第22話 疑念
ルミナスがステージから降り、小屋へと戻ってくる。
外からはルミナスの名を讃える声が聞こえていた。
入り口近くの壁に寄りかかったまま、ルミナスにノクティアが声を掛ける。
「……らしくないな、扇動など。……良かったのか?」
ルミナスはノクティアに背を向けたまま立ち止まる。
ふう、と、息を吐き、軽く頭を振って答える。
「……ガス抜きも必要だろう。……いつまでも、死人の様に生きているのも不憫だ。」
「……」
ルミナスの背中に描かれた、明けの明星を見詰めていた。
「……満足な食事が手に入れば、多少は落ち着くだろう。……我々が、満足な暮らしを提供できていないのだ。」
ルミナスはこちらを向かないまま言葉を続ける。
「……ルミナス、本当は何を考えている?」
「……十万の犠牲は看過できない。……私が、ベストを選べていないのも、認識している。……結局、私のやっている事は、何なのだろうな。」
「……父さん……」
ルミナスの身体が一瞬強張る。
「……人々を救いたい。その想いだけは、以前と何も変わっていないんだ。それだけは、信じて欲しい。」
ルミナスの穏やかな声に、少し力が戻った様な気がした。
外からは、変わらず熱狂が響いていた。
「アカネはさ、どう思う?夢を、壊して、良いのかな。」
制服を着て、学校へと向かって歩く二人の姿があった。
少しずつ生活が戻っていた。
体育館は未だ避難所として利用されていた。
出席も任意で、授業内容も半数は自習であった。
アカネは歩みを止めないまま、穏やかな笑顔を浮かべて答える。
「……ここで話す内容も聞かれているのかも知れませんが、次のシナリオの被害は甚大です。それを防ぐ、と言うだけでも正当化できると私は思います。」
言葉を切り、アカネが立ち止まる。
アカネに合わせて私も歩みを止める。
目を閉じ、少し俯いていたアカネが顔を上げる。
その顔には、いつもと変わらない穏やかな笑顔があった。
「……ぁ……」
ぞくりとした。
いつもと変わらない、穏やかな笑顔のアカネ。
開いた目が私に向けられ、その瞳に魅入られたように、私は動けなかった。
「……私は、火災旋風だとか、十万人を犠牲にするだとか、正直な所想像できていません。……ですが、私にはどうしても許せない事があるのです。私達に魔法少女の力を下さった男性が仰っていました。君たちの事は知っている、と。」
背筋に冷たい物が流れ、呼吸すら忘れ、アカネを見詰めていた。
圧倒され、その言葉をただ聞いていた。
「その時は、言葉の意味が分かりませんでした。ですが、今は分かります。私の苦しさも、アサヒさんの怪我も、全て仕組まれていた物だったんだ、と。……だから、その様な奴等の思惑なんて、全て壊してしまいたいのです。」
アカネが視線を外し、俯く。
緊張が解けると共に、汗が吹き出す。
どっどっ、と脈打つ心臓の鼓動が頭に響いていた。
「……結局、私はただ流されているだけでした。あの頃も、今も。そう望まれているから、そうあるだけと。……ですが、アサヒさん。」
アカネが真剣な顔で私を見る。
そこに、先程までの圧は無かった。
「……」
「私は、アサヒさんに救われました。辛い地獄の様な日々から、その呪縛から、私を解き放ってくれたのはアサヒさんなのです。ですから、思い通りに演じてやらないのは私の意思です。私は、心すら操られ、思い通りにされるくらいなら、この世界なんて壊してしまおう、と思っています。」
「……そうだね、ありがとう。……私も覚悟ができた。思い通りになんてなってやらない。アカネを苦しめて、選択肢を奪って私達を魔法少女にして、ずっとそれを上映していたヤツのシナリオは壊す。……海で、皆に誓ったしね。憎しみを届けてやるって。」
言葉にすると、胸の奥がすっと軽くなった気がした。
思わず笑いがこぼれた。
私が笑い出すと、アカネもクスクスと笑い出す。
その場で、二人で大きく笑い合った。
視界の端に虹色の光を纏った動物が入る。
「二人とも!目覚めの明星だよ!」
すっと真顔になる。
アカネに顔を向けると目が合う。
二人で力強く頷く。
私達の覚悟は決まっていた。




