第16話 堕天
「前回の上演から、間が空いております。次の上映を望む声が幾つも届いております。」
落ち着いた女性の声と共に、円卓の中央に、寄せられた言葉と、件数が映される。
「あれは、演目としての満足度は高かっただろうが、生体ユニットの損耗が大き過ぎる。区画一つ潰すとは。」
白髪の男性が、張りのある声を上げる。
「……人は、満足などしないのだ。より、もっと、を、求める。我々は、それに応えねばならん。」
会議室の、入口から最も遠い位置に座る男性が答える。
「……一つ、良いだろうか。」
落ち着いた声で、藍色のローブを着た男性が片手を軽く挙げ、発言を求める。
「何だね。告醒会には、充分な額を寄附した、と、思うが。」
「……先の発言に続けるのだが、生体ユニットの損失の五万というのは、やはり多過ぎるのでは無いだろうか。……外に、目覚めて来た者も、一万を超える。」
「それが何だというのだね。五万規模なら、次は十万だ。観客はより、熱狂するだろう。」
白髪の男性が即座に反応する。
「十万も潰しては、街が一つ消えるぞ。どれだけ演算性能が落ちると思っている!疑惑を持たれては、夢が維持できん。」
「なら、立ち入り禁止にしてしまえば良い。詳細が保てる様になるまで、避難区域に指定する。その規模の、破壊のカタルシスだ。」
後ろに控える女性から、葉巻を受け取り、つまらなそうに口へと運ぶ。
告醒会の男性が立ち上がり、声を上げる。
「待ってくれ!既に、外は食料も、土地も、衣服も不足しているんだ。……その規模で、人々が目覚めたら、告醒会が、人々の暮らしが、成り立たなくなる……。」
「……身体フィードバック係数を上げている。目覚めぬよ。……そのまま、ユニットは廃棄だ。」
「っ!」
嫌悪を込め、睨み付ける。
その手は、強く握られていた。
「……魔法少女に、それをさせるつもりか。……彼女達は、まだ、子供なんだぞ……」
「子供ならば、誰もが憧れる、正義の、魔法少女、だ。告醒会には、引き続き、悪を演じてもらわねばならない。……次の寄附は金銭よりも食料と衣類、寝具を優先しよう。ああ、開拓に必要な道具も、かな。」
「……」
告醒会の男性が俯く。
「ミミックの能力も、一段階上げておこう。いや、十万規模ならもう二段階かな。隕石程度の威力では足らぬからな。……くくく。」
――ミミック、ミミと呼ばれている、魔法少女の力の根源。衣装に擬態するマスコットキャラクター。
堪えきれず、笑いが漏れる。
「……失礼する。」
告醒会の男性が円卓から去っていく。
「詳細は追って伝える。次も、また派手に頼むよ、ルミナスくん。」
「っ!」
奥歯を噛み締め、ルミナスが会議室から退出する。
その背に、大きな笑い声が向けられていた。
「教祖様。」
部屋から出ると、部屋の外で待機していた同じ藍色のローブを来た女性が声を掛ける。
「……すまない、大丈夫だ。それより、物資の手配は?」
「はい、滞り無く。既に荷を下ろし始めています。」
「そうか……」
張り詰めていた緊張がふっと解ける。
……たった一万の人々すら、私は満足に救えずにいるというのに、あの連中は、次は十万も、犠牲にする、と。
沸々と怒りが湧き上がる。
「教祖様……」
女性が心配そうに声を掛ける。
「……すまない。……謝ってばかりだな、私は。……行こうか。物資を運ぶのを手伝おう。」
「はい。」
ルミナスの目に、光は無かった。
ただ、目の前の事に対処するだけで、彼は手一杯だった。
その為に、掲げた理想を自らの手で折り、生きる為に、生かす為に、堕ちるしか無かった。
ローブの背に描かれた、明けの明星と目覚めを告げる鶏。
二人の足音が、遠ざかっていった。




