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俺のスキルが働かない ~神域スキルの『盤古』さんがニートすぎて、結局俺が物理で殴る羽目になる~  作者: 愛月量


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第2話 状況は味変になる

ボロボロの革鎧に、魔獣の返り血。

アルトは巨大なレッド・ベアの素材が入った袋を担ぎ、迷宮都市の正門をくぐった。


「あーあ、腕がパンパンだ。おい盤古、少しは荷物持ちくらい手伝えよ」


「え、無理。私は物理干渉するのにも魔力使うんだよ? その魔力でアルトの背後をオシャレにデコレーションしてるんだから、感謝してほしいな」


「デコレーションいらねえよ! そもそもお前、さっきから浮いてるだけで何もしてねえだろ!」


空中を漂いながら、盤古は「本日の運勢」というホログラムを眺めて鼻歌を歌っている。街の人々には、スキルの実体は見えない。

ただ、アルトが一人で虚空に向かって怒鳴り散らしているようにしか見えないのだ。


そんな「いつもの光景」を切り裂くように、鋭い声が響いた。


「——相変わらずだな、アルト。平民が野犬に噛まれたような顔をして、一体何をしている?」


振り返ると、そこには磨き上げられた金色の鎧に身を包んだ男が立っていた。

かつてアルトと共に騎士養成学校に通っていた、伯爵家の次男ジュリアスだ。


彼の背後には、彼に従属する【上級スキル】を宿した精霊たちが、整然と隊列を組んでいる。


「......ジュリアスか。見ての通り、仕事帰りだよ」


「仕事? その程度の魔獣一匹を倒すのに、半日もかけることがか? 君の持つ【神域級スキル】があれば、瞬きする間に終わるはずだが......ああ、失念していた。君のスキルは『壊れている』のだったな」


ジュリアスとその取り巻きたちが、クスクスと下卑た笑い声を漏らす。


この世界において、スキルは個人の価値そのものだ。発動しない最強スキルなど、錆びついた宝剣よりも価値がないとされている。


「......壊れてねえよ。ただ、こいつがちょっとマイペースなだけだ」


「強がりを。国は君に期待していたのだ。平民の星として、どれほどの予算が組まれたと思っている? 君はそれを裏切り、ドブネズミのような生活に身を落とした。無能は無能らしく、さっさとその汚い袋を換金して、私の視界から消えろ」


ジュリアスが鼻で笑い、アルトの肩をわざと強くぶつかって通り過ぎようとした。


その時だ。


「......あ」

盤古が、読んでいたホログラムをパッと消した。

彼女の視線が、初めてジュリアスへと向く。


「ねえアルト。あの金ピカの男、すっごくムカつくんだけど。消していい?」


「やめろ馬鹿! 死ぬぞ、あいつが!」


「死なない程度に、ちょっとだけ運勢を『最凶』に書き換えてあげる。......えい」


盤古が可愛らしくウィンクし、指先で小さな輪を作った。

直後。


「ぐわっ!?」「な、何だ!?」


何もない平坦な石畳で、ジュリアスが派手に足を滑らせた。

不運は重なる。転んだ拍子に彼の鞘が外れ、大切な儀礼用の剣が跳ね上がり、あろうことか街角の肥溜めの中へと垂直に突き刺さった。


さらに、頭上を飛んでいた鳥の群れが、示し合わせたかのようにジュリアスの金色のマントへ一斉に落とし物を投下していく。


「な、なんだこれは! 何が起きている!?」


「ひぃっ、ジュリアス様! お、お汚れが……!」


阿鼻叫喚の騎士団。

アルトは、盤古がニヤニヤしながら指を弄んでいるのを見て、深いため息をついた。


「......お前な。やるなら、もうちょっとバレないようにやれよ」


「バレてないって。今の、ただの『偶然』だもん。ね、アルト。あのザマを見た後だと、安物の串焼きも高級肉の味がすると思わない?」


盤古は悪びれる様子もなく、アルトの肩に肘を乗せる(実際には透過しているが、アルトにはその重みが感じられた)。


「......まぁ、そうだな。一発殴る手間が省けたよ」


アルトは小さく笑い、騒ぎ立てる騎士団を背に、換金所へと歩き出した。


周囲からは「無能」と蔑まれ、スキルには振り回されっぱなし。

けれど、この不自由で、泥臭くて、たまに愉快な日常を、アルトは案外気に入っていた。


「おい、盤古。今日は臨時収入だ。ポテチ、2袋買ってやるよ」


「やった! さすが私の飼い主! 尊敬しちゃうなー」


夕暮れに染まる街角。

最強の力を持て余した二人の、賑やかな夜が始まろうとしていた。

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