表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の物語  作者: ピザやすし
第一楽章 魔法少女の物語
4/11

第4話 勝利

黒い魔法少女の姿が消える。

白銀球の正面から激しい閃光が生じる。

光を追う様に空気が、世界が震え出す。

生じた圧力の破断面が、アスファルトを引き剥がす。

周囲を取り囲む黒球が、覆う様に半透明の障壁を生成する。

大地を穿つ衝撃が、その壁で堰き止められる。

その中心に、輝く拳を真っ直ぐ前に伸ばす少女と、その拳を阻む緑に波打つ壁に守られた白銀球が在った。

「先手、必勝ぉぉおっ!」

咆哮と共に、もう一方の手を突き出した拳に添える。

両手を開き、光が集中する。

そして、その光が、激流となり放たれる。

光の圧に押され、白銀球を支える四脚が大地を削っていく。

「檻なんか作って、ここから逃さないって訳?生憎、逃げる気なんて無いっての!」

言いながら後ろに跳ぶ。

球体の上部が変形し、機銃を形作っていた。

その連射が少女の居た場所を穿ち、その移動に沿って動く。

少女の両手が光を握る。

現れた小剣を手に、踊る様に銃弾を弾く。

黒球の作るドーム状の障壁に弾かれた銃弾が当たり、その勢いを失い地に落ちていく。

銃撃を続ける白銀球から、二つの影が飛び出す。

それは鏡面の様に磨かれた表面を持つ、銀の鳥だった。

その鳥に向け、白銀球が光弾を連続で放つ。

羽ばたきながらそれを無秩序に反射させていく。

その一つが少女に向かう。

彼女はそれを難無く躱す。

「おっと。それくらい、見えるっての!」

距離を詰めるべく、その足に力を込める。

直後、背後からの被弾。

「わっ?!」

光弾が爆発を生じ、少女を吹き飛ばす。

覆う障壁もまた、光弾を反射させていた。

バランスを崩し、倒れていく少女を機銃連射が襲う。

咄嗟に地面を両手で押して跳ぶ。

そこへ、無秩序に飛んでいる様に見えた、複数の光弾が一斉に襲いかかる。

魔法少女に向けられていた声援がすっと止み、悲鳴へと変わる。


「おお……見える、目が、見える……」

負傷者を魔法で癒やしていく。

「もう大丈夫です。他に痛む所は御座いませんか?」

ありがとう、と、透明に戻った涙を流しながら、怪我人が感謝を伝える。

笑顔で感謝に応える。

そして、血溜まりに倒れたまま動かない人々に目を向ける。

笑顔が翳り、俯く。

怪我は直せても、死者を蘇生させる事はできない。

曇った表情で周囲を見渡し、怪我人が残っていない事を確認する。

死者の傍に膝を突き、泣きながら、身体を揺さぶりながら、声をかけている人の姿が目に入る。

その姿が目に焼き付く。

背後から、わっ、と驚く声と爆発音、そして、群衆の悲鳴が聞こえた。

ハッとして振り返る。

「アサヒさん?!」

前のめりに倒れていく少女が、伸ばした手で地面を弾き、宙に舞うのが見えた。

その場所へと、複数の光弾が集中する。

「っ!」

その光景に唇を噛む。

少女の足は、周囲を囲む黒球へと向いていた。


一点に収束した光が爆発する。

「ふぅ。」

緊張を解き、息を吐く。

爆煙の中から、ぼとり、と、少女が地面に落ちた。

「ぐっ……」

ゲホゲホ、と、咳き込みながら立ち上がろうとする少女に、機銃の先を当てる。

「勝負あったな、魔法少女。」

哀れみと、同情を抱えたまま声を掛ける。

「……それは、どうかな。」

少女の顔がこちらを向き、ニヤリと笑う。

直後、覆っていた防壁に亀裂が入り、パリン、と、音を立てて砕ける。

「なにっ?!」

砕けた障壁の欠片が、キラキラと輝きながら降り注ぐ。

同時に、アーマーの直下の地面が輝き出し、火柱が渦を巻き吹き上がる。

炎の圧に押され宙へと押し上げられる。

熱せられた外殻から、内部に熱が伝わってくる。

周囲を囲んでいた部下は、一人残らず姿を消していた。

「いつの間に?!」

思わず叫んでいた。

「アサヒさん!ご無事ですか?!」

「はは……何とか、ね。」

白い少女に支えられて黒い少女が起き上がる。

支えられた身体は、治癒魔法の淡い光に包まれていた。

「ノクティア、撤退だ。」

指導者の声が撤退を告げる。

「ルミナス?!一体何がっ。」

「戻ってから説明する。」

「くっ……」

視界が歪み、特有の浮遊感に包まれていく。

そして、私は夢の舞台から降りた。


支えられていた少女が、もう一人から離れる。

「助かったよ、アカネ。」

笑顔で感謝を伝える。

伝えられた少女も、笑顔で頷く。

静寂に支配されていた群衆が、わぁ、と、歓声を上げる。

人々の姿を見渡し、そして、死者の姿を視界に収め、動きが止まる。

二人の表情が曇る。

歓声に包まれる中、二人を沈黙が包む。

「……あいつらは、どうして、こんな事をするのかな。」

呟かれた言葉が風に散らされていく。

隣に立つ少女が俯く。

「……行きましょう。学校へ、行かないと。」

「うん……」

二人の姿が光りに包まれ、消える。

群衆は、二人が消えた後も、その熱に浮かされる様に、声を上げ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ