【07】
朝食の用意が調うまで、じっとしているなんて出来そうにも無い。
部屋を出てみたくなった。
ドアを出て少しした所でエレナに出会う。
数人の巫女達を従えたエレナは「あら?」と、言って私の方へ向きを変える。
「起きても平気なの?」
「少し身体はダルいけど、外の空気でもって思って…。どうですか?エレナも一緒に」
私としては案内してもらえたら、と軽い気持ちで誘ってみた。
でも、後ろに控えてた巫女達が強張った表情になる。
何か?いけない事でも言ったかな?
それとも言葉遣い?やっぱり大巫女様相手に呼び捨てはダメ?
でも、深緋色の瞳は一層優しさを湛え――。
「ご免なさいね~。わたくし、外には行けないの。大巫女である限り神殿の外に出る事は禁じられているのよ」
「そ、そうなの…」
「それより、朝食は?まだなら一緒に頂きましょう」
にっこり微笑む彼女はまさに聖職者そのもの。
深緋色の瞳で見つめられると癒されるというか……。
不思議な魅力をもっている人だと思ってしまう。
朝食後。
いつものように薬を手にしている。
いつもと違うのはお水を手渡してくれるのが母ではなく、菫色に瞳を持つ少女である事。
しかも、心配げに私の顔を覗き込んでくる。
「もしかして、すご~く心配してくれてる?」と、言ってクスっと笑ってみせる。
一瞬ポカンとした顔を見せたが、すぐさま眉間に皺を寄せて「当たり前です!」と怒る。
ちょっとからかうつもりが、本気で怒らせてしまった。
「ごめんって。心配してくれて本当に嬉しいんだってば」
「………」
「ね?機嫌直して」
私、何やってるんだろう?自分より年下の、しかも、歳の離れた女の子相手に。
「お母さんが――」
ん?お母さん?いきなり何の話だろう?って思ったけど、ここは何も言わず黙って愛らしい口元が動くのを待つ事にする。
「お母さんが、倒れたの。私の目の前で……」
途中まで言いかけて、グリンダリアは項垂れてしまう。
菫色の瞳にはきっと過去の映像が映ってるに違いない。
そうさせたのは、私だ。
「ごめんね。許して欲しい」
「い、いいえ!…ただ……」
「辛い過去を思い出させてしまったのは私だから」
白金の髪をそっと撫でてゆっくり抱き締めると、グリンダリアはきゅっと私を抱き締め返してくれた。
人は誰でも、独り残されるのは悲しくて淋しい。
そして、私は残していく側の人間だ。