第9話 自責
アカネを背負い、瓦礫の中を歩く。
雨は続いていた。
ミミは、濡れるのは嫌だから、と、直ぐに去って行った。
瓦礫の前に、立ち尽くす人々が視界を横切る。
アカネを、雨から隠せる場所を求めて歩いた。
屋根のある場所は未だ見えなかった。
「……いつもは、こんなにならなかったよね……」
白銀球には、いつも黒球が一緒に居た事を思い浮かべていた。
「……黒い奴らが張ってた壁、あれは、周りの人達を守って……」
言葉にすると、これまでの違和感が繋がっていく気がした。
「私は……」
足が止まっていた。
雨音だけが聞こえていた。
はっとして足を動かす。
けれど、心に芽吹いた疑念が消える事は無かった。
住宅街に着くが、灯りは消えていた。
街全体が黙祷を捧げている様だった。
崩れた塀の中、ひび割れた舗装路を歩いた。
アカネの家に着きチャイムを押すが、音は鳴らなかった。
玄関のドアをノックすると、アカネの母親が出て、ずぶ濡れの私たちを見て驚く。
中へと招かれ、タオルと着替えを渡される。
アカネの物だけれど、と、渡されたのは、可愛らしいリボンの付いた、黒いワンピースだった。
借りた浴室で身体を拭き、渡された服に着替える。
シャワーを使わせてもらおうと思ったけれど、お湯も、水も出なかった。
アカネの服を着た自分の映った鏡を見て、自分には似合わないな、と、思った。
暗いリビングに戻ると、丁度アカネを部屋に運んだアカネの母親が戻って来る。
「アカネに、何があったの?」
「……」
答えられなかった。
魔法少女として戦って、負けて、そのまま気を失っている、なんて。
私が俯いていると、アカネの母親が、ふう、と息を吐く。
「……さっきの地震で、電気も水も止まっているの。ご両親が心配するわ。アサヒちゃんも早く帰った方が良いわ。」
「……ありがとう、ございます……」
俯いたまま、お礼を伝える。
玄関に向かうと、これを使って、と、傘を渡された。
笑顔で手を振るアカネの母親に頭を下げ、雨の中へと歩き出した。
軽くなった背中が寂しかった。
一人になると、あの戦いが思い出された。
「……あいつ、なんで一人だったんだろう。」
雨が傘を叩く音が響く。
何度考えても、私の力が周囲に及ばない様、黒いのが防いでいたとしか思えなかった。
今回は黒い奴らが居なかった。
壁が無かったから、周りを、壊して、人も……。
疑念が、その形を成す。
気付くと涙が出ていた。
顔を袖で拭う。
その後で、アカネの服だった事を思い出し、しまった、と思った。
その思いも、直ぐに罪の意識に飲まれていく。
「……私は……私が、街を壊して、みんなを、殺して……」
堪え切れずしゃがみ込み、顔を伏せる。
私の声は雨音に消え、その姿を傘が隠す。
その場で、私は泣き続けた。




