000 『一つの決意とコーヒー』
初めてのドシリアスを書こうとしたら、こうなった。
コーヒーの話が多い? 主人公がコーヒー好きなんだよ、きっと。
真冬の空。
昼間は鮮やかな青を見せるあの空も、夜になれば対照的な闇の色に染め上げられる。その空の星たちが、まるで自らを主張しているかのように光輝く。
今日は空気が澄んでいるので、一つ一つの星がくっきりとしている。時折吹きすさぶ風は、少しの冷たさと共にベランダを流れていく。
「綺麗だ」
自室のベランダから、ぼんやりと空を見上げていた俺は無意識に呟く。
見える限りで一番大きな星に、軽く手を伸ばし、そして、拳を作る。
――あの星を、掴み取れ。
どこからともなく、声が聞こえる。
――貴方には、それだけの力があるから。
それは、もう忘れようと思っていた、古い、古い、過去の記憶。
――絶対に、諦めるな。
「ッ!」
3度目の言葉でついに耐えられなくなって拳を自分の太ももに叩き付ける。
足に鈍い痛みが伝う。それと共に『声』もプツンと止み、俺は何度か深呼吸を繰り返しす。
「っはぁ」
大きく息を吐きだし、ようやく落ち着きを取り戻す。
ふと気が付くと全身が汗で濡れており、同時にタイミングよく吹いてきた風によって2、3度身震いする。
「ちょっと冷えてきたな……」
悴んできた両手をすり合わせて、小さくはぁ、と息を吐く。
汗のせいもあるだろうが、先程より気温が落ちている気がする。俺はベランダに置いている、安物の白い椅子から腰を持ち上げ、早々に部屋へと退散する。
窓を開けたまま出てきたため、少し冷気が入ってきてしまっていたが、外より断然温かい。暖房が直で当たっているソファに深く倒れこみ、テレビの電源をつける。
そのまま自然な動作で手元にあったステンレス製のコップを手に取り、口をつける。
コーヒー特有の芳醇な苦みが口内を覆う。
俺はコーヒーには砂糖やミルクを入れない派だ。別に微糖やカフェオレを否定するわけでは無いが、コーヒーは自然な形のブラックが一番美味しいと思うのだ。もちろん、好みの問題もあるだろうが。
ベランダに出る前に煎れていたものなので、少し香りが逃げてしまっている。が、冷めている現段階でも十分美味い。一気にごくごくと飲み干し、ぷはっと短く息を吐く。
『――本日の夜は満天の星空が――――』
聞こえてくる女性キャスターの声を軽く聞き流し、窓の外に視線を傾ける。
どこまでも広がっている星空を眺め、また拳を突き出す。
「俺はもう、何も失わない」
『あの』記憶に向けて一言だけ呟くと、俺はゆっくりと目を閉じた。
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