【10】
再び、私はベッドの中。
ここが私の居場所なのかもしれない。
19年間で一番多く過ごして来た場所。
グインダリアは私の世話を文句も言わずにしてくれる。
いきなり、何も知らない、訳も分からないこの異世界に来て不安だらけの私にはとても大切な存在。
本当に天使のような少女。
でも、どうしてここまで見ず知らずの私なんかを…とも思う。
天人だから?大巫女が命じたから?それとも――。
きっと、菫色の瞳には過去の思い出が映ってるに違いない。
私と母親を重ねているのかも。
そして、彼女の手には薬と水が入ったグラス。
「コウ…、飲んでね」
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから。逆に外に出た方が気分いいかも」
「え?でも…」
「勿論、一緒に行こうよ。案内してくれる?」
「……少しだけですよ」
異世界に来てまで、ベッドに縛り付けられるのは嫌だった。
ここは、緑に溢れる国。
隣国に比べると小さい国だってグリンダリアは言うけど、私から見れば広大な草原と深い森に青い空。
清々しい風に眩しいほどの太陽。
この世界は美し過ぎる。
ここに来てから何度思ったかな?“ここって天国?”って。
もし、ここが天国なら、元の世界に帰れなくてもいいかもって思ってしまう。
私の隣には白金の髪に菫色の瞳の天使も居る事だしね。
光の神殿の近くにお城が見える。
ここからお城ってこんなに近いんだ。
しかも、この場所は少し高台になってるから、割と遠くの景色が望める。
「あれ?あそこに、あの森の中にあるのも神殿なの?」
私は指を差して尋ねる。光の神殿と似た建物が見える。
「はい、あれは封印の神殿です」
“封印”
その言葉が胸の中で引っ掛かった。
「ふ~ん、封印の神殿か~。って事は、何を封印してるの?」
「………」
「言えないようなモノ?」
訊いてはいけなかったのかな?と、思い遠慮がちな声色で接してみる。
「――いいえ、あそこには『魔獣』が封印されていたんです」
「『魔獣』…?」
「はい」
「“されていた”……じゃあ、今は何も居ないんだ?」
「…はい」
私の中で何かが警告している。
「私にその『魔獣』をどうにかして欲しいっていうのが、この国のお願い事?」
「………」
「違う?」
私は目を細めて笑ってみせる。どう?当たりでしょう?って。
グリンダリアの表情は失われ、菫色の瞳を閉じる。
「――この件については、私は何もお話出来ません。女王陛下もしくは大巫女様からお聞き下さい」
そう言って「もう、戻りましょう」と、いつもの愛らしい顔を見せてくれた。




