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魔法少女の物語  作者: ピザやすし
第三楽章 夢から覚めて
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第17話 消費

ドアを開け、見えた景色は、夢の中に戻ったのかと、一瞬思わせた。

街灯の下で奏でられる音楽に、人々が集まっていた。

演奏が終わると、指笛を鳴らし、拍手で称賛を贈る。

それらに恭しく礼をして見せる演者。

煉瓦が敷かれた広場は、家族で行った、遊園地の様に見えた。

風船を持って走り回る子供達。

賑やかな街の景色が広がっていた。

「こっちだ。」

ノクティアの後を追う。

豊かで、平和な空間が築かれていた。

劇場の入口でチケットを渡す。

半分に切られ、一方を返される。

それを受け取り、奥へと進んでいく。

賑やかな劇場のエントランスの上部に、巨大なスクリーンが壊れた街を映していた。

「アサヒさん、あれって……」

「……ああ、私達の街だ。」

配給に並ぶ人々。

その中で、周囲の人々に声をかけている人達が見えた。

私達の両親だった。

「っ!」

音は聞こえなかったが、きっと、私達を心配して、聞いて回っているのだ、と、思った。

アカネの息を飲む音が聞こえた。

「……夢の中を、こうやって上映しているんだ。……この世界の、最大の娯楽だ。」

静かに語るノクティアの目は、スクリーンの、更にその先を見ている様に感じた。

「……中へ行こう。……ああ、ジャックは首に挿さなくて良い。」

はっとして手をうなじに伸ばす。

そこには、固く、穴の空いた手触り。

周囲を見渡すと、皆、うなじに小さな金属製の穴が空いていた。

「……これって……」

「……産まれると直ぐ、取り付けられるらしい。上級層は任意だが、私達、下層の民は、強制的に付けられ、そして眠らされ続ける。……そこで見ている夢が、あれだ。」

ノクティアの目が、頭上のスクリーンに向けられる。

ノクティアは、配給に並ぶ人々の、懸命に生きる姿を、じっと見ていた。

すっと顔を戻す。

「行こう。もう直ぐ始まる。」

歩き出すノクティアについて行く。

指定の座席に着き、前を向く。

舞台には幕が下ろされていた。

既に多くの人が席に着いていたが、私達が来た後も、続々と人々が入ってくる。

ざわざわとした波が、劇場に渦巻いていた。


劇場の灯りが静かに落ちる。

ざわざわとした場内から、すっと話し声が消える。

「レディースアーンドジェントルメーン!」

暗く、静寂に沈んだ劇場に、スポットライトを浴びた声が響く。

応じる様に観客席から歓声が上がる。

「本日、お送りするのは、様々な、想いの物語。」

トーンを抑えた座長の声に、歓声が静まる。

一拍の間を置き、観客を見渡しながら語りかける。

「皆様の、正面に備え付けられたスクリーンで観るも、席に備え付けられた端末で、自らその一員として参加するも、貴方の自由です。」

優しい声を受け、姿勢を整える者、座席から伸びたコードをうなじのジャックに挿し込む者。

それぞれのスタイルで上映に備える。

座長が観客を見渡し、小さく頷く。

「それでは本日も、ささやかな夢を、どうぞ、心行くまで、お楽しみくださいませ。」

座長が恭しく頭を下げる。

劇場を拍手が包む。

音が消え、静寂が戻ると座長は顔を上げる。

そして静かに、袖へと去って行く。

座長を追うスポットライトが、姿を消すのに合わせて光を失う。

コードを挿した者は目を瞑り、座席にその身を預けていた。

上映前のアナウンスが流れる。

「皆様に、安全にお楽しみ頂くための告知です。ジャックに挿したコードが、しっかりと奥まで挿さっていることを、再度ご確認ください。」

形式的なアナウンスに、繋いだ者達が一斉にその手をうなじへ伸ばす。

奥まで挿し込まれている事を確認し、皆、楽な姿勢へと戻る。

一瞬ざわついた劇場が、その波を落ち着かせる。

そして、開演を告げるブザーが響く。

スクリーンを覆う幕が静かに上がる。

暗く、静かな劇場に、スクリーンから青空の光が注がれる。

そこに映し出されたのは、配給所として、避難所として利用されている、私達の学校。

映像が、校舎を映しながらゆっくりと移動していく。

そして、校舎裏の茂みへと沈んでいく。

映されていたのは、一組の男女。

「あれって……」

思わず出た声に、ノクティアがしっと、指を口に当てる。

アカネに顔を寄せて耳打ちする。

「あれ、サッカー部の先輩と、うちのクラスの、マネージャーの子だよね。」

「ええ、間違いありません。」

『先輩、これ、作ってきたんです。』

劇場に備え付けられたスピーカーから音声が流れる。

『ありがとう、キョウコ。』

差し出された小箱を受け取り、リボンを解く。

「……こんなとこで、何してるのかな。」

小声でアカネに尋ねると、アカネは顔を赤くしていた。

「……悪趣味な事だ。」

ノクティアの呟きが聞こえた。

ノクティアは腕を組み、目を閉じていた。

『うん、美味しいよ。』

箱から取り出したクッキーを一つ、口へと運び、微笑む。

『良かった。……あっ……』

安堵の表情を浮かべる彼女の腕が引き寄せられる。

スクリーンに大きく二人の顔が映し出され、その唇が触れる。

ひゅう、と言う声が、劇場内から聞こえた。

『せ、先輩、あの……』

二人の身体がゆっくりと離れる。

『続きはまた後で、ね。』

『……はい。』

赤くした顔を俯かせる。

アカネも、顔を赤くして俯いていた。

私も、スクリーンを直視できなかった。

その後、二人は、使われていない、まだ散らかったままの校舎内へと入っていく。

そして、その様子が、様々な角度から、距離から、上映されていた。

人気の無い教室での行為も、その全てが映されていた。

――クラスメイトの声が、耳から離れなかった。


その後も、様々な人々の暮らしが映された。

とてもプライベートな行為も、家族との感動的なシーンも、ただ、そこに映されていた。

観客は小さな声を漏らしながらも、それを楽しんでいるようだった。

私は、映像も、それを見る観客も、理解できずに居た。

画面が、臨海公園を映す。

「っ!」

思わず、身体が強張る。

ノクティアが眉を顰め、肩を震わせるのが見えた。

波の音が響き、空を舞う鳥の声が聞こえる。

誰も居ない公園を、幼い娘の手を引いて歩く、窶れた女性の姿が映し出される。

崩れた灯台の傍に、誰かが積んだ、瓦礫で作った墓標。

その前に、花や菓子が並べられていた。

その女性も、慣れた手つきで古くなった花を取り除く。

周囲を簡単に掃除した後、持ってきた花を飾り、菓子を置く。

そして、墓標の前に写真立てを置く。

男性と女性、その間に立つ幼い少女。

写真の中では皆、笑っていた。

写真を前に、手を合わせる。

娘も、その姿を真似て手を合わせる。

『……コウヘイさん。……今度の休みは、皆で旅行に行こうって、初めての家族旅行だねって……。子供の手が離れたら、二人で田舎の広い家に引っ越して、犬と猫を飼って、笑い合いながら暮らそうって、そう、話していたのに……』

感情を抑えた声が、より悲痛に感じられた。

静まった劇場に、波の音、鳥の声、そして、女性の言葉が、響く。

『私、お腹に赤ちゃんがいるの。あの後で分かったの。……でも、私、どうして良いか、分からなくて。……貴方が居ないと、私、駄目だった。不安なの。』

鼻を啜る音と、嗚咽が聞こえ始める。

『コウヘイさん、ごめんなさい。……貴方は、絶対に許してくれないと思う。けど、私ね、もう、決めちゃった。』

表情は穏やかだった。

柔和な笑みが浮かんでいた。

娘と手を繋いだまま、灯台跡から崖の方へと進んでいく。

立入禁止のフェンスは折れ曲がり、その役目を果たしていなかった。

崖にぶつかる波の音が空気を揺らす。

風に長いスカートが翻る。

青い空に、白い鳥が浮かんでいた。

風に乱された髪を掻き上げる。

『コウヘイさん、貴方の許へ、行かせてね。』

娘を抱き上げる。

娘は母親に抱かれ、笑顔を作る。

母親も、笑顔で娘を見詰める。

そして、その身体が、崖から倒れていく。

ひっと劇場に小さく悲鳴が響く。

その姿は、波の音に掻き消されていった。


青空は、どんな出来事も、等しく、覆い隠していく。

波の音、鳥の声が、青空と共に残されていた。

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