表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の物語  作者: ピザやすし
第三楽章 夢から覚めて
18/20

第18話 悔恨

劇場の舞台に鎮座するスクリーンの光が消え、幕が下りる。

照明が緩やかに灯り始める。

場内が明るくなっても、まだ、沈黙が横たわっていた。

私は、その中で、動く事も、声を出す事も出来ずに居た。

私達の生活が、それらが、ここではただの作品として消費されていた。

ノクティアは目を閉じたまま、腕を組んでいた。

アカネは、俯いて目を閉じ、振るえていた。

誰かが拍手をする。

その音は少しずつ伝播し、万雷の拍手となって劇場を包む。

そこで初めて、心が戻ってきた様な気がした。

怒りが、湧き上がってくる。

「……行くぞ。……これ以上、見なくても良いだろう。これが、この世界の構造だ。」

ノクティアが静かに言う。

その言葉は、私達に向けられたものだけでは無かった様に感じた。

「……分かった。」

納得は出来なかった。

けれど、出来ることは何一つ無かった。

ここでは、私達も、何の力も持たない。

下へと戻る道中、私達に会話は無かった。


下に戻ると、大きな鍋が並べられ、具材の沢山入ったスープが配られていた。

離れた場所では、布を纏った人たちが、衣服を受け取るための列を成していた。

ノクティアがその様子を見ていた。

人々の顔に、ほんの少しだけ、光が戻っている様に見えた。

「……お前たちも、一度夢の中に戻ると良いだろう。家族が、心配しているのだろう?」

「……うん。」

俯きながら、返答をする。

こっちだ、と、ノクティアに案内された場所は、何か機械の設置された簡易的な寝台の並ぶ小屋。

「ここから、夢の世界に入れる。ジャックを繋いで、横になってくれ。」

アカネと顔を合わせ、頷き合う。

隣り合う寝台に身体を預け、ジャックを首に差し込む。

部屋の装置を管理する端末を、ノクティアが操作していた。

「……?これは……」

ノクティアの手が止まる。

「どうかしたのか?」

「いや、何でも無い。……二人は、目覚めた時の場所に戻る、で、良いのか?近くに誰も居ない様だ。誰の目にも触れずに戻れるだろう。」

「ありがとうございます、ノクティアさん。しかし、夢の中から、こちらへは戻れるのでしょうか。」

アカネの疑問に、私もそう言えば、と、思う。

「大丈夫だ。楽に起きられるし、連絡を取る方法もある。ここは、そういう施設なんだ。まあ、体験するのが早いだろう。眠ったら直ぐに連絡する。それでは、また。」

「ああ、おやすみ。……で、良いのかな。」

アカネとノクティアが、ぽかんとした顔をする。

直ぐに笑顔を浮かべる。

「ああ、おやすみ。」

身体の力を抜き、目を閉じる。

意識は直ぐに溶けていった。


役所の図書室。

私達二人はそこにいた。

目覚める前と同じ姿で。

「ここが、夢。」

「ええ。……私達は、ここが夢だと、知ってしまいました。」

アカネの表情は硬かった。

『ノクティアだ。聞こえるか?』

「ノクティア?」

「……連絡が取れる、と仰っていました。」

アカネは冷静さを保っていた。

『あー、聞こえているなら、うなじの、ジャックの差込口のあった辺りに手を触れてくれ。その状態で話せば、こちらに聞こえる。』

右手をうなじに当てる。

「こちらアサヒ。無事に戻って来た。」

『それは良かった。これが、連絡を取る方法だ。何かあれば、そうやって連絡してくれ。私でなくとも、誰か反応するだろう。』

「分かった。ありがとう。」

「……ノクティアさん、私達は、これからどうすれば?」

アカネが尋ねる。

確かに、私達は、ここが夢であること。

そして、常に誰かに見られている可能性がある事を、知ってしまった。

『……まずは、家族に元気な顔を見せると良い。……恐らくは、演目の為に、また、戦う事になるだろう。今は未だ、普段通りの生活をしていてくれ。』

「……分かりました。」

『通信の確認もできた。またな。』

「ああ、ありがとう。」

手をうなじから離す。

アカネと目が合う。

「とりあえず、帰ろうか。」

「ええ。」

配給所に、私達の親が居た。

私達の姿を見ると、二人は駆け寄り、抱きしめてくれた。

その目に、涙が浮かんでいた。

私達は、罪悪感を抱えたまま、ただいま、と、そう伝えた。


「ルミナス、少し、時間を貰えるだろうか。」

食料を配りながら、ルミナスは人々に声を掛けていた。

「ノクティアか。分かった。」

ルミナスが執務を行っている部屋に入る。

ルミナスは自分の机に向かい、私は置かれたソファに座る。

「二人を、一度夢に帰した。」

「……そうか。……彼女達は、何を感じただろうか。」

「……。ルミナス、私は、彼女達を、夢の中に入れたんだ。」

ルミナスの顔が、一瞬戸惑いを見せる。

そして、直ぐに元の表情に戻る。

組まれた手が、落ち着かなく動いていた。

「……そうか。無事に、戻れたのなら、良かった。」

「ルミナス、夢に入る時の座標指定は完璧だった。……そして、以前の指定座標を、確認させてもらった。」

「……。」

「何故だ、ルミナス。何故……。あの破壊は、犠牲は、仕組まれていたものなのか?!」

ルミナスは俯いたまま、沈黙を保っていた。

「答えてくれ!ルミナス……」

「……仕方なかったのだ。人々を目覚めさせるにつれ、この組織が大きくなるにつれ、自給自足の生活では追い付かなくなっていった。……そこに、資金と、物資を、提供する、と。」

目を閉じたまま、懺悔をする様にルミナスが言葉を紡ぐ。

「ルミナス……」

「……私は、私の理想に、耐えられなかった。その力が無かった。……この牢獄を維持する事は、何も知らずに生きる事は、それは一つの正しさなのではないのか、と、そう、思ってしまったのだ。」

静かな部屋の中に、外の喧騒が届く。

「……連中は、前回以上の犠牲を起こそうとしている。私は、それを断れなかった。……外では、皆、食べ物と衣服に喜んでいる。それらの為に、私は、それを、受け入れたのだ……」

「……」

ルミナスは震えていた。

その、俯いた顔の先に、水滴がポツポツと、落ちていた。

私は、父のその姿に、何も、言葉を掛けられなかった。

第三楽章 夢から覚めて 閉幕

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ