第14話 偶像
薄暗い建物の出口が開いていく。
光が差し込み、砂と共に、乾いた風が吹き込む。
少しずつ開いていく出口の隙間から吹き込む風が、ひゅー、と、音を鳴らしていた。
そして、眩しい光に思わず顔を手で庇う。
掌で影を作り、外を見る。
そこには、同じ様な布を纏った人々が、ただ、座っていた。
一瞬、その姿を人形かと思った。
彼等は億劫そうに、私達の姿を一瞥し、直ぐに興味を失って元の姿勢に戻っていく。
そんな人々の姿が、見渡す限りに広がっていた。
「……これが、現実?」
夢の中に居た、生きる為に、懸命に水を運ぶ人々。
ここに居るのは、生きる意味を失い、ただただ虚空を見る人々。
アカネが、大きく目を見開いて、そのまま固まっていた。
「……あの災害で、殆どの者は死んだ。……ここに居るのは、あの時目覚めた者達だ。」
真剣な眼差しで彼等を見ながら、ノクティアが言う。
「……あれ程、解放を、と、掲げておきながら、実際に一万もの人々が目覚めたら、食料も土地も、着る物も、何もかもが、足らないんだ。」
悔しさと、悲しみの混じり合った表情で絞り出した言葉には、悲痛さが滲んでいた。
「……我々の指導者へ会わせよう。」
歩き出すノクティアの後に続く。
生気を失い、虚ろな目で遠くを見詰める人々の姿は、悪夢の様に思えた。
「ルミナス。」
テントの中にノクティアが入ってくる。
筆を止め、そちらに目を向ける。
ノクティアの後ろに、ノクティアよりも若い少女が続いて入ってきた。
「……彼女たちは?」
「こちらから、アサヒとアカネ。魔法少女だ。」
「っ!」
思わず立ち上がり、机に当たった衝撃でペンが床に落ち、インク瓶が倒れる。
「ああ、すまない。」
倒したインク瓶を戻し、筆を拾う。
インクがその黒を紙に広げていく。
「大丈夫か?ルミナス。その手紙は大切なものだったんじゃ……」
「手紙は書き直せば良い。……それより、魔法少女が、何故、ここに?」
零したインクを拭きながら椅子に座り、姿勢を正す。
少し茶色い紙のほぼ全面に広がった黒は、まるでそこに空いた穴の様に見えた。
長い髪の少女が前に出る。
「私達は、本当の事を知りたいのです。……私達の暮らしは虚構で、ここが、現実だと。」
意志の灯った、明瞭は声が響く。
「……知って、どうするのだ。……知らなければ、平穏な夢を、見ていられただろうに……」
俯き、絞り出した声は、自分でも驚く程に、力が無かった。
「……ルミナス?」
ルミナスの様子は、明らかにおかしかった。
人々の解放を掲げ、解放した人々が生きる為に、今も手を尽くそうとしている男が、今、一体何と?
「……すまない。挨拶がまだだった。私はルミナス。この、告醒会を導いている。」
ルミナスが立ち上がり、歩いて来る。
二人の前で立ち止まり、しっかりと握手を交わす。
その様子を見ながら、予定を伝える。
「二人には、明日、劇場を見てもらおうと思っている。」
「……劇場?」
アサヒが疑問を発する。
「お前達の夢を、娯楽として消費している場所だ。……その目で、確かめると良い。」
二人が頷く。
「それでは、我々はこれで失礼する。」
二人が頭を下げて付いてくる。
劇場に行くからには、二人の衣服を調達しないと。
そう考えていた。
「……魔法少女、だ。」
声の方に顔を向ける。
恐らくテント内の会話を聞いていたのだろう。
「……あ……ああ……」
私達の姿を、涙を浮かべながら彼は見ていた。
いずれ、魔法少女がこちらに居ることは明かすつもりだった。
あくまで彼女達が、我々に賛同してくれるのなら。
「……少し、不味いな。」
強制はしたくなかった。
幸福な夢を見続ける事を、誰が責められようか。
皆、救済の象徴が欲しいのだ。
それを、この少女達に負わせたくは無かった。
魔法少女が居る、と、その日の内に、拠点中に広まった。
魔法少女へ祈りを捧げる声が、夜遅くまで木霊していた。




