【06】
これが夢なら覚めて欲しいと思うし、夢なら眠り続けてもいいと思う。
帰れないなら、無理に帰る必要無いのかも。
帰っても帰らなくても私の運命は変わらない。そんな気がする。
薬を持参で異世界に召喚か……。
おかしいやら、馬鹿げてるやら、なんだか情けないやら。
溜め息が漏れた。
私は今、朝日の光が窓からこぼれる部屋に独り。
そして、ベッドの中。いつの間にここに来たんだろう?
記憶が無い。
昨日は確か菫色の少女と話をしていて、薬を飲んで…、それから――。
まぁ、私にはよくある事。
目が覚めたら病室だったり、自分の部屋だったり、学校の保健室だったり、救急車の中だったり…。
だから“きっと、今回も”――そう思う事にした。
ゆっくり身を起こした所でノックの音。
ドアがそーっと開き、白金の髪がサラっと揺れるのが見えた。
「おはよう、グリンダリア」
「お、おはようございます…、コウ」
彼女の持つトレイの上には水差しとグラス。
「お加減は如何ですか?」
「えーっと、私…もしかして、倒れたのかな?」
「は、はい…」
そう言って、サイドテーブルにトレイを置き、白い小さな包み紙を見せてくれる。
「これ、薬師に用意させたものですが…」
「――ありがとう。でも、大丈夫だから」
きっと、豪快に倒れたに違いない。
菫色の瞳が赤く、少し涙目になっている。
「もしかして、寝てない?」
「あ、いえ…」
「ごめんね。びっくりさせたね」
私は、着替えるために起き上がる。
「あ、休んでいて下さい!」
「う~ん、まぁ、大丈夫だから」
「でも…」
「それで、私は何をすればいいのかな~?困ってるんでしょう?この国の人達は」
「え?」
「あんまり時間も無いし、出来ればささっと終わらせて帰りたいし」
グリンダリアが用意してくれた服に身を包む。
「お食事は?」
「少しなら、食べれそう」
ちょうどドレッサーがあったので鏡の前に座り、櫛で髪を梳く。
セミロングの黒い髪。
鏡に映る姿は自分のものなのに、見る度に別人だと錯覚を起こす。
ただ、認めたくないだけだ。
日に日に痩せていく自分自身を――。