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【32】
“死”の無い世界ってどんなもの?
弓兵部隊が『魔獣』を狙っている。いつでも射る事が出来る状態だ。
その中の一人が先走って、矢を放つ。
――待って!
私はまだ、訊きたい事が!!
迷う事無く『魔獣』と矢の間に飛び込んで行く。
「コウ!」
「きゃあー!!」
アトレイシアが私の名を叫び、グリンダリアは悲鳴を上げている。
「うっ!!!」
矢は私の右肩を掠めただけ。なのに、この激痛!!
「――愚かな。我は不死、傷付く事は無い」
「…でも、痛みはあるでしょう?」
「………」
「身体は傷付かなくても、心は?」
「………」
私は右肩の痛みに耐え、自分自身を奮い立たせる。
そして、今までに出した事なんて無い大きな声で――。
「この『魔獣』は私が預かる。誰にも危害なんて加えさせない!!」
不安と戸惑いと、どうするべきか分からないという雰囲気が漂う。
「ここは、アマビト様にお願いしよう。大巫女を失った今、他に頼る者も無かろう。新たな大巫女が選ばれるまで」
そう言ったのは、アトレイシア。
女王としての威厳を示し、全ての者を制す。
私はアトレイシアの言葉を聞き、激痛の中意識を手放していた。




