第20話 作戦
夢に戻った翌日、ノクティアから連絡があった。
『次の演目の予定が来た。二人とも作戦を共有したい。こちらに来てもらえないか。』
私達は、その為に役所の図書室に来ていた。
復興も進みつつあり、物流も戻っていた。
住居と職を失った人々だけが、避難所と配給で生活していた。
図書室の復旧は後回しにされ、私達は変わらずそこを利用していた。
うなじに右手を当て、言葉を発する。
「こちらアサヒ。いつでも大丈夫だ。」
アカネの表情を伺う。
凜とした表情で頷いてみせる。
『承知した。目覚めのシーケンスを起動する。……安心しろ。こちらは目覚める前提の設備だ。楽に目覚められる。』
「……分かった。」
目覚めの時の、気持ち悪さが思い出される。
『二人とも、右手をうなじに当て、こちらとの通信を繋いだまま目を閉じてくれ。』
指示に従い、目を閉じる。
ふわりと浮く様な感覚。
力を抜いた状態で、水面に浮かび上がる様な、そんな感覚。
それが、二度目の目覚めの感覚だった。
「おはよう、二人とも。」
ノクティアの声に、ゆっくりと目を開ける。
寝台に横たわったまま、私達は現実へと戻ってきた。
「……この格好は?」
夢に戻ったときの格好と異なり、病院で生活しているときの様な寝間着になっていた。
「ああ、肉体は色々とケアが必要でな。やりやすい様に着替えさせてもらった。ユニット内部では自動で行われているのだが。……すまない、事前に伝えておくべきだったな。」
ああ、と、納得して、言葉を促す。
「……それで、次の演目って。」
ノクティアの目つきが変わる。
「ああ、魔法少女としての演目だ。……ルミナスの執務所で話そう。」
話している間に、白衣の女性が私達のうなじからコードを外し、着替えを用意してくれていた。
それに着替え、ルミナスの部屋に入り、ノクティアに続いてその対面に私とアカネで並んでソファに座る。
「……来てくれたか。」
前よりも疲れた顔をしたルミナスが、数束の紙を持ってノクティアの隣に座る。
「これが、連中が用意した次のシナリオだ。」
ルミナスが紙を配る。
ノクティアの顔を窺い見ると、彼女は腕を組んで目を閉じていた。
「……まずは、謝らせて欲しい。すまなかった。私は、上層部に言われるがまま、君たちの敵を演じていた。……ノクティアにも、それを知らせていなかった。私の独断だ。本当に、すまなかった……」
それは、これまでの惨劇は、演目のために用意されていたシナリオだった、ということだった。
何を言われているのか、直ぐには分からなかった。
直ぐに、腹の奥から、煮え滾るような熱が膨らむ。
「それじゃあ!……あの、犠牲も……っ!」
立ち上がりそうになる私の腕を、アカネが掴む。
「……それで、そのシナリオを書いた方は、次はどの様な要求をされているのですか?」
私の腕を掴むアカネの表情は冷たかった。
けれど、手から伝わる熱と怒りは本物だった。
「……次は、火災旋風を起こすつもりだ。都市部を、全て焼き払う、と。」
「っ!」
アカネの顔が歪む。
「で、でも、そう簡単に、都市ごと焼き払うなんて……」
「君たちの力の源、ミミと呼んでいる生き物がいるだろう?あれは、ミミックという、外部からの干渉プログラムだ。その姿を自在に変えられる事から、ミミックと呼ばれている。」
ルミナスが静かに語る。
「あれの能力を段階的に解放する、と。苦戦する君たちを前に、能力が解放され、その力が周囲を巻き込む算段だ。」
波に流された街並みが浮かんだ。
あの戦い、あの被害、その全てが、こんな、筋書きで。
「……アサヒ、さん?」
アカネが心配する様にこちらを見る。
私は、どんな顔をしていたのだろう。
言葉として形にできない思いが渦巻いていた。
「そして、ミミックは私達も持っている。」
「……え?」
アカネが反応する。
「私から話そう。私達が使っている球体があるだろう?あれは自律的に動作しないだけで、同じミミックなんだ。だから、魔法少女の力に拮抗できる。」
ノクティアが目を伏せながら話す。
「……今回の上層部の要求としては、魔法少女を追い詰め、力の覚醒の演出に導く。そしてもう一つ。ノクティアを、球体から出せ、と。」
「……私に、ミミックを纏って戦え、と言う事だ。前回、姿を見せたからな。多少でも、華やかな方がお望みなのだろう。」
ノクティアは、眉を顰めながら言う。
「……私は、この要求を受けない。」
ルミナスが明言する。
「このシナリオでは、住民約十万の命が失われる。……もう、犠牲には加担しない。」
演目とは別の、裏シナリオが説明される。
途中まではシナリオ通り、ミミックの力の解放と共にシナリオから脱して、夢の機構を破壊する、と。
そのタイミングで、作戦に成功が見えなければ撤退の連絡を。
連絡がなければ続行。
この、歪んだ搾取構造を、根底から覆す、と。
そう語るルミナスの顔は、かつて見た、理想を宿した姿に見えた。
ただ、その瞳には、理想の光は戻っていなかった。




