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【29】
『愛してる人と一緒に居たいだけなのに』
『同じ時を生きて行きたいだけなのに』
『大切な人達に囲まれて最期を迎えたいだけなのに』
『そんな些細な事も望んではいけないの?』
『来る』
『あの人は来る!』
『迎えに来てくれる』
『迷いなんて初めから無い!』
『永遠なんていらない!』
『一瞬でも愛しい人と一緒に居たいだけ』
「アトレイシア!!!」
私は喉が切れるほど何度も叫んでいる。
「――来るわ。あの人が…来る」
ドーーンっ!!
突然、轟音が響き渡り、鼓膜が破れそうなほど耳の奥が痛い。
炎が煙が舞い上がっている。燃え上がる城。
無数の悲鳴が!叫び声が!
約束の日。
それは今日、この日、この時。
そして、一陣の風と共に現れたのは、酷く痩せた男。
白金の髪に菫色の瞳。容貌は衰えていても綺麗な人だと分かる。
この人が“ロイ”!
後ろに佇むのが『魔獣』。
亜麻色の毛並みに、黄赤色に瞳。
――圧倒される!
この騒ぎにいち早く駆け付けたのは、この国の騎士達。
そんな中であっても、気に留める事無くロイは私とアトレイシアの方へ一歩また一歩近付いて来る。
「迎えに来た。共に行こう――エレナ」




