江美菜、
日本で5本の指に入る大財閥、菱謫コンツェルンのお嬢様、
見ての通り、一人で自在に戦闘機の操縦までやるお転婆だ、
しかもマッハ3.4って言ったら、熟練したパイロットでも気絶することがあるぐらいのスピードだ。
それが、ぴんぴんしてやがる、
前も、オーストラリアから空中給油でノンストップで来たそうだから、
今回もそうなんだろう、
一応、普通の人間だそうだから、余程の才能と、そして本人の努力、訓練の賜物だと思う。
ちょいと、使い方を間違っている気がしないでもないがね。
俺は、飛ばされかけて慌てて掴まっていた鉄棒から手を離して、
さっさと校舎に入っていく。
さてと、ここの秘密が判っただろうか?、
ここの裏の別名は、『落ちもの学園』
取り柄の特にない普通の少年が、不思議な力を持った特別奇麗な女の子と出会い、
惚れられてしまう、という不思議な運命を持つ学院だ。
5年前に他界した祖父は、
そういった『落ちもの』の女の子と付き合うことを夢見て、
世界中を奔走し、遂にその夢を叶えることが出来なかった。
俺は、いまわの際の祖父の枕元で、その夢を託された。
そして探し求めるうち、ここの存在を知った。
いろいろあったが、ようやくこの学院に入る事が許され、
女との出会いを願いつつ、学園生活の真っ最中って訳だ。
今の所、残念ながら、出会いはない。
まったく、爺っさまはやっかいな遺言を残してくれたもんだ‥‥‥‥。
さて何処でもそうなんだが、授業っていうものは、退屈きわまりないものだ、
俺はというと、相変わらす、自分のキャラクターである、
『少し身体の弱い、少しぼーっとした、天然ボケの少年』
をやっている。
成績は普通。
時々、教師に当てられ、
黒板に数式の答えを書くときは、
程良く正解を書き、適当に惜しいところで計算間違いをして、
適度に目立たない程度の成績を残す。
そうやって、一日の学校生活を終える。
本来の俺は、もうちっとがさつで、少し喧嘩っぱやい、
しかし、昔っから『落ちモノ』の主人公は、平凡な外見と優柔不断な性格を持った男と決まっている。
しようがないから、俺はわざわざそう言う人間を演じている。
いつ、『落ちモノ』の女の子と出会えてもいいように。




