【41】
少し走っただけなのに、発熱。
例によって、またまたベッドの中。
白金の髪の少女には、くどくどとお小言を言われる始末。
私に対して言いたい事は言い尽くしたのだろう。今度はシュカに矛先を変えた。
「一体、どういう事なの?貴方を探す為に神殿内をコウは走り回っていたという話しだけど!」
「――“シュカ”だ!小娘」
「?!」
何て事なの、私の上を飛び交う言葉。
ベッドを挟んで見習い巫女と『魔獣』は会話をしている。しかも、思い切り険悪に。
「グリンダリア、さっき私が名前をあげたの」
真ん中に居る私が、さりげなく二人の会話に入る。
「名前…、そういう事…“シュカ”ねぇ」
そう言って、菫色の瞳は睨みを利かせる。
「では、シュカ。私の事は“小娘”ではなく、グリンダリアと呼びなさい!!」
「………」
溜め息が…。
本質的に相性が合わないんだろう。
だけど、どうしてこの二人はこんなにも仲が悪いの?
だからと言って、いつまでもこのままという訳にはいかなくて。
「お願い、グリンダリアもシュカも、休ませて…」
「ご、ごめんなさい…。コウ」
「――すまない」
こういう所は、二人とも素直で可愛い。それなのに…。
グリンダリアはシュカの腕を取り、強引に部屋から連れ出す。
静かになった部屋に、私の溜め息だけが残る。
でも、あの『魔獣』と臆する事無く接しているグリンダリアって、実は彼女が最強って事?
そんな事を思いつつ、私は目を閉じ眠りに付く事にした。
コウの部屋を出たグリンダリアは隣室にシュカを押し込み、ドアを閉めたと同時にシュカの腕を放す。
「少しは考え欲しいものだわ!コウは病気なの!ここに来てから何度も倒れてるし、熱だってずっと微熱が続いてる!もしもの事でもあったら――」
グリンダリアは悲痛な面持ちで言い放つ。
「?――“もしもの事”?」
「そうよ!もしも体調が急変でもしたら…って、私の話聞いてるの?」
今ひとつ、思いが伝わらない。
そんなシュカに、グリンダリアは苛立ちを隠せない。
「大巫女様も居ない…。それなのにアマビト様も居なくなったら…」
「――“居なくなる”?」
「ほ、本当に、分からないの?」
グリンダリアは訝しむが、シュカは平然としている。
「我に生も死も無い。理解し難い事だ」
「それなら、こう言えば分かるかしら?」
コウはこの先二度と貴方の名を呼ぶ事は無い――と。




