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プロローグ『くろーせす、ぎぶぜむとぅみー』


 景色がぐにゃりと歪んだ。

 早朝の新聞配達の帰り、白みがかった空を見上げた。

 ばちばちと街灯がうるさく鳴るモンだからなんだと見上げてみりゃ、空が渦巻いてたんだ。

 水槽の向こうに空を見るように景色が歪んでいて、青白い電光が走っていた。

 歪んだ景色の真ん中から光の粒子がこぼれる。

 ビニールを焼いたような匂いがして歪みから激しく風が吹く。

 初めは僅かにこぼれていた光の粒子がやがて激しくなり、流れる水のように空中で渦巻く。

 それが人の形を取り、静かに明滅を繰り返すようになると、俺はようやく現実を思い出す。


 「なんじゃあ……」


 呟いてみるが、理解できるほど俺は頭が良くない。

 永峰昭彦(ながみねあきひこ)、当年とって一七歳、どこにでもいるような平凡な高校生を平均とするなら、平均以下の高校生なのだから。

 人型を取った光はようやく明滅を収めるようになり、その向こうに人の姿を見せ始める。

 ぱぁん!と乾いた音が響き、光が四散すると、その中から全裸の少女が現れた。

 全裸(マッパ)の、少女だ。

 俺ぁ世間様では思春期真っ盛りと言われる年代で、全裸の女に興味が無いといったら嘘になるし、むしろ、大好きだと公言している。

 がしかし、いくらなんでもその少女は劣情を催すには幼いというか、ちんまいし、何より空を割って現れた全裸の少女にひゃっほーいと欲情できるかという話である。

 つまり、状況がとんでもねえくらい不思議だってことだ。

 少女はぱちぱちと音を立てる電光をまといながら、静かにアスファルトに膝をつき、首をもたげる。

 肩口でそろえられた白い髪がはらりと揺れて、赤い瞳が俺に向けられる。

 きゅぃぃ、とモーター音をたててすぼめられた瞳孔が俺を捕らえると、少女はその可愛らしい口を開いた。


 「……時間軸、座標軸照合……跳躍成功、目標確認開始……」


 なにを言っているのかは理解できないが、日本語ではあるらしい。


 「……抹殺目標、永峰昭彦と照合。甲種火器使用申請……許可。これより、単独任務に移行します」


 自分の名前を言われたと思った矢先だ。

 少女の腕に、先ほどの光が収束したかのように見えた。

 それは瞬く間にガトリングガンの形を作り、その銃口を俺に向けてきた。

 ガトリングガン。

 そう、ガトリングガンだ。海上保安庁の巡視船を見学したときに見たモンと同じだ。

 あれは鉄パイプのような銃身を高速回転させて弾を吐き出す、鉄砲のはずだ。

 呆気にとられる暇もなく、俺は走って車の陰に逃げた。

 咄嗟の判断だと言っていい。

 自分と別の誰かが居て、同じように機関砲を向けられて「やあこんにちわ」という状況はありえないだろ?常識的に。

 耳を破るような轟音が響き、銃口が火を噴いた。

 流れ弾が街灯をへし折ったのを見た次の瞬間、隠れている車を突き破って弾丸がアスファルトを削った。

 這うように走り出し、トラックの陰に滑り込むと追って弾丸がトラックのコンテナを撃ち抜き穴をあける。

 中に積まれていたのは魚か何かだろうか。

 飛び散る肉片と血飛沫が妙に生々しい。


 「……目標、反撃能力皆無、逃走を開始。これを追撃する」


 マッパの少女は淡々と告げ、背中から巨大な鉄の翼を広げた。

 翼から青白い燐光が吹きあがり、朝焼けに染まる空にその体を押し上げた。

 見上げた俺の目と、ガトリングガンの銃口、少女の視線が一直線に重なる。


 「射撃線確保、多重補足、精密射撃準備、撃ち方始め」


 地面を転がる俺の寸分先に弾丸が突き刺さる。

 弾けたコンクリ片が顔を叩いて痛いとか、そんなこと言ってられる余裕もねえ。

 トラックのコンテナの陰に滑り込めば、空中を飛ぶ少女が回り込みながらガトリングガンを撃ち込んで来た。


 「一体俺がなにしたん!?」


 とりあえず叫んでみるけど心当たりは無い。

 いや、あるっちゃあるかもしれないけど、まさかよもや素っ裸の幼女に機関砲持って追いかけられるようなことをしたと言い切れる人間が世の中にどれほどいるんだろうか?

 路上駐車している車の陰に次から次に滑り込み、かろうじて弾丸の直撃を避け、自分の自転車に飛び乗る。

 飛び乗った衝撃でキャスターをはずし、ジャックナイフで方向を変えるとペダルを強く蹴って走り出す。

 火線がなめるように迫って来るが、直前で蛇行し、角を曲がり、その都度射線を外す。

 だが、その度に少女は空中を先回りし、俺の退路を塞いだ。


 「冗談じゃねえよや……」


 呟いてみたが状況が理解できないし、良くもならない。

 散水栓をガトリングガンが撃ち抜き、激しい水しぶきが上空にまき散らされる。

 少女は目の前に立ち上った水柱に怯み、銃口を水に向ける。

 空中で、水柱に向けありったけの弾丸を撃ち放つ。

 俺はその隙に、ビルとビルの間の路地をぬけて逃げる。


 「……目標、消失。熱源探知開始。告知音声、伝達」


 遠く離れたにも関わらず、ねばりつくように耳元で少女の声が聞こえる。


 「甲種火器、残弾無し。文明レベル十三、乙種火器使用申請……許可」


 路地を抜けた先、上空に少女が重々しい銃を抱えて待っていた。

 青白く輝く燐光がワニの口のように割けた砲身の中でうねり、煌めいていた。

 アニメとかであれに似たようなのは見たことがある。


 「試射」


 ――ビーム砲!?

 銃口が淡く輝き、ギャーンと甲高い音がした。

 まぶしく光ったと思うと、俺の自転車のハンドルと前輪が溶けて転がっていた。

 自転車をぶっ飛ばした光は、アスファルトを溶かし、地面を爆風で捲り、砂塵を巻き上げる。


 「なーなーはー!」


 一体目の前で何が起こってるのか理解できない。

 混乱したまま俺は直感に任せるまま、アパートの駐車場に逃げる。

 少女は俺が逃げたのを見ると、背中の翼を唸らせて飛びながら追ってきた。


 「ドグマグ・ランヴィ出力充填、損耗率算出、最大出力による掃討射撃にて目標を排除」


 少女の背中の翼が激しく光を吐き出す。

 それらが帯となって少女の手の中の銃につながり、銃口が激しく明滅する。

 光が渦となり、球体となって銃口の前で渦巻き、膨らんでいく。

 なにか、とてつもなく嫌な予感がして走り出していた。


 「……発射」


 巨大な光の剣のようだった。

 少女の足下に放たれた光が、アスファルトをめくり、駐車場の車を爆発させながら俺の方に伸びてくる。

 その場を飛び退いた俺の後ろで、アパートがまっぷたつにされていた。

 光はそのまま、上空へ向かって伸ばされたが、その向こう側にも被害にあった建物の数は少ないとは言えない。

 オレンジ色の爆炎は一瞬しか見えず、包み込むように苦い匂いのする黒煙が巻き上がる。

 アパートのコンクリが弾けた粉塵が広がり、縦に真っ二つにされたアパートの階段の残骸に溶けた鉄骨が糸を引いていた。


 「……目標、回避。広範囲型、制圧兵器を使用します」


 少女は俺を見て、そう言った。

 ――要するに、まだやるぜ?ってこったろう?


 「冗談じゃねえ」


 俺は瓦礫に埋もれた三輪車を見ながら、ふつふつと言われようのない怒りを感じた。

 それと、理解できない、それでいてどうしょうもない現実を認め、それらが渦巻いて立ち上がることを決める。


 「……おい、お前さん。ちぃとばかり、やりすぎじゃねえのか?」


 少女が無表情のまま見下ろす。


 「綺麗事だけで生きてるツモリもねえし、どこぞでヤクマチ切ってきたかもしんねえ、筋合いあんなら喧嘩だって買ってやろうじゃねえか」


 この少女が一体、どこの誰なのかは知らない。

 立ち向かって勝てるはずもない。


 「でもよぅ?こいつぁ、いただけねえよや?」


 このアパートには俺やこの少女とは関係無い人が住んでいるんだ。

 壊されたトラックや車の持ち主にだって生活があんだ。


 「誰に迷惑かけてんだこのボンクラ三下が!」


 少女は無表情のまま銃口をこちらに向け、沈黙していたが、やがて口を開いた。


 「対象の口述する内容に生体としてのパラドクスを認識、解釈を求める」

 「スデゴロでケリつけようってんだ。降りてこいや!」


 拳を作って突き上げてみて、ようやく理解したようだ。


 「格闘戦闘による抹殺を希望。情状を酌量した殺害は感情の処理に最適と判断。了解」


 少女が翼を展開したまま、高速で突進してくる。

 減速など、一切無い。

 速度と質量に任せた、体当たりだ。

 ――上等。

 覚悟を決めた俺は跳躍する。 

 その少女の顔面に跳び蹴りを叩き込む。

 少女の額に突き刺さった踵を軸に、少女の体が回転し、俺の下を転がった。

 アスファルトに亀裂を作り、弾んだ少女の体が街頭を折って止まる。

 それだけの衝撃だ。

 俺も無事じゃあない。

 ほぼ真上に跳ね上げられ、ぐるぐると世界が回る。

 その景色の中で少女が転がっているのを見ていた。

 ひしゃげた車の屋根に落ち、背中が悲鳴をあげる。

 痛みに頭が真っ白になるが、かえってそれが覚悟を決めさせてくれる。


 「くそったれが」


 少女がむくりと起き上がり、表情の無い顔をこちらに向けてくる。

 起きあがった俺は車のひしゃげたシャフトを手にして、向かい合った。

 少女の手から光が発せられる。

 それが剣の形を取り、少女はジグザグに地面を走り、肉薄してきた。

 銅を横払いに払う腕をシャフトで叩き、握った反対側で額を打ち払う。

 わずかに後ずさった刹那に、俺はバッタバタ少女を打ち据えた。

 少女は髪の中からアンテナのような角を表すと、頭上から振りおろされたシャフトを受け止め、手の光剣でシャフトを断ち切った。

 その角をひっつかんで、力任せに振り上げ、地面に叩きつける。

 その次の瞬間、俺の手の平の中できぃんと甲高い音が鳴り響くと光輪がいくつも広がり、空気がごう、と揺れた。


 「対象の反撃を確認……存在力量干渉波の逆流を感知、ロジカリティ領域の損傷、甚大」


 ぶつくさ呟く少女に構わず俺は馬乗りになる。

 喧嘩はしないが、やるとするなら何事も徹底的にやるのが俺の信条だ。

 マウントポジションを取り、少女の腕を膝で押さえつけると少女は俺の下で身動きがとれなくなった。


 「対象に被補足。事象干渉の防止の為、時限干渉を切断。以後、当該人格による単独任務遂行に移行します」

 「ああッ?聞こえねえよ!」


 俺は少女の頭を平手で叩く。


 「……デストロイシステム、ダウン。当該人格復旧まで5、4、3……復旧、今」


 俺の下で少女の体から一気に力が抜ける。

 糸の切れた人形のように力無く横たわると、目を閉じた。

 組伏せられた程度で、あっけなく降参するようには思えない。

 が、しかし、次の瞬間、少女はまるで眠りから覚めるように目をしばたきながら開けた。


 「うぃ……終わったですか?」

 「なんだぁっ?終わったって何が終わったんだコラ!人のわかる言葉で説明しやがれバカヤロウ!」

 「うわっ!なんですかコレ!終わってないどころか、なんかピンチですよ!いろいろとマズいことになってます!」


 少女の雰囲気はさっきとはだいぶ変わっていた。

 がしかし、痛みで頭に血の上っている俺には理解している余裕が無い。


 「うるせえこのっ!どうオトシマエつけんだ!コラ!」

 「お、おとしまえって……お金でもくれるですか?」

 「なんで俺がてめえに金出さなきゃいけないんだよ!ブっころがすぞテメエ!」

 「ごめんなさい!ごめんなさい!お年玉と勘違いしてました!この地域のこの年代には年のはじめに年長者が幼年期の人間にお金を配るしきたりがあるって……やぁぁああ!怖いぃぃぃ!」


 怖い?

 何が?


 「ひぃぃあああっ!助けて!助けて!なんかおっかない!すごくおっかないですよ!」


 悲鳴をあげて怯える少女の、頓狂な答えに俺はようやく冷静さを取り戻す。


 「なんだぁおめえ……これじゃあガキをいちびってるみてえじゃねえか」

 「ば、バカにすんなです!これでもターミーネッタシリーズの最新作だぞ!時限ちょーやくにんむをたんどくすいこーぜんていに作られた、えーと、えーと、ガンダムモデルなんだからな!」

 「ガンダム?」


 一本角のガンダムってあっただろうかと考える。

 そういやあったな。だけど違うだろ。


 「……カスタム?」

 「俺に聞くな」

 「ごめんなさいです」


 謝られても困る。

 俺は一気に脱力すると、途端に思い出した痛みに背中を曲げる。


 「痛つつ……」

 「どうしたですか?怪我したですか?」

 「大したことねえよや。ちっとばかし、背中打っただけだ」

 「死ねばいいのに」


 思わず頭をハタいてしまった。


 「痛いです!何するですか!」

 「言うこと欠いて死ねばいいのにたあどういう了見だ!」

 「だって!だって!しょうがないですよ!私は昭彦の抹殺を任務の目標にしてるですから!」

 「何で俺が殺されなきゃなんねえんだよ。自慢じゃねえが恨み買って殺されるような犯罪はした覚えがねえぞ」


 人から悪いと見られることはしてきたかもしれない。

 がしかし、後ろ指さされるようなことはしてきていないツモリだ。

 そのとき、丁度、アパートから様子を見にきた寝間着姿の奥さんが俺の姿を見ていた。


 「助けてです!この人に犯されるです!今、まさに殺されてもおかしくない犯罪を実行途中で……あ痛っ!」

 「おまー人が見たら誤解するようなこと言ってんじゃねえ!」

 「あの人は五階じゃなくてアパートの三階の住人ですー!三〇五号室!」

 「誰が住んでる場所聞いたよ?」

 「目撃者を口封じであちょーするんじゃないんですか?」


 事態を重く見た主婦はあわてて携帯電話を手に逃げていく。


 「やっべ」

 「やーいやーい!ざまー!これで助けは呼べまい!今のうちに昭彦を抹殺してくれ……」

 「警察呼ばれる!」

 「わー!わー!大変ですよ!おーばーてくのろじーのかたまりな私がこーけんりょくと接触すると任務失敗だけじゃなくて、ペナルティ取られるです!昭彦がごーかんしようとするから悪いですよ!」

 「誰がお前みたいなへちゃむくれに欲情するかよ!」

 「あー!すんごい失礼です!可憐かつ清楚で天使を彷彿とさせるアンゲロスモデルをへちゃむくれ言うですか!」

 「勃起しねーよ!俺はズラかるからな!」

 「ちょちょちょ!待つですよ!私だけ置いて逃げる気ですか!」


 俺が痛む体を引きずって走ろうとすると、少女は腰に抱きついてくる。


 「ちょ、おまっ!」

 「お願い!私を連れて逃げて!」

 「潤んだ瞳で言われても、ぐっとこんわぁ」

 「なんで私が昭彦をぐっとさせにゃーならんですか!とっとと逃げるですよ!」


 少女は俺の体をよじ登り、後頭部に子泣きじじいのごとく組み付くと路地を指さした。

 遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。

 何でとか、どうしてとか、そういった諸々をとりあえず心の棚にしまっておいて、俺はその場を駆けだした。




 「ごめんなさい、ごめんなさい、とりあえず、謝るから許して欲しいですよ」

 ひとしきり逃げおおせた後、俺は少女を縛り上げて木に吊した。

 「いきなり人様にハジキぶっぱなしておいて、ゴメンで済んだら組長引退しねえよ」


 俺は少女を小突き、凄んで見せる。


 「だいたいオメー何モンだよ。頭にカブトムシみたいな角あるわ、きゅいんきゅいん音鳴るわ、レーザー撃つわ。ガンダムモデルとか言ってたけど、本当に新しいガンダムか何かかてめーわ」

 「萌えの全盛期にはそういうガンダムがあるですか?」

 「ローカルなネタとしてあったはずだが……そうじゃねえべ?話逸らすなってや」

 「いひゃいいひゃいいひゃい」


 ぐにんぐにんと頬を引っ張られ少女は目の端に涙をためる。

 少女は怯えた子犬のような目で俺を見る。


 「えっと、あのその、とりあえずロープを解いてくれたら全部お話するです」


 俺はロープをゆるめて少女の足が地面に着くようにしてやる。


 「騙されたな!何も知らぬままあの世へいくがいい!世界平和と私の出世のため、死ねこの雑魚っぱち」


 ロープを引っ張りまた宙に吊す。


 「ああん、ごめんです。ごめんなさいです。調子乗りました。本当に悪かったです」


 本当に反省はしてねーだろうな、こいつ。


 「……なんぞ、人に言えない理由でもあんのか?」

 「はぁ?バカですか。未来から来たターミーネッタがその任務内容を簡単にバラすと思ってるですか?そんなバカはさっさと私に殺されるといいです」

 「ほう、じゃあ、お前はとりあえず俺が何らかの理由で邪魔だから未来から殺しに来たターミーネッタとかいうロボット兵器かなんかということか」

 「お前エスパーですかっ!あるいはヴァイタルダイバーかなんかで私の記憶領域にアクセスしたですか!」


 こいつバカだな。


 「うるせえ、わからん横文字使うな」

 「バーカバーカ」


 俺は少女の角をデコピンではじく。


 「痛っ!痛い!そこ、センサーだからすごいデリケートです!もそっと優しく扱って欲しいです」

 「カブトムシの出来損ないみたいなツラで要求してんじゃねえよ。とっとと白状しやがれ」


 俺が縛られたままの少女をぐるぐる回すと、少女は目を回しながら呻いた。


 「うなぁ~……言えないモンは、言えないですよ」

 「てめえ、曲がりなりにも人のタマとろうって話になって訳も無くはいそうですかって殺されてたまんのかよ!」

 「そんなこと言っても話せないものは話せないですっ!それに昭彦だって理由を話したからはいそうですかって殺されてくれるですか!」

 「……まあ、言われてみればそうだよなあ」

 「納得すんなよ!そこで殺されてやるよって言ったら話してやるツモリだったのに!」


 俺は一瞬シバキ回して白状させようか考える。

 がしかし、命を狙われた相手とはいえ、少女は少女。

 縛り上げておいてなんだとは思うが、手荒な真似をするのはなんだか卑怯に思えた。


 「どうしょうもねえな」

 「みぎゃっ!」


 俺はロープから手を放し、少女を地面におろす。

 急におろされた少女はそのままべたっと地面に叩きつけられた。

 俺はボリボリと頭をかくと、明るくなった空を見上げため息をついた。


 「どうしたですか?やっぱり、理由が聞きたいですか?」

 「ここまでされて言えないなら、それ相応の理由があんだろ」

 「はぁ、まぁ」

 「なら、そいつを無理に割らせたって後味わりぃかんな」

 「よく、わからないです」

 「まぁ、いいや。今日は帰れ。殺しに来るなら、改めて来い。ただし、ほかの人に迷惑かけるようなやり方はすんなよ」

 「へ?殺されてくれるですか?」

 「殺った殺られたなんざ、今日死ぬか明日死ぬかの違いで、人間いつか死ぬんだから別段、お前さんがタマとるんだったらそれはそれでアリなんだろう」

 「はぁ?」

 「だけども、他の人に迷惑かけるような今日のような真似してみろ、俺がてめえをぶっころがす」

 「理解できないです。自分が殺されるって時になにをおっしゃってるんですかこのノータリンは」


 少女はあんぐりと口を開けて俺を見上げていた。

 俺はそのまま、背中を向けるとその場を立ち去ろうとした。


 「ちょ、ちょっと待つですよ!」

 「あんだよ。俺ぁこれから学校いかにゃならんのだよ。とりあえずお前も一回、家帰れ」

 「殺される理由とか聞きたくないですかっ!」

 「いらねーよ。お前が言わねえってんなら無理に聞く必要もねえだろ」

 「殺されるんですよ!人生終わっちゃうんですよ!」

 「だーかーらー、そんな未練ねえってば。やるならやりに来いって」

 「うー……」


 まだ、何か言いたげな少女が俺の服の裾を掴んでいた。


 「あんだよ。まだ、なんかあんのか」

 「あるといえば、あるし、ないといえばない」


 少女は恥ずかしそうに自分の体を隠しながら、赤くなりながらうつむいた。

 未来のロボットって頬を染める機能までついてるんだなーと感心する。

 もじもじと素足をすりあわせる少女に俺はぴーんと来た。


 「わかった。俺の住所知らないから殺しに来れないってことだな」

 「違うー!そういう基礎情報は任務前にインプットしてるですよ!」

 「そうか、じゃあ、帰りの電車賃が無いんだな。しょうがねえなあ。それくらいなら貸して……」

 「未来に電車で帰れるならその方法が逆に知りたいです!」

 「お腹減ったのか?でもその格好じゃどの店にも入れてくれねえだろ。どれ、コンビニでおにぎりでも……」

 「半分当たってるけど、半分ちがーう!」

 「そうだよなぁ。お父さんとお母さんにこのまま会うのは気まずいもんなぁ。しょうがねえな、俺が一緒に行って謝って……」

 「家出少女か何かですか私は!いじめてるでしょ?いじめてるならいじめてるとはっきり言って欲しいです!」

 「んー、じゃあ、やりすぎちまって未来に帰れなくなってるとか?」

 「へ?あ……ほんとだ!帰れなくなって……わー!それも大変だけどそっちじゃなくてー!わぁぁあん!」


 わかんねえ。

 さっぱりわかんねえ。

 何が言いたいんだこいつ。


 「おいおい、泣くんじゃねえよ」

 「昭彦は意地悪ですぅぅ!ああっ、あぁ…どーしてわかってくれないですかぁ……」

 「まるで俺が悪い人みたいじゃねえか」

 「悪い奴と一緒ですぉぉぃ…死んじゃえぇ、むしろ殺してやるぅぅ……」


 泣きながら恨み言を言われるのも後味が悪い。


 「なーなーは、泣きやめって」

 「ひぐっ、昭彦が悪いんですよぅ?」

 「わかったわかった、俺が悪いから、な?」

 「じゃあ、言うこと聞いて欲しいです」

 「なんだよ。死ねとかそんなことじゃねえだろうな?」

 「昭彦は私が殺すです。お願いするまでもないです」

 「イラっとすんなぁ……じゃあ、なんだ。ホレ、言ってみろ」


 少女はしゃっくりあげながら、涙の溜まった目で俺を見上げながら恥ずかしそうに言った。


 「……服を、ください」





初投稿になります。


応募作として書こうとしたけど、気の向くままに書いてたらギリギリどこも受けられないサイズになったので皆様に楽しんでいただければと投稿しました。



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